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「音」は、わたしたちの周りの前後左右そして上下と、あらゆる方向にある。それを捉える「鼓膜」は頭の側面に付いた「耳」の中に組み込まれている。ここで捉えられた「音」は中耳、内耳などの器官を経て、脳に送られる。霊感灼かな素晴らしい音楽も、大気を汚していく雑音も、この同じ道を通って心に届くのである。
電気を使った録音や拡声の場合、生の音の入り口、つまり人間の耳に相当するのはマイクロホンだ。便利なライン入力全盛の時代とはいえ、この事実は変わらない。だからマイクロホンを知る事は、自然音響(生音、アコースティック)の理解につながり、マイクロホンの使いかたを覚える事で、録音や拡声の腕前もさらに上がって行く。計り知れない魅力と奥の深さを持つ音の世界への第一歩を、まずマイクロホンから始めてみよう。
わたし達がふだん耳にしている「音」は空気の振動だ。音楽の世界では「いい感じ」の事を「グッド・ヴァイブレイション(good vibration)」と言う。
この「ヴァイブレーション」あるいは「ヴァイブ」は「伝わってくる振動」の事でもある。マイクロホンはその空気振動を機械的振動に変え、それを電気信号に変換する道具だから、空気の振動を受け取る部分と電気を起こす部分から成り立っていて、そのやり方でいくつかの種類に分けられる。大きく分類するとダイナミック型、コンデンサー型、クリスタル型、カーボン型、などになる。








ダイナミック型
動電型とも呼ばれ、空気の振動で磁石の中のコイルや金属箔を動かして電気を起こす。大別してムービングコイル方式とリボン(ヴェロシティ)方式がある。 現在ダイナミック型と言えば、音で振動する膜に付いたコイルが動く構造を持ち、なじみやすく安定した力強い音が特長の、ムービングコイル方式が圧倒的だ。本体も軽く頑丈で、最も一般的なマイクロホンと言える。ライブ・ステージの定番モデル、シュアーSM58がその代表格。誰でも知ってるあのカタチだ。
周波数特性 感度 電源 対風圧 耐久/耐候性 用途
中域が強い 良好 不要 頑丈 ライブ・ステージ/カラオケ
コンデンサー型
別名静電型。振動膜にあらかじめ電気を貯めておいて(これがコンデンサー)、音を受けてこの振動膜が動くと電圧が変わる原理を応用している。高い周波数に敏感で、なおかつ歯切れの良い音が特長。しかし旧来のDCバイアス方式は複雑な回路を持ち、直流で数十から二百ボルト位の電圧の供給が必要で取り扱いが大変だった。また精緻な構造ゆえに風圧にも弱く、使える環境にも限りがあった。
ただ大きな振動板を使う再現性に優れた繊細な音質特性は大きな魅力で、永年にわたって改良が続いた結果、欠点を克服した名器がたくさん生まれた。今でも敢えて真空管を使った新製品などが次々と発表されている。
現在のスタジオ録音用の主流は、このDCバイアス・コンデンサー・マイクロホンだ。その後エレクトレット方式が出現する。これは複雑な電気回路を、テフロンなどの特殊な高分子材料の半永久帯電現象(静電気/エレクトレット現象)に置き換え、簡便に扱えるようにしたもの。乾電池程度の電源で作動可能となったので、一般用に大いに普及した。近年ではスタジオ録音分野に進出の兆しもある。
種別 周波数特性 感度 電源 対風圧 耐久/耐候性 用途
DCバイアス 伸びきる高音 敏感 高電圧要 極弱 スタジオ・レコーディング
エレクトレット 伸びきる高音 敏感 要(電池可) 普通 一般録音全般/放送アナウンス
その他
リボン(ヴェロシティ)方式は、歴史的に有名なRCA77に代表されるように、柔らかく自然な暖かさをもった音が自慢。ただし音に震える繊細なリボン状の金属箔は衝撃や風圧に弱く、またそれを守るために本体が大きく重いので、環境の安定したレコーディングスタジオや放送局などで主に使われた。全盛期は60年代半ばまでだが、今も新製品を発表しているメーカーがある。
周波数特性 感度 電源 対風圧 耐久/耐候性 用途
豊かな低音 繊細 不要 極弱 ひ弱 スタジオ・レコーディング
(特にヴォイス)/
放送アナウンス(昔)
水晶の薄い板に空気振動を加えるとその中に電圧が発生する現象、別名「圧電効果」または「ピエゾ原理」を利用しているのが「クリスタル」型。水晶の代わりには、セラミックなどの化学合成品も使われる。小型軽量で低コストゆえかなり普及したが、耐久性/耐候性に問題が多く第一線からは退いた。歪みやすい特性を利用して一部、ブルースハープ用などには生き延びているようだ。
現在この「ピエゾ原理」はエレクトリックアコースティック(俗に言うエレアコ)ギター用などに活路が見出されている。これは空気振動ではなく直接振動そのものを拾うため、厳密にはマイクロホンではなくピエゾピックアップと呼ばれ、今も新開発の製品が発表されている。
周波数特性 感度 電源 対風圧 耐久/耐候性 用途
ほどほど まあまあ 不要 虚弱 一般録音(昔)/
ギターなどアコースティック楽器用(ピックアップ)
「カーボン」型は、1877年にエジソンが発明した歴史あるもの。炭素粒(カーボン)の電気抵抗が圧力で変化する性質を利用している。あらかじめ専用電源で電流を通しておくためコンデンサ型の一種とする分類もある。1920年代後半のトーキー初期映画時代から活躍し、50年ほど前まではNHKでも使っていたが、雑音が多いので録音の現場からは次第に姿を消した。感度が高く故障も少ないという長所があり、音質を問わない電話機の世界では長いこと主流にあった。その後ダイナミックやエレクトレットコンデンサ型にその座を奪われつつある。
周波数特性 感度 電源 対風圧 耐久/耐候性 用途
ハイ落ちロー不足 良好 頑丈 電話器(昔)/
無線通信機(漁船、パトカーやタクシー)
かつてとは較べ物にならない位に、マイクロホンが使われる場所は多様化している。状況も極端に異なり、使い手も音響技術の専門家だけではない。とすれば、まずは簡単な構造で丈夫、取り扱いが簡単という理由でダイナミック型ムービングコイル方式とコンデンサ型エレクトレット方式が、各方面で使われているのが分かる。
基本性能を含めて、両者とも現代を代表するマイクロホンである。ただしここまでの 簡単な説明でも分かるように、その性格には明確な違いがある。続編では実際にそのふたつを較べてみよう。例えば楽器店で「万能型」と勧められるままにダイナミック・マイクロホン1本を買って、それで宅録から路上演奏までの全てを済ませているとしたら、ちょっと考えて欲しい。完璧に細かくはできないとしても、用途にあった選択とその使いこなしで、もっと良い音を出せるかも知れないのだから。
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