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指向性
第一章でマイクロホンの構造的な種別はおわかりいただけただろう。昨今では音声通信の普及やコンピューターによる音声認識システムなどの発達で、普段の生活の中にもマイクロホンはどんどん進出してきている。だからこそ「音」の質が問われる世界では、マイクロホンの種類や構造などの違いを充分に理解して、上手に使いこなしたいところだ。
さて次はあらゆるマイクロホンに備わる性格のひとつ、「指向性」を説明していこう。今回は、ちょっと学術的記述が多めである。物理、ワカリマスカ。

どの角度の音をはっきりと捉えるころができるか、どの向きに感度が良いか、というのを「指向性」と呼ぶ。人間の聴覚は収音する板の役目をする外耳の構造から、前で鳴った音がよく聞こえるようにできている。不確かな音をしっかり聴こうとする場合、わたし達は頭を回してその方に耳を向ける。無意識のうちによく聞こえる方向を選び出しているわけだ。マイクロホンの「指向性」はユニットの特性、置きかた、音の進入経路などさまざまな要素から決定される。そしてもちろん用途や使いかたに大きく関わってくる。
無指向性
ポーラパターン:円形グラフで指向性を360度にわたって示した図

まずこの「指向性」を持たないものから紹介しよう。置かれた場所に集まった音のすべてが、振動板に届いて電気出力となるのが「全指向性(無指向性)」と呼ばれるマイクロホンだ。言い方を換えれば、マイクロホン本体(振動板)の向きや角度に関係なく、音の大きさだけに反応する性格を持つ。振動板の前方だけが音場に対して拡げられている構造で、カセットテープレコーダーなどの内蔵用、インタビュー用や議事収録用コンパクトマイクロホンなどに主に使われる。効果音の生録でも力を発揮する。場所を離して2本立てれば、本来は味わう事のできない独特なステレオ感を創り出すことも可能だ。

P.A.では芝居の台詞を拡声するための仕込み用として活躍するが、音楽ライブの場ではステージ周りの音すべてを拾ってしまうためフィードバック現象の元凶となり、使われる事は滅多にない。ただし広いスタジオ、大きなホールを使った録音では、「部屋鳴り」(アンビエント)と称される間接音を収録する場合によく用いられる。俗説によれば、全指向性(無指向性)マイクロホンを使いこなせるエンジニアは一流とか・・・。
生の響きのあるドラムの音が欲しい時にこのセッティングは効果的で、80年代に有名だったニューヨークのスタジオ、パワーステイションでは、ドラムブースの高い天井にこのアンビエントマイクロホンがしつらえてあった。
単一指向性
これに対して、特定の方向を捉えやすい性質を持っているのを「単一指向性」マイクロホンと呼ぶ。無指向性と構造が違うのは、振動板の後ろ側にも音の通り道として穴や溝が設けられている点だ。後方で鳴った音は、まずこの穴や溝から入って振動板の裏側に届く(間接音)。同じ音は回り込み、少し遅れて振動板の表側にも届きます(直接音)。そこで、穴や溝から振動板の裏側までに障害物などを置いて間接音の速度を遅らせ、直接音と同時に到達するようにすると、この音は振動板の表と裏で同時に生じた同量のエネルギーとして相殺され、電気出力にならない。
前方で鳴った音は、まず先に振動板の表側に伝わる。その後の裏側への回り込みは、例の障害物によって到達がさらに遅くなる。この時間差によってエネルギーは相殺されずに電気出力される。故にこのマイクロホンは、前方への単一な指向性を持つ事になる。後ろ側の穴や溝は前方の音を大きく捉えるためにあるのだ。そして後方で鳴った音を、振動板の表と裏に同時に到達させるための障害物の素材選びや位置決めが、各技術者の工夫の見せどころとなる。

この「マイクロホン基本編Vol.1」の「簡単P.A.入門講座(実践編)」に、現場オペレーターからのこんなアドバイスがある。
----コア系やヒップホップ系みたいにマイクロホンのヘッドを握ったりするスタイルの場合はハウリングを引き起こす可能性が高いが、対策としてEQで1.25〜2.5kHz辺りを下げてやるとよい----
ここでは周波数による高度な解決技が説明されている。ただしそれ以前に、歌い手がヘッドを握りしめた時点で、そのヴォーカル専用単一指向性ダイナミック型マイクロホンは後ろ側の穴や溝を塞がれて全指向性(無指向性)に近い特性に変化してしまい、「ステージ周りの音すべてを拾って」「フィードバック現象(ハウリング)の元凶」となっているのである。
指向性の角度は、一般的に振動板に対して垂直に設定されていて、その方向から入ってくる音を大きく捉える。だから欲しい音、狙う音の出ている方角に振動板の前面を向ければよい。ふつうマイクロホンを持って声を出そうとすると、誰でもヘッドケースの中心を口の真正面にもって来る。その時に小指を立てようが立てまいが、これは自然で正しい姿だ。
前項ダイナミック型ムービング・コイル方式、アルバム『アンプラグド』のエリック・クラプトンのヴォーカル・マイクロホン・セッテイングは、----あーちょっとズレてますね。ただしライブでこの位なら問題ない。
かたや専門的な機器には音の入り口とその指向性設定が分かりにくいのもある。例えば高額品に多い「サイドエントリー」コンデンサーマイクロホンは、ダイナミック型のボーカルマイクロホンとは異なり、円筒形の側面に振動板が組み込んであるため、指向性は横向き、つまりヘッドケース/ボディに対して直角である。前項コンデンサー型DCバイアス方式のヘレン・メリルも、苦しげではあるがちゃんと胴体に向かって歌っている。これで良い。
ところで録音の場合には、意識的にこの指向性を外して音色を変えたり、新しい音を創る事もある。例えば後ろに回って喋れば、背後からの声のような音質になる(定位ではない)。洋画の吹き替えやラジオドラマ収録ではよく用いられた手法だ。またバスドラム脇に無意識に転がした一本のマイクロホンで、ドラムセット全体の音が理想的に録れた実例もある。昨今のループ用の短いドラム・パターンは、こうやって録った方がそれらしく仕上がったりもする。偶然という要素が絡んでいるとはいえ、これも単一指向性を逆に利用した使いかただ。
超指向性

通常は振動板の向いている方向[0度]を主に捉えるように設定されている単一指向性だが、狙った方向の延長線上にある遠い音を捉えるときには、この指向性をさらに狭角にした性格のものを使う。混乱した緊急現場やスポーツ、舞台のテレビ中継などで見え隠れする細長い棒、あれが超指向性を持った「ショットガンマイクロホン」である。テレビ・ドラマ収録用スタジオでは、バトン(天井から吊られたパイプ。照明器具や美術関連物を取り付ける)や足場に取り付けて役者の声を狙う場合もある。野外の生物の鳴き声を録音する時も必需品だ。音楽だと、ライブの観客の拍手や歓声(いわゆる「ガヤ」)録音用として使われる。アマチュアのビデオカメラ用マイクロホンにも、超指向的性格付けを施されているものが多い。
構造的には干渉管を使うもの(干渉管型)と、マイクロホンユニットを2つ使うもの(二次音圧傾度型)などがある。
干渉管型は、側面にスリットを刻んだ長めの筒を専用マイクロホンユニットの先端に取り付けて、「音響(アコースティック)的」に指向性を狭角にしている。
二次音圧傾度型は正相と逆相の2つの単一指向性マイクロホンユニットを持ち、「電気(エレクトリック)的」に指向性を狭くする。
どちらも原理としては、方向の違う所で鳴った音の位相差を利用している点で共通している。干渉管型は、干渉管自体に非常に高度な設計と複雑な加工が必要で、その結果コストもかさんでしまうが、二次音圧傾度型より指向性をより狭角にする事が可能であり、ノイズなどの面でも有利な事から、業務用のほとんどに採用されている。二次音圧傾度型は、一般的な単一指向性のマイクロホンユニットを利用できるので比較的安価に仕上げられ、一般製品用にも多く出回っている。
双指向性
前項で解説した「リボンマイクロホン」は、リボン状の金属箔が音(つまり空気振動)で震えることの応用で電気を起こす構造を持つ。その薄い「リボン状の金属箔」は本体フレームの中で空気振動を受けやすいように、上下を固定して軽く張った状態になっている。つまり前後からの空気振動に曝されているわけだ。だからリボンマイクロホンは前後ふたつの方向の音源を強く捉える「双指向性」として対談用などに重宝されてきた。
最近は小型のコンデンサーユニットを利用したヘッドセットタイプにこの双指向性は多く見られる。双指向性で且つ小型のマイクロホン固有の、遠い音源と近い音源では周波数特性に著しく差が生じるその性格はノイズキャンセルに利用できるので、パーソナルコンピューターやカーナビゲーションの音声認識入力用、あるいは各種の音声オペレーター用にたくさん使われている。

このようなマイクロホンの指向性を調べるには、ヘッドホンを使うと効果的だ。特に高音は鋭い方向性を持っているので音源場所が分かりやすいから、小さめのカウベルなどを叩くと指向性の有無、範囲、角度の違いが確認できる。ただし反響の少ない部屋で行なう事。マイクロホンを上手に使いこなすためには、そうやって実感したそれぞれのマイクロホンの指向性を、しっかり覚えておく事が必要だ。
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