ヘッドホンとともに33年・2007 legend of ATH headphones audio-technica
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宮田 新しい密閉型の流れから出てきたのが、53mmドライバーです。これを搭載した初めての製品がATH-A10でした。ヘッドホンのドライバーユニットでは、当時ソニーさんの50mmのものが最大でした。それよりも大きくていい音のものを作ろうということで、53mmドライバーを企画しました。53mmドライバーは1989年に開発に着手し、製品化できたのが1994年と、5年もの長い開発期間がかかりました。振動板の厚みや形状、接着剤を変えるなど様々な実験を重ねていくうちに、今までなかった非常にシャープで締まった音で世界に通用するヘッドホンができそうだという確信を持つにいたって、ATH-A10に投入しました。
53mmドライバーでは、技術面で様々な新しい試みに挑戦しました。従来のヘッドホンではPETフィルムを成型した振動板に空芯コイルを貼り付けたタイプがほとんどでしたが、53mmドライバーでは、それまで直付けだった空芯ではなく、ボビンをつけて軽量化するという方法をとりました。これは当社初の試みでした。ボビンをつけると磁気回路の一番効率の良いところだけにコイルを巻くことができるので軽量化できます。従来は磁気回路の効率を高めるにはアルミ線を使うしかありませんでしたが、音質に優れている銅線を使えるようになったことで、音質の飛躍的な向上にも大きく貢献しました。53mmドライバーを使った製品はATH-A10を皮切りにAシリーズとしてファミリーを形成していきます。53mmドライバーは開発当時、世界最大口径のドライバーユニットを狙ったわけですが、今でも世界で最大だと思います。
ウイングサポート構造も画期的な提案のひとつです。装着時の調整が不要なウイングサポートの提案が米ノ井さんからあったのが1991年頃でした。アイデアは非常に面白かったのですが、ウイングサポート部の部品が頭に当たって掛け心地が悪いということで企画が頓挫していました。ところが、ある時、全体を動かさずに上だけ動かせばいいというアイデアがひらめきました。
米ノ井 ヘッドホンを頭に乗せるだけでジャストフィットする構造はないかをずっと考えて続けてきました。そんなバックボーンがあってこの製品で提案したところ、たまたま宮田さんというこだわりの技術屋さんがいて実現しました。

宮田 チタンを初めてケースに使ったのもATH-A10でした。チタンは非常に強度の高い材質ですが、加工がとても難しく、そのうえ高価です。当時、一部の高級カメラなどには使われていましたが、ヘッドホンでは皆無でした。当社でも初めてなので加工できるところがなかなか見つからず大変苦労しましたが、薄くて軽く、しかも非常に剛性の高いケースを作ることができました。

米ノ井 Aシリーズではハンガーレスという新しいデザインも取り入れました。耳に被せるタイプの大型ヘッドホンでは、ヘッドホンと耳のあたりはパッドで調整できるので、大丈夫だと考えたからです。ハンガーを省ければシンプルな造形をとることができるようになります。

宮田 ハンガーをなくしてすっきり見せたいというデザイナーの意向はわかりましたが、設計する側からするとこれは非常に難しいテーマでした。何個も試作を繰り返しましたが耳たぶの上が浮いたり下が空いたりとなかなかうまくいかず、最終的に0.5度単位で調整することでようやく実現できました。大変苦労しましたが、ハンガーがないにもかかわらず、子供から大人までほとんどの人をカバーできるという便利さを実現できました。
宮田 1997年頃から、各社からセミオープンやセミクローズタイプが少しずつ出始めてきましたが、私たちはそういう中途半端な方法をとりたくありませんでした。オープンと密閉にはそれぞれの良さがあります。そこでオープンタイプと密閉タイプそれぞれをきちんと分けることで2つの方式を共存させていくことにしました。しかも普及価格帯でなく高級タイプでやろうということで、Aシリーズをベースにしながらフルオープン専用の53mmドライバーを新しく開発し、ATH-AD10とAD9を作りました。

宮田 大型の53mmドライバーを使うとどうしてもユニットは重くなってしまいますが、装着感を考えるとできるだけ軽量化を図ることが必要です。ATH-AD10ではこの相反する2つを両立させるために、フレームにアルミよりもずっと軽いマグネシウム・ダイキャストを採用しました。

小澤 ATH-AD9,10では、パンチングの中をすり鉢状にしましたが、音の点でその効果はいまひとつでした。私はそれがずっと気になっていたのですが、第二世代のATH-AD2000でその宿題を片付けることができました。  Next→
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