ヘッドホンとともに33年・2007 legend of ATH headphones audio-technica
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高井  AT-700シリーズが登場した1974年頃の国内のヘッドホン市場は、ハイファイマニア向けの製品が徐々に認知され始めた頃で、ステレオの付属品的なものとしての位置づけのヘッドホンが多数派でした。それらは振動板に紙コーンが使われており、音質的にも十分満足できるものではありませんでした。一方、海外ではデュポンが開発したマイラー、PETフィルムなどを始め高分子フィルムを使用したヘッドホンが浸透し始めている状態でした。高分子フィルムダイアフラムに使ったゼンハイザーのHD414というオープンエアータイプの名機が登場し、音の良さで世界的なトップモデルになっていました。また米国のKOSSなどもPETフィルムを使っていましたが、それをヘッドホンに使用するスピーカー用の振動板として適切に設計、精密に加工する技術がまだポピュラーではなかったことから、日本国内ではまだ紙コーンが主流でした。当社のAT-700シリーズは、ヘッドホンスピーカー用として最新素材だったこのPETフィルムを適切な形状に設計することで、ワイドレンジな高音質を実現することができたのです。当時、国内の高級機の分野ではコンデンサー型のスタックスがありましたが、AT-700シリーズは新規性のある素材と高音質を武器に、これに対抗するダイナミック型の高級ヘッドホンとして第一世代の高品位ヘッドホンの一角を形成しました。

宮田 価格もかなり高かった。始めから高級機を目指したのですね。
高井  当時の松下秀雄社長(現、相談役)は、「オーディオの入口と出口には信号を機械→電気変換するものと電気→音響変換するものがいつもある。その部分は精密さが要求される重要部分なので、当社はそこをやりましょう」とおっしゃっていました。当社はカートリッジから出発した会社ですので、社内に変換器についてのノウハウがありましたし、トーンアームもやっていましたので、精密加工技術も持っていました。ですから当社がヘッドホンに進出したのは自然なことでしたし、カートリッジとトーンアームで培ってきた技術やノウハウがあったからこそ、最初の製品でいきなり世の中から認められる商品を投入することができたといっていいと思います。
宮田  変換器=トランスデューサーに対するこだわりが当社の伝統、財産です。

高井  AT-700シリーズは、当時技術の責任者だった根本さんも回想されているように、実のところたいへんな苦労をして製品化したのですが、つぎのATH-3,4,5を発売する頃には生産技術も向上し、当社のヘッドホンに対する評価は確立していました。
米ノ井  当時、ヘッドホンを支えるハンガー、いわゆるツルには金属が使われていました。僕がオーディオテクニカの仕事を始めたのは1976年の夏でしたが、それ以前から他社でヘッドホンのデザインに関わってきました。当時からこのツルを樹脂で作ると、まったく新しいデザインに変えられるという思いがありました。そこで、ことあるごとにぜひやってみたいと提案していましたが、モールドは折れるからやめた方がいいということでなかなか採用されません。それが、オーディオテクニカではこのデザインならやってみたらと言われて、長年温めてきた構想をATH-3,4,5で製品化できることになりました。今でこそモールドハンガーは一般的ですが、これがその起点でした。

小澤 当社が開拓したモールドハンガーというわけですか。

米ノ井 僕の知る限り、国内ではおっしゃるとおり。他社では皆無でした。
高井  米ノ井さんから受け取ったトップモデルとして設定されたATH-7/8のハンガー部分デザイン図を見て頭を抱えました。ツルの途中から角度がついているので、3次元にねじれた形状のパーツのデザインを、すべて2次元の図面に落とし込まなければいけなかったからです。当時は今のような3次元CADがありませんでしたので、2次元の図面では画きようがありませんでした。そこで、セクション、セクションに別けて図面を画くことにしましたが、それでは全体像が良くわかりません。それを金型屋さんと何度も打ち合わせをしながら何とか形にしましたが、金型屋さんからは二度とこんなの作れないと言われてしまいました。その後、この製品はモデルチェンジされましたが、その際は一体成型ではなく別ピースに分けて作った部品を組み合わせる方法をとりました。
米ノ井  それまでヘッドホンの左右は単純な平行関係にありましたが、耳の角度はオフセットしています。当然、ヘッドホンもそれにあわせて傾けなければいけないはずです。特に耳乗せタイプではそうです。せっかくデザインの自由度が高いモールドハンガーにしたので、単純に軸受けを作って回転させるという方法を止めて、スライダー部分とハンガー部分が一体成型でオフセットさせるという意匠的な面白さを狙いました。
初代の700シリーズは「AT」の型番でしたが、ATH-5、ATH-7、ATH-8から、「ATH」という型番が付けられました。オーディオテクニカには様々な種類の商品があります。そこでヘッドホンは「ATH」にしようということになったもので、この型番は現在の製品にいたるまで続いています。  Next→
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