Artist Elite
interview01
――最初に自己紹介からお願いします。

NAKAI 高校時代からバンド活動と自宅録音が趣味で、自分で書いた曲を中心に録音をしていました。それが高じて、電子楽器メーカーに入社しました。その頃は、雑誌などを読みながらずっと独学で勉強していました。そして、レコーディング・エンジニアとして仕事をしたいと思い始め、22歳の時に念願かなってレコーディングスタジオの見習いとして入り、アシスタント・エンニジニアに転職します。そこから世田谷にあるサウンドアトリエに移籍し、プリンセス・プリンセス、ユニコーン、ピチカート・ファイブ、ザ・ブーム、SHOWYA、シング・ライク・トーキングなど錚々たるミュージシャンの録音に関わります。
 アシスタントとして経験を重ねる中、その頃、ヒット曲を飛ばしていた日本人シンガー・ソングライターのリミックスベスト・アルバムを、既に当時からUSチャートのトップ40のミキシング・エンジニアとして有名だったミック・グゾウスキー氏を抜擢して行なうというプロジェクトにアシスタントとして参加しました。
 楽曲、ミュージシャン、スタジオ、エンジニア、そしてプロデューサー、全て日本人の手に依って制作された音源は彼の手に掛かり、紛れも無いあのアメリカの音として生まれ変わるところを目の当たりにしました。
 今でも都市伝説のように、電圧が違うとか気候が違うとか、スタジオが違うとか様々な理由で海外録音と日本録音の音の差を語る人がいます。自分も若かった頃は、そういう理由で音が違うのだと半ば信じていました。でも、結局エンジニアの技術力が圧倒的に違うだけということが分かり、それまで聞いてきた都市伝説がすべて崩れ去りました(笑)。そして、彼と同じことができるようになるにはアメリカで学ぶ以外ないと思い、それから2年後にアメリカに旅立ちます。アメリカには知り合いもほとんどいなくて、お金も少ししか持っていませんでした。それでも、少しずつ人脈を広げていって、幸運なことにジョージ・マッセンバーグと出会います。時間は掛かりましたが、彼に熱意が伝わり、ジョージは僕のアメリカ永住権を得るスポンサーになってくれました。生涯の恩師でもある彼から学んだことは今でも活きていますね。もちろん、ミック・グゾウスキーとの交流も続いていて、彼のミックス手法は僕の基本になっています。
 アメリカで仕事をするなら一流のスタジオで、と考え、まずは、OceanWay Recordingsにアシスタントとして就き、それから結果的に一番長く在籍することになるAndorraスタジオに移ります。Andorraスタジオで最初に関わったアーティストはチープ・トリックです。その時のプロデューサーは、ドゥービー・ブラザーズ、エアロスミス、ヴァン・ヘイレンをプロデュースしたテッド・テンプルマンでした。
 向こうでは日本のようにアシスタントとメインエンジニアが分業するようなスタイルだけではなく、有能であればアシスタントと言ってもかなり音作りにも関わらしてくれます。そうやって、何年か腕を磨き、最初に僕をファーストエンジニアとして指名してくれたのは、サックスプレーヤーのトム・スコット(ポール・マッカートニー、スティーリー・ダン、トトの作品に関わる)です。Andorraスタジオでは、ジャック・ジョセフ・プイグ(ジョン・メイヤー、ブラッククロウズの作品のエンジニア)のアシスタントも長期に渡り担当しました。僕は、ミキシングの手法では、ポップスではミック・グゾウスキー、ロックではジャック・ジョセフ・プイグ、そしてジャズでは、アル・シュミットから影響を強く受けています。
 2000年ごろにフリーランスに転向します。それからは、仕事の分野を広げゲーム「ロマンシング・サガ・ミンストレルソング」「ファイナルファンタジーIX」(ともにスクウェア・エニックス)「リッジ・レーサー6」(バンダイナムコゲームズ)などのサラウンドミックスに関わりました。ここ5年くらいはエンジニアリングに加え、プロデュースの仕事が増えています。また、5~6年前には、より高いレベルの音楽的なバックグラウンドを習得したいと思い、音楽大学でクラシックの作編曲を勉強しました。そのおかげでクラシック、ジャズ、ポップスの知識と経験が融合されたように感じられます。最近は、アメリカで音楽出版会社(MIYABI MUSIC PUBLISHING)を設立し、今後、日本の楽曲を世界に、逆に海外の楽曲を日本に提供するような仕事も考えています。また僕がアメリカで学んできたことを日本の次の世代に引き継いて行ったり、少しでも日本の音楽業界の役に立てればと考えています。
――NAKAIさんはレコーディングでAE2500を愛用されているそうですね。

NAKAI AE2500は本当に優秀なマイクです。このマイクは主にドラム録りに使用しています。マルチマイキングは位相やタイミングにものすごく気を遣います。キックにはダイナミック型とコンデンサー型を組み合わせることが一般的ですが、いろいろなマイクの組合せを考える中で、いつも僕が気にしていたのが位相なんですね。DAWで合わせればいいという人もいるでしょうが、やはり録りの段階で位相を揃えると音が違うんですよ。18cmマイクが離れると0.5msecズレます。その位相のズレが可聴帯域内でキャンセルやブーストを起こします。EQで抑え込もうとしても、いろんな帯域に影響が出るので音色が変わりますし、位相が揃っている方がインパクトの強いクリアーな音になります。
 そこで、設置が楽で位相問題を解決してくれるツールがないかなとリサーチしてみたら、オーディオテクニカからコンデンサーとダイナミックの両方のカプセルを持つAE2500を発見しました。僕は、キックドラムの打面に対して斜め上から狙うようにすることが多いんですが、その時にAE2500はカプセルが水平になるように置くと位相がピッタリ合います。
 でも、「確かに良いけれど、グッと心に響くまではいかないな」というのが最初の印象でした。ところが、リンゴ・スターのツアーにも参加する有名なセッション・ドラマーのグレッグ・ビソネットと仕事をした時に、いつも使っているMANLEYのマイクプリと組み合わせて使ったんですが、ノンEQでもう完璧。それだけ彼の演奏が素晴らしいということなんですが、驚いたのはスタジオで鳴っている生音はもちろんですが、マイクを通してコントロールルームで聴いた音が完璧なんですよ。彼はマイクを通るということも考えて叩いてくれます。そこに関しては、僕の力はそれほどの影響力はないかもしれませんね(笑)。
 AE2500は音色的に色付けも少なく、アタックとトーンのバランスがナチュラルで、余計なことをしないマイクです。アメリカの一流ドラマーは、例外なくチューニングが巧く、生音の完成度が非常に高いですね。だから、僕らエンジニアも、それを出来るだけそのまま録るように心掛けます。グレッグと仕事をしたときも、モニタースピーカーで聴いて、ちょっとスネアが……と僕が思ったときには、彼はもうスネアを調整していました。それ以降は、基本的に位置の調整だけでほぼノンEQで使っています。ドラマーの叩いた音をそのまま録るということがどういうことか分かったような気がしました。
 もちろん、ライヴの仕事でもAE2500を使っています。そこでも使い方に違いはありません。コンデンサーとダイナミックを50:50にしてほぼ完了です。マイク・スタンドも1本で済むし、スタジオでもライヴでも、いつもの方法でマイキングし、必要であれば、あとでコンデンサー型とダイナミック型の音量バランスを変えるだけなので、時間が掛かりません。そういった様々な理由から、このマイクを愛用しています。コンデンサー型とダイナミック型の音色を個々に得られるので、本当に便利で、曲調やジャンルによってブレンドを変えると表情が変えられるのも気に入っている点のひとつです。そのバランスだけで、勢いやメロウな感じもEQ無しで作り出せます。音色としてはダイナミック型に比べてコンデンサー型は、ふくよかさがあります。別系統なので、ミックスでダイナミック型はアタック感を出すように、コンデンサー型は響きや革鳴りを中心に、とそれぞれにコンプの設定を変え、音を作ることも出来ます。
 しっかりとレンジの広いマイクプリを使えば、AE2500一本で十分にキックの本来の音は得られます。最近、サブソニック用にさらに特殊なマイクを立てるエンジニアもいますが、ボクはマイキングでその必要性を回避しています。本来のキックドラムは音程としてはそれほど低くはありません。ヒップホップなどでサブソニック的な意味で使うというならわかりますが、ロックならベース・ギターなどの低音楽器が下から支えるようにした方がバランスは良く自然な仕上がりになります。
 僕がミキシングするときは、x軸をステレオの左右の広がり、y軸を周波数、z軸を奥行きとした3次元空間をイメージして、そこに絵に描くように音を配置していきます。その場合、通常、ベース・ギターは中央の一番下です。キックはベースのちょっと上に置く。僕はミックス作業とは、そのヴァーチャルな3次元空間で配置したイメージに音をはめ込んでいく作業だと思ってます。こういうミックス方法はミック・グゾウスキーの影響だと思います。

――そういう音作りにAE2500は最適だと?

NAKAI いや、そこは逆説的なんですが、AE2500を使ったからといってミック・グゾウスキーっぽくなるわけではありません。使っているマイクに対して、とことん深く理解して、ベストの位置に置く。そして、ミックスで余計なことをしなくても良くなるように録る。蛇足ですが、僕の経験値では、アル・シュミットのような音はまだまだ作れないと思います。機械に頼るのではなくて、エンジニアの腕が音を決めるということですね。
 僕がAE2500を使うのは、ナチュラルに録れるからです。いろんな音楽にも対応できるし、設置もシンプルなので、ドラマーが座って10分くらいですぐに音が録れる。ライヴでもスタジオでも使えるのは大きな魅力です。これとヘッドフォンのATH-M50(生産完了)はいつも持ち歩いています。ATH-M50(生産完了)はジョージ・マッセンバーグのオススメで使っていますが、良いヘッドフォンですね。

――AE2500を使った最近の作品を挙げていただけますか。

NAKAI EXILEから“キャプテン”と呼ばれているミュージック・ディレクターの佐野健二さんのソロアルバム『Culture Chameleon』です。彼はハワイでカラパナというバンドでベーシストとしても活躍しているプロデューサーです。そのアルバムでは、キックはすべてAE2500です。他には広瀬香美さんのアルバム『Love and again』です。どちらのアルバムもグレッグ・ビソネットがドラマーとして参加しています。あとは僕がプロデュースしているRicky Z のアルバムでも使っています。

――最後に若いエンジニアへのメッセージを。

NAKAI オーディオテクニカは、アメリカでは誰もが知っている認知度が高いマイク・メーカーです。それはカタログに載っているミュージシャンの面々を見ても分かることですよね。それなのに値段が安い(笑)。お買い得だと思います。しかも、リボンマイクAT5040のように斬新なマイクを作りだしている。それほど知られているのに、日本だとライヴではよく見かけるのにスタジオではあまり見かけませんね。すごく良いマイクなのに……。
 エンジニアは新しい製品をどんどん使って模索していかないと良いものはできないと思っています。新しいものがすべて優れているという意味ではなく、定番は新製品とどんどん戦わせて淘汰していかないと。「歴史を重ねる」という言葉は「今のベスト」を探し続けるという意味だと考えています。 最近の若い世代の人達は、そういうことを知ってか知らないか分かりませんが、あまりチャレンジや試行錯誤をしている姿を見たことがありません。定番のマイクを何の疑問も持たずに使っているようにも見えます。
 これは恩師のジョージ・マッセンバーグから学んだことのひとつですが、「レコーディングでは必ず何かを試す」。これが大切です。僕も毎回新しいことにトライしています。ダメだったら自分のスタンダードに戻せばいいわけです。前回よりも早くて、安定していて、クォリティの高いマイキングをいつも考える。若いときは失敗を恐れずにどんどんチャレンジしてほしいですね。学校で教わったり先輩から教わることは、ひとつの例にしかすぎません。
 若い人たちはまずリスニング能力を高める訓練をして欲しいです。しっかりとしたラージスピーカーで完成度の高いソースを聴く。特にアコースティックなものをたくさん聴いてほしいですね。そして、やはり生音を聴く機会を持つことです。一番いいのはクラシックのコンサート。演奏者が有名じゃなくてもいいんです。音が空気の中で減衰していく、そして反射がどう起きているかを肌で理解する。それがミキシングで活きてきます。ロックが好きならマイクを使わないで演奏しているようなライヴハウスに行ってほしい。ジャズに触れるのもいいでしょうね。それに将来エンジニアになりたいと思っている人たちは、あまり大きな音に接しない方がいいです。聴覚は一回鈍るともう戻ってこないので、オーディオをやる人にとっては致命傷になります。それだけは気を付けてほしいですね。
 あとはエンジニアに限らずという話では、できればベース、ドラム、ギターは一緒に録ってほしいですね。そうすることで、どんどん腕が上がると思うんですよ。1人1人でブースに行って好きなように演奏するというのは、音楽を作っているという感じじゃなくて作業ですよね。

――NAKAIさんは日本とアメリカのエンジニアを見ているわけですが、違いを感じることがありますか。

NAKAI アメリカのエンジニアは本当によく機材のことを知っています。マイクやカプセル、回路、トランスまで構造について、かなりオタクっぽい話ができる人ばかりです。そういうエンジニアが日本では少ないですね。なんでノイマン系とAKG系では音が違うのか、そういう話で日本は盛り上がらないですからね(笑)。
 学校で学ぶことは基本的なことで、プロになったら次のレベルがある。だから勉強はずっと続けてほしいし、プラグインに詳しくなる前に、マイクやマイクプリアンプとかを知ることの方が大事です。プラグインの勉強はその次でいいですよ。

――ありがとうございました。

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