40シリーズラインアップ

ワールド・スタンダードへの道のり

―― 40シリーズの中核モデルとなったAT4033はどのようにして作られたんですか?

秋野:そうです。入社したばかりの頃に、放送機器の展示会で見たAKGやNeumannみたいな、かっこいいサイドアドレスのコンデンサーマイクを作りたくてね。何度か試作も作ったんだけど、上手く行かなかった。それが"ユニポイント"の開発で、基礎的な技術や製法を構成できたのでサイドアドレスのAT4033がようやく作れるようになったんです。

―― 多くの著名メーカーのコンデンサーマイクは、振動板が1インチ(約25mm)です。しかし、AT4033はサイズが16mmですよね。

秋野:最初に1インチのマイクを試作したんですが、今はATUS(*Audio-Technica USA)の副社長になっている人に「値段が高すぎる」と言われてね。それでAT4031というスティック型のマイクに使われていたユニットを横にして載せなさい、と言うわけ。それが悔しくてね。なんとか16mmのユニットでスタジオ用のコンデンサーマイクを作ってやろうと頑張りました。面白かったのは、振動板の有効面積が1インチよりも小さいから、ただ使っただけだと小さいなりの実力しか出ないんですよ。そこで音波の駆動力を稼ぐために、孔を開けてナイロンメッシュを貼った丸いバッフルを振動板の周りに付けました。それによって最大許容入力を上げることができ、人並みにスタジオ用マイクと言えるくらいにはなったかなと。


―― AT4033は、1992年のニューヨークAESに出品されて、ベストマイクロホンに選ばれます。どの部分がアメリカで高く評価されたと思っていますか?

秋野:わからない(笑)。おそらく、小口径のユニットを使っているから、1インチのユニットを使った他のマイクとは音がかなり違っていたのかなと。かつて私に小さなユニットを使えと言った人には、今は「ありがとう」とお礼を言っていますよ(笑)。あの時にあなたが言ってくれなかったら、今はなかったって。
私がマイクを設計するときは、お客様が使いやすいようになるべく固有の音は作らないように周波数特性はできるだけフラット、そして位相回転はなるべく起こさないように気を付けていますね。特に位相は一度回転してしまうと、塩を入れ過ぎたものに砂糖をいくら入れてもダメなのと同じで、もう元には戻らないんです。だから、位相はかなり気を遣っていますね。

―― 40シリーズは防湿対策が施されていますよね。その経緯はどういったものでしたか??

秋野:コンデンサーマイクは湿度に対して配慮されていないのが普通なので、最初は私もそれほどに重要だとは思っていなかった。でも、過酷な環境でも使われる可能性があるとわかったので防湿対策を施しました。それと同じものをスタジオ用のAT4033にも採用したのは、クーラーでキンキンに冷えているスタジオで使っていればマイクも冷えてきますよね。そこで扉を開けると、外気の強い湿気と熱気が入ってきて結露するんです。それから40シリーズはすべて防湿対策をしています。

―― 従来、コンデンサーマイクはコンサートなどのPAの現場では使えないと言われていました。しかし、防湿対策のおかげで40シリーズはそういう現場でも使われているわけですね。

秋野:私もそういう使い方をしていると聞いたときはびっくりしたよ。ギターアンプの前や野外でドラムのオーバーヘッドに置いたりしているってね。あとは、冬季オリンピックに使うことが決まったあとで心配になって低温試験を行なったら、-40°の試験にパスしたみたいね。


―― AT4033の次に登場するのが、1インチのツインダイアフラムに挑戦したAT4050ですね。

秋野:AT4050は開発にかなり時間の掛ったマイクでしたね。

―― どこに苦労したんですか。

秋野:2枚のダイアフラムの間に隙間(空気室)があるんですが、そのサイズを教わった通りに作っていたのが間違っていたんだよね。変換効率を上げるために空気室の容積を増やせば良いのはわかっていたんだけど、わずかずつだけだったのを、ある時思いっきり増やしてみたらちゃんと性能が出た(笑)。試してみることで、初めて成功したんです。頭で考えているだけだったらわからなかったでしょうね。

―― 失敗から得るノウハウが大きいですね。

秋野:そう。試作は9割5分が失敗ですからね(笑)。実際に使われることで出てくる問題もあります。でも、そこには必ず開発や改善のヒントがあるんですよ。

―― 40シリーズには、トランスレスのAT4033やAT4050がありますが、同様にトランスを搭載したAT4047/SVなどもあります。トランスがあるのと無いのではどの様な違いがあるんですか。

秋野:トランスを使うと最大許容入力を大きくできるんですが、代わりに音の色付けや位相回転が起きるなどデメリットもあります。なので、トランスを入れるかどうかは、音質面での好みの方が大きいでしょうね。トランスを入れた方が音は良いと言う人もたくさんいますからね。


―― 40シリーズの真空管マイクAT4060にもトランスが入っています。出力インピーダンスを下げるために使用したんですか。

秋野:いえ、AT4060はバランス出力にするための変換トランスです。インピーダンスに関しては、真空管でフォロアー回路を作って200Ωくらいまで下げています。雑誌でプリアンプの最終段に入っていた回路を見つけてマイク用に変更して採用しています。

―― 真空管マイクというとヴィンテージ的なサウンドという風潮がありますが、AT4060の設計思想はそうではなさそうですね。

秋野:真空管だから、柔らかくて温かい音が出るだろうと想像する人もいるから、「そうはいくか、見てろよ」って作ったマイクだからね(笑)。
他にも我々のマイクはいろんな対策を施しています。静電気が起きても壊れないようにしたり、携帯電話の電波の影響を受けないようにしたり、ヨーロッパで決まった環境汚染物質の使用制限を決めたRoHS指令に対応したり、チップ型のパーツに組み替えたりと、いろいろとやっています。

―― AT4047MPやAT4022といったマイクには"ウェーブ・ダイアフラム"の発展形である"ダブル・ウェーブ・ダイアフラム"を搭載していますよね。それはいつごろからなんですか。

秋野:最初はAT2050に搭載したんですが、"ウェーブ・ダイアフラム"ができて20年が経つので、新しい振動板を作ろうと思ったんです。"ウェーブ・ダイアフラム"ですと、工程で枠のリングを貼るときに皺が入ることがあったんです。そこで、"ウェーブ・ダイアフラム"の模様に加えて、大きくハニカム状の山を付けることで、機械的性質が大きく改善されています。

ウェーブ・ダイアフラム


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