レコーディング「エンジニア」の沢口真生さんと、当社開発「エンジニア」の秋野 裕がリボンマイクについて対談。今回の録音について、マイクロホンの開発についてなどなど大変興味深いお話を伺うことができました。

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―― この音源はどのように収録されたものですか?

沢口氏(以下敬称略):UNAMASレーベルのアルバム制作で、録音する時は、サラウンドとハイレゾを前提にしています。ですから、今回の作品も192kHz/24bit、サラウンドを基本として作り、2ch mixは、新たにミックスしてステレオ版を作りました。サラウンド再生には非常に大きな可能性があるんですよ。

秋野:自分で作ったマイクが使われた音源を聴く機会は少ないんですけれど、今ここで聴かせていただいてサラウンドもステレオもすごいですね(笑)。特にサラウンドはすごかった。

沢口:ありがとうございます。でも、表現力がここまで違うから、私は自然にサラウンドとハイレゾを選んでしまうのです。だれでも、食べ物なら同じものでも美味しいものを食べたいと思うじゃないですか。それとまったく同じでみんなもそういう環境で音楽を聴いてほしいと考えています。

―― 今回の音源は、ピアノにリボンマイクを使ったとうかがいました。

沢口:AT4081は通常ピアノを録る際のLとRに置き、低域弦専用にAT4080を1本。そしてピアノの全体を取るのにAT4050URUSHIを全指向にして、私のいつもの5ch配置にしています。つまり、オール・オーディオテクニカです。収録では、マイクの位置とレベルを決めた他は、何もしていません。超シンプルにして、その場の音を産地直送で届けている感じです。特にこういうアコースティックな音は、何もしない方が絶対に良いんですよ。

―― いつもお使いになっているマイクとの違いがありますか。

沢口:僕はピアノ録音では、コンデンサーマイクを組み合わせた定番があるんです。いつもは100kHzまで録れるマイクを使うんですが、それはアタックがカーンと出てきて、倍音がブワーッと出てくる。それが良くてずっと使ってきました。今回は、リボンマイクの持つ特性とハイレゾという組み合わせではどんなサウンドが表現できるのかを試したかったのでやってみた訳です。もちろん、比較のための定番のマイクセットも使っています。オール・テクニカは、別に強制されてやったわけじゃないですよ(笑)。なんでもやってみないとわからないから、じゃ、やろうという主義なので!

秋野:僕はそんな気がして、申し訳なかったなと(笑)。

沢口:いやいや、この機会を通してオーディオテクニカのマイクがどれだけの実力なのかを知りたかったんです。使ってみてリボンが持っている良さが、ハイレゾで録ったことでよく分かりましたよ。リボンマイクは、人の耳で聴いている音にとても近いという印象ですね。コンデンサーマイクは、ちょっと音にエッジが立ち、一見派手だったり立ち上がりの早いような音になりますが、自然さ、という意味ではリボンマイクの方が優れています。

秋野:マイクは振動板が動くことで音を拾うわけですけれど、コンデンサー型の振動板は比較的固くして動かないように作ると周波数特性が平らになるんです。対して、リボン型は、振動板が動きやすい方向に作ると周波数特性が良くなります。手で扇いでも動くくらい軽くすると良いんですね。だから、リボンマイクを設計する時は、周波数の平坦さも大切だけど、空気の揺れに対してどれだけ追従するかという動きやすさも心掛けています。

沢口:音を聴いてみて、リボンマイクと言えば1950年代に開発され、今でもブラスやヴォーカルに使われているRCA 44BX,77DXを第一世代、その後、90年代後半に登場したアクティブ型を第二世代としてみると、このオーディオテクニカのリボンマイクは、第三世代のサウンドと言えると思います。
第一世代のRCA 77DXや44BXとかは、ラジオ放送用なので、とにかく声の帯域さえ録れば良いという設計思想だったと思うんですね。それがアクティブ型になったことで、感度が上がりました。しかし、いずれにしても従来のリボンマイクは、特定の楽器にはばっちりハマるけれど、万能ではありませんでした。ところが、AT4080とAT4081はユニバーサル。ナチュラルだから、何にでも使えそうですね。これまでとは違う応用範囲の広さがあるというところが、第三世代のリボンマイクだと感じたところです。

―― この開発では、他のリボンマイクも研究されたんですか。

秋野:たくさん調べましたよ。それでわかったのは、他の会社で作っているリボンマイクは自分の腕では作れないということ(笑)。振動板のアルミ箔の成形が大変で、私もしばらく他の会社の作り方を真似したんですが、全然ダメ(笑)。それで、自分で張れる方法を考えたのと、アルミ箔も大きくしました。今はネオジウム磁石があるので、簡単に小さくて磁力の強い磁気回路ができるようになったので、リボンを大きくしても駆動できるのです。

沢口:それで従来のものよりもS/Nが良くなっているんですかね。

秋野:そうですね。それと感度を上げるために、リボンを2枚にしているのも特徴ですね。

沢口:いま2つのリボンマイクの中を開けてもらいましたが、このリボンのユニットに付いているカバーに開いている穴はどういう役割ですか?

秋野:この穴がないと高い方の周波数特性が落ちるんです。低音は横からは入るんですが、この穴があることで高い周波数までリボンへ空気の振動が届くようになるんです。

沢口:そういう方法はどうやって見つけたんですか。

秋野:最初は、ボール紙に穴を空けてティッシュを張って、この辺りに置くと音が変わるかな?と測定しながら当たりをつけていくんです。それでこの辺りと思ったところで、初めて金属で形にしてみて、それで上手くいけば成功。

沢口:僕のイメージだとレーザー装置シミュレーション解析とかで、振動がこういう風に伝わっていくんだとかを解析しながら開発を進めていくと思っていたんですが、カットアンドトライで見つけていくところは、非常に人間的ですね。

秋野:はい、とてもアナログですね。ただ部品は現代の部品を使いますから、結果的には今風のものになりますけれどね。

沢口:こういうアイディアってどこから生まれるんですか。

秋野:それは試作を作る中で、こうするとこんな特性になるなら、きっとこんな理由で動作しているんだろうと分かります。だから、私の申請した特許の多くは、先に結果があってから理由を探していることが結構ありますよ。

沢口:線材やフレームなどの材質も音に影響しますよね。

秋野:それも調べます。販売価格を考えつつ、一番良いものを選んでいきます。

沢口:磁石はどこにあるの?

秋野:振動板の左右にある銀色の部分がネオジウム磁石です。

沢口:AT4080の方が大きいんですね。

秋野:AT4080はユニットサイズに制限がほぼなかったので自由にできたんですが、AT4081はサイズに制限があったので少し小さくなっています。

沢口:AT4081は外側のフレームに穴を開けなかったのはどうしてですか?

秋野:これはスティックタイプの方が近接して置かれるだろうから、近接効果によって多少、低音を稼げるだろうと。けっこう低域の周波数応答はAT4081とAT4080で違っていますし、出力に入っているトランスも大きさが違います。

沢口:どんなトランスなんですか。

秋野:トランスはコアにフェライトを使っています。普通はパーマロイを使うことが多いんですけれど、もっと良い技術は無いかと探していたら、昔はとてもトランスに使えなかったフェライトでオーディオ信号の低周波用が作れるというんですよ。測定したら低域特性がスーッと綺麗に落ちていく。それと、リボンの共振周波数を組み合わせるとちょうどいい塩梅になるので、使うことにしました。

沢口:トランスによってかなり特性に差が出るんですか。

秋野:ユニット設計の次に影響すると言っていいくらい音に影響します。

沢口:Mr.ニーヴ(※1)がこだわるわけだ。彼は昔使っていた良いトランスが今は無いと言っていますよ。奥の深い世界らしいですね。

秋野:そうみたいですね。もう一つ工夫してあって、このリボンは回路の載った基板に載っているんです。リボンを基板に付けるのはどうだろう?と言う人もいますが、まとめて変えた方が、メンテナンスが楽になるんですよ。

沢口:たしかにリボンマイクは壊れたらメンテナンスに時間がかかりますね。

秋野:でも、これならすぐに取り換えられますよ。

※1 ルパート・ニーヴ氏。世界的に有名なミキシング・コンソールメーカーであるニーヴ社の創設者。

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