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沢口氏:今回使ってみてAT4080の方が私には、良いと思ったんだけど、市場では、AT4081の方が人気があると聞きました。

秋野:AT4081は楽器でAT4080は声に使われることが多いようです。

沢口:たぶん近接で録る人が多いからですかね。

秋野:AT4080は低域の量が多いから、そこが受け入れにくいという人がいます。でも、低域を絞ろうと思ったら絞れますよ。特性はできるだけ伸びている方が良いと思って、一生懸命伸ばして作っていますので絞るほうが簡単(笑)。

沢口:今回の録音では低音の弦の力を上手くリボンマイクで出せそうだと思って、AT4080を低域に使いました。僕は、リボンマイクをウッドベースによく使うんですよ。コンデンサーマイクだと奏者によって弦を強く弾く人がいて、そのピークでも歪まないようにレベル設定をすると、ベースがとても小さな音になってしまうんですよ(笑)。その点、AT4080はしっかり録ってくれる。

―― お客さまからも、ピークをよくまとめてくれるというお話をいただきます。

沢口:そうだよね。だから、リボンマイクは昔からブラスとかに使われていました。特定の楽器にバシッとはまる。それがリボンマイクだったんだけど、オーディオテクニカのリボンマイクはオールラウンドにいけるというところが第3世代のリボンとして面白いと思うんですよ。

―― 最近、デジタルレコーディングになり、音色が変化しつつある中で、ハイレゾとリボンマイクの相性をどのように感じられましたか?

沢口:今回初めてこの組み合わせで録ってみてビックリしたことの一つは、リボンマイクとハイレゾ収録はとても相性が良いということでした。ハイレゾは言葉の通り、対象となる音や使った機材の持ち味をしっかりと出してくれます。私も44.1kHz/16bitでは、どうしても最終形の音を換算して録って、ミックスでもいろいろな調味料をまぶさないといけなかった。これは,経験がないとなかなかうまくはまらない世界なのですよ。私のようにレーベル制作を始めたばかりの経験とスキルでは、そこはうまくできない!という現実もあります。でも、ハイレゾはとても大きな器ですから、良い素材を持ち込めばそのまま出てきます。本来、リボンマイクが持っている、素質、素直であるとか耳で聴いている感覚に近い部分がとてもよく出てきました。この、人の耳で"聴いている感じに近い"というのは最も大切なことです。

秋野:私が設計する時は、位相回転を起こさないマイクが使いやすいだろうなと思っているんです。テクニカの音、みたいなものを作らないように、なるべく分割振動や共振で音に色がつかないように作るようにしています。そうしておけば、使う人が好きな音に変えやすいかなと。

沢口:僕も、どちらかというとその考え方で録りますね。その場の音をなるべく変化させないようにそのまま録ろうと心掛けています。だから、後で処理をほとんどしないから、入り口のマイクできちんと録ってくれることが大切です。これは想像ですが、リボンマイクが一時期、人気がなくなったのは、44.1kHz/16bitという器ではどうしても調味料を掛けてやらないと狙う音にならなかったので、自然に録れるリボンマイクは特徴が無いと敬遠されていたんだと思う。だから、ハイレゾ録音になったことで、僕はリボンマイクが再評価されると考えています。

―― そういった感想を持たれたリボンマイクで、今後はどんな録音がしてみたいですか。

沢口:このリボンマイクの可能性は充分に分かったので、この音色でストリングスを録れるワイドカーディオイドに近い指向性のリボンマイクが、出てくれると面白いなと思いました。どうしてもリボンマイクは原理的に双指向性じゃないですか。でも、双指向性はクラシック音楽の録音では使いにくいんですね。カーディオイドでもクラシックの人は、ブロードなカーディオイドを好みます。それは部屋やホールの反射音をたくさん拾いたいという理由でね。ですから、リボンマイクでも綺麗な8の字ではなくて、横の切れている部分があまりないダルマ型みたいな指向性だとか、もう少し指向性を広げた双指向性ができると、クラシック音楽にもすごく合うと思う。そしたら僕も使ってみたいな。アメリカの録音例でチェロのソロアルバムとオーケストラのピアノコンチェルトで使っている例を見つけました。

秋野:私は技術者だから、逆に綺麗な8の字になると、やったぁ!って喜ぶんですけどね(笑)。そういえば、この間、変な指向性になったリボンマイクを作ったな(笑)。これは商品にならないって思っていたけれど、そういう手もありますね。いま、研究課題の一つにカーディオイドのリボンマイクがあるんです。いろいろとやっているんですけれど、上手くいかない。リボンマイクで双指向性以外を作るのは大変です。何回も失敗しています。先にワイドな双指向性から手を付けましょうか(笑)。他にも真空管タイプも作ってみたいんですよ。

沢口:それも面白いですね。

秋野:でも、失敗するかもしれませんから、そうしたらみなさん内緒ね(笑)。私の思いつきで作ろうとしたマイクの8割から9割は失敗していますから。あるとき、フッと出来るかもしれません。

沢口:秋野マジックに期待していますよ!

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