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開発者インタビュー 沖田潮人 技術部三課マネージャー

――最初にプロフィールをお伺いします。入社は何年ですか?

1992年ですから、ちょうど20年ですね。入社した年齢は内緒です(笑)。以後、ずっとマイクロホンの開発に関わってきました。

――最初に手がけたマイクロホンの機種は?

入社してからは秋野(秋野 裕:40シリーズ他、多くのマイクロホンを開発する)や他の上司が原理試作したものの量産設計に携わりました。とくに秋野の原理試作品をたくさん量産設計しました。私が入社した前年にAT4033が登場しましたので、40シリーズと一緒に歩んできている感じですね。この期間にダイナミック、リボン、コンデンサーまで一通りの形式、サイドアドレス、スティックタイプ、ガンマイク、タイピン、グースネック、そしてアクセサリーまでマイクロホンに関わる製品カテゴリーはほぼすべてを経験していますので、私の修行期間と言えるかもしれませんね。

――学校での専門は電気系なんですか?

いえ、専門学校に入学してレコーディングエンジニアを目指していたんですよ。

――それがなぜマイクロホンの技術者に?

学校でレコーディングエンジニアの仕事を見て、自分のやりたいこととは少し違うなと思ったんです。でも、音に関わる仕事には就きかった。それで、技術をやりたいなら音響メーカーだろうと就職活動をしました。

――一から設計した初めてのマイクロホンとなると?

マイクロホン本体ではないのですが、AT8646AM、AT8646QM、AT8647QM/Sというショックマウントプレートが1から設計した最初の製品だったと思います。今でも販売しているものですね。

――AT5040は、これまで主力ラインナップだった40シリーズの上位、オーディオテクニカのマイクロホンの中でフラッグシップとなる50シリーズの第一弾です。このマイクロホンが誕生するきっかけを伺えますか。

40シリーズよりも上のランクのシリーズを作ろうという話は2006年まで遡ります。弊社にはアメリカのAudio-Technica U.S.(以下、ATUS)の他、海外に販売会社がいくつかありますが、それらの代表者も集まった会議で、フラッグシップとなる新シリーズ開発のプロジェクト立ち上げが決定します。ただ、そこでは単に40シリーズよりも良いマイクロホンを作るということが決まっただけでした。そして、2007年春にこれまでにない新しくてユニークなデザインのマイクロホンを作ろうという案が出まして、アメリカのデザイン会社にデザインを発注します。それから数回のやり取りがあって、最終デザインが2008年の春に決定します。それがAT5040の原型となりました。
でも、そこからが大変でした。というのも、普通の開発の順序と逆なんですよ。マイクロホンは音響製品ですから、まずはユニットと回路で性能を最大限に引き出すように設計して、それを邪魔しないように外観を設計する。当たり前ですけれど、中身がいちばん大事ですからね。
外観の設計は後なので、いつもならある程度内部の設計には自由度があるわけです。それが今回は外観からの設計なので、途方に暮れてしまいました。会議でもこのトピックが上がるたびに、みんなどよーんとして。しかも40シリーズよりも良いものにしなければなりませんからね。それから1年くらいは何の進展もなかったんですが、いよいよATUSでこのプロジェクトを担当していた人に「このまま進まないと、俺はクビになる」と言われたんです。それで火が付きました。彼にも家族があるだろうし、これは放っておけないって。
でも、相変わらず40シリーズを超えるにはどうすればいいかというアイディアは浮かんできませんでした。そんなとき、50シリーズとは関係なく、実験を進めていた案件があった。それが長方形のダイアフラムを使ったユニットだったんです。

――50シリーズのために作ったわけではないんですね。

そうです。こういう試作は常に行なっていましたからね。なぜ長方形ユニットを作っていたかというと、弊社のAT4051のようなスティックタイプのマイクロホンで今のユニットよりもSNを稼ぎたかったからです。それには、ダイアフラムの面積を広くするのが一番早い。でも、マイクロホンのボディ寸法は決まっている。それで丸い振動板を眺めていたら、四隅に隙間を埋めて四角にすれば面積が増えるな。しかも、マイクロホンの形に合わせて長方形にすればもっと面積が広くできる、と閃きました。とにかくSNを獲得するというテーマ一点だけで開発を進めていたものだったんです。このユニットが思いのほか上手く行って特性もすごく良いということで、50シリーズに乗せることになりました。2009年の初めごろですね。

――偶然なんですね。

ええ、ただ50シリーズの第1号機のデザインはサイドアドレス型だったので、この振動板をどうやって載せようかとまた悩みます。しかも、弊社の現状の生産設備では、いくらなんでもこのサイズのダイアフラム(面積約1,000mm²、円形では直径約36mm)を作ることはできません。そこですごく幸運なことがあります。ちょうど秋野を始め弊社の3名で、ユニットを複数使って感度を倍増するというアイディアが特許出願されるんですよ。それは円形のユニットで実験をしていたものだったんですが、円形で面積を大きくしていくとユニット間の距離が伸びて位相差の問題が出てくるけれど、長方形なら畳のように隙間なく並べられるからこれは利用できそうだと思ったんです。
しかも、偶然、試作で作っていた長方形のユニットを縦横2枚ずつ並べると、すでにデザインが決まっていたボディにぴったりと収まった。そういう幸運が重なり、2009年の1年でほぼできあがりました。いろいろなタイミングと幸運が重なり一気にでき上がる。そういうことが開発にはあるんですね。

――ユニットを複数使うというアイディアとは具体的にどういうものですか。

直列に繋いだ2枚をホット、2枚をコールドとして、合成するというものでして、感度が4倍になります。長方形の振動板でSNを稼いで、さらにこの方式でSNを稼ぐ。その結果、感度が-25dB(0dB=1V/1Pa)、S/N比89dBという非常に優れた特性が得られました。単にダイアフラムを4つにするだけではダメなんですよね。長方形のユニットとこのパテントが合体したことによって効果が倍増したんです。

――さらに数を増やしたら、もっと良いマイクロホンができそうですね。

そうはならないでしょうね。ダイアフラムの面積が増えれば感度は上がりますが、あまり大きくなると位相差の問題がでてきます。20kHzで波長は約17mmですから、それを超えるような距離ではピーク・ディップなどの問題が起き始めます。たぶんAT5040に搭載されているユニットが、ダイアフラムの最大面積を得られるベストの寸法だと思います。

――長方形のダイアフラムを作るところで苦労はありましたか?

40シリーズで使われていた機械的特性に優れたダブルウェーブダイアフラム(PAT.)を使ったことと、すでにテンションをかけた状態でリングを乗せて接着するので、それほど難しいことはありませんでした。ただ、量産体制になってから、f0のバラつきは長方形の方が大きいと製造側が言っていました。

――そこは難しいながらも、製造技術の方でカバーしたんですね。

そうですね。弊社にはダイアフラムの製造に使っている自動f0測定器というものがありまして、それが出来てからは生産効率がものすごく上がっています。AT5040は、できるだけ近い値のダイアフラムを組み合わせることで、個体ごとのバラつきを減らしています。

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