All about ARTIST ELITE 5000 audio-technica
開発ストーリー 現場リポート エンジニアインタビュー ラインアップ Support Top[Pro Audio] Home
「ARTIST ELITE5000シリーズ」の開発背景
製品化プロセスと各製品の特性
実績評価
3.エンジニアインタビュー

製品化プロセスと各製品の特性

ARTIST ELITE 5000シリーズの出発点

 1999年10月。「オーディオテクニカ」の経営陣は、マーケティングとエンジニアリングの両方のスタッフから成る国際チームを発足させました。その目的は、ツアーのどのような状況下でも操作可能なRFプラットフォームで、音響芸術の域にも達するワイヤレス・システムを作り出すこと。開発段階を通じて、このコンセプトは「ARTIST ELITE 5000シリーズ」の最終的なゴールにまで引き継がれました。つまり、もしシステムの音響性能、あるいはRF性能のどちらかに妥協せざるを得ない要素が1つでもあれば製品化は延期、最悪は中止にしてでも初志を貫き通す覚悟を持ってのスタートだったのです。
 このチームの最初の任務は、ベーシックなシステムのコンセプト概要を作成することでした。全体目標以外のところで、チームの各グループがプロジェクトに必要と思われるアイデアを出し合い、そのすべてを集計/分類してシステムの最終的な必要条件を割り出すことがこのチームの果たすべき責任でした。1999年12月に、私たちは最初のコンセプトを見直すミーティングを行ない、翌年2月に最初の工業デザインと主なセット内容についてまとめ上げました。その後すぐに極秘で外部のツアー音響関係者たちに意見を求め、再びコンセプトを調整。こういった経緯を経てチームは2000年6月に最終的な仕様の完成に至り、同時にアメリカと日本の技術者たちに、設定されたコンセプト(目標)の達成を果たす任務が通達されたのです。

開発過程は分業制に


 開発チームはまずユニークかつ独自となる新システムの特徴点をピックアップしていき、それを具現化するためにはアメリカと日本のエンジニアリング・グループの人的資源と専門知識が必要と判断しました。エンジニアリング・チームは全体の設計作業から個別のパーツ設計へと振り分けられましたが、これは通常の「オーディオテクニカ」グループの設計プロセスとは異なります。1つ1つのパーツは各グループによって高い完成度で設計されていきましたが、正直すべてのパーツが1つになる時のことを考えると心配でした。
 日本ではRFチームと回路チームがワイヤレスと音声回路の設計を担当し、ソフトタッチ・コントロールのファームウェアとほとんどの機構の設計を行ないました。「40シリーズ」スタジオ・マイクを設計したグループがマイク・カプセルの設計を担当し、工場でもカスタムの集積回路チップなどを開発する特別チームが編成されました。アメリカのエンジニアリング・チームはデュアル・コンパンダー回路、イーサーネット・インターフェース、「AEW」コントロール・インターフェース(AEWCI - Artist Elite Wireless Control Interface)の設計を担当しました。

Process 1 集積回路チップ

 技術的問題が各分野で発生しましたが、私にとって最も大変だったのは集積回路チップの開発でした。ここが成功しなければプロジェクトが進みません。要因は、すでに設計を始めていたにも関わらず、最初のサンプルの評価完了まで6ヶ月もかかってしまうことでしたが、このリスクは避けて通れないものでした。私たちはここで、オリジナルのアナログ/デジタル・チップのセットがなければ、目標のオーディオ・パフォーマンスとコントロールの機能性は得られないことに気づきます。しかし、そのチップ・セットを開発することで、製品の鍵となるデジタル・トーン・ロック・スケルチ・システムを追加できるようになりました。このユニークなシステムは、データをトランスミッターからレシーバーへ直接送ります。データのトランスファーには、トランスミッターのタイプ、カプセルのタイプ、トランスミッターのミュート状況、アッテネーターの設定、ロック状況、トランスミッターの電源設定、バッテリー・レベル、トランスミッターの名称 が含まれます。最初に使用する場合、レシーバーかソフトウェアを見るだけでユーザーは各トランスミッターの設定状況を知ることができます。これまでに開発されたシステムはパイロット・トーン信号のレベル調整によってのみ、バッテリー・レベルのデータを送るためにパイロット・トーンを使用します。デジタル・トーン・ロック・システムは実際のデータをレシーバーに送ります。

Process 2 カプセル

 “SRエンジニアたちは、カプセル設計と音響特性が同仕様であるワイヤードとワイヤレスの両マイクを欲しがっている”私たちはマーケティングの結果、そのようなニーズを受け取っていました。彼らは、定評あるワイヤード・マイクでもワイヤレスで使用すると特性が大きく違ってしまう、それがワイヤレス・システムの限界だからだ、と思い込んでいることも知りました。このような声を受けたカプセル開発チームから、ある日、ダイナミック2種とコンデンサー2種のカプセル設計の仕様が提唱されました。ユーザー各氏にはまず、「AT4033」コンデンサーを基にしたカプセルを搭載した「7000シリーズ」を試してもらいました。ここで彼らはワイアードとワイヤレスとで音響特性はほとんど変化しない事実を知ったのです。
 多くのユーザーの耳はワイヤレスに用いたダイナミック用カプセルに反応していたと思われます。その頃のダイナミック用カプセルは元々がワイヤード用に設計されていて、グリップ内にあるエレメントの後ろのエアー・チェンバーを音響上のチューニング設計の重要な要素として機能していました。ですからダイナミックと同じカプセルをワイヤレス用に加工する際、同等の音質を得るだけの空気容量の確保が必要になります。これを解消させるにはカプセルの基本設計を改善するしかありません。私たちは同じダイナミックのカプセルでも、ワイヤードとワイヤレスの2バージョンが必要であるという結論に至っていたので、先の問題を回避できたのです。
 カプセル開発チームは2種類のコンデンサー・マイクの設計を「AT4033」と「AT4050」のエレメントを基に行ないましたが、実際に「7000シリーズ」ワイヤレスで使用した際、「AT4033」がかなり良い結果を残しました。事実、私たちは「ARTIST ELITE 5000シリーズ」の最終仕様を完成させる前に、このモデル「ATW-T73」を発売しています。一方で「AT4050」のカプセルをワイヤレス用に改造することは困難でした。トゥルー・コンデンサー・エレメントを持つ「AT4050」は高電圧バイアス回路を必要とします。従来どのメーカーもこのエレメントを使ってのワイヤレス・システムを成功させたことがありませんでした。これが今、「ARTIST ELITE 5000シリーズAEW-T5400」のワイヤレス・カプセルとして、最も要求の厳しいパフォーマンスでの使用に選ばれています。

Process 3 デュアル・コンパンダー

 アメリカでは、エンジニア・チームが音響性能の改善のために引き続き新しいデュアル・コンパンダーの設計を行ないました。私たちは過去の経験から“コンパンダー回路が音質の鍵を握る”ことを知っていました。コンパンダーは圧縮と伸張のタイミングにかかっています。もし時定数が早過ぎると低周波がきちんと出ず、遅すぎると今度は高周波がきちんと出ません。高周波と低周波のベストな妥協点を配分する時定数の選択が1番のチャレンジでした。最大の困難は設計をテストすること。ラボの測定は設計者を無口にします。しかし設計を本当に最適化するには、作り上げたプロトタイプを厳しいリスニング・テストを通して評価しなければなりません。私たちはこのテストから「AT4033」ベースのカプセルのような高品質エレメントを使用することによって、コンパンダーの効果はより顕著になることを発見しました。
 高周波と低周波をベストな状態で分配する。この理論が良い結果をもたらすことは明確でしたが、実際は設計と評価の繰り返しで、最終設計に辿り着くまでに1年以上を費やしました。しかし、私たちはこの設計過程で新しい回路設計とコンセプトを発見し、これらは特許権を取得しました。新回路を追加することで「ARTIST ELITE 5000シリーズ」は、それまでワイヤード・マイクでしか得られなかった高音質を手に入れたのです。

Process 4 コントロール・ソフトウェア

 設計チームは「ARTIST ELITE 5000シリーズ」にコンピューター・コントロール機能を含ませることを決めました。外部制御に依存させないよう「AEW-R5200」レシーバーにイーサーネット・カードを内蔵し、標準のTCP/IPプロトコルを使って通信できる設計を採用しました。これによってコンピューターにネットワーク接続していれば、どこからでもレシーバーの制御が可能になりますし、ワイヤレスLANとの接続やインターネット接続も簡単になりました。
 この「ACTIVE PC CONTROL」ソフトウェアは、各チャンネルのAFとRFのレベル・モニターはもちろん、すべてのレシーバー機能の制御を可能にしました。このシステムは、デジタル・トーン・ロック・スケルチを使用しているトランスミッターから送られるデータも受け取れます。ユーザーは各トランスミッターのデータを簡単に確認でき、すべての設定状態を素早く確認できます。このユニークで便利なソフトウェアは、ワイヤレス・システムを管理するスタッフに快適な操作環境を提供します。
 2001年末。それぞれの分野に分けて進められたプロジェクトが一体となり、翌年初頭に私たちはテスト用の最初のサンプルを受け取りました。予想通り、最初のテストでいくつかの改善点が明らかになりましたが、全体的な結果としては期待の持てるものでした。同年夏に「ARTIST ELITE 5000シリーズ」の最新のテスト・プロダクション・サンプルが完成し、ラボでの何週間にも渡るテストを経て、このシステムを実際のフィールド・テストに出す準備が整ったことを感じました。システムが稼働する最初のフィールドは、ライヴ中継されるチャリティー・コンサートに決まりました。

←BACK NEXT→
Top Page | 開発ストーリー | 現場リポート | エンジニアインタビュー | ラインアップ
 
↑UP