音楽は、私にインスピレーションを与えてくれる。

MUSIC IS MY INSPIRATION

ニコライ・バーグマン

フラワーアーティスト

 日本人にとって1月1日(元日)が特別な日であるように、北欧の人たちにとっての特別な日、それは「夏至の日」だ。1年で最も昼間の時間が長い一日である。
 夏至の頃、北欧では各地で「夏至祭」が開かれる。スウェーデンやフィンランドでは、メイポールと呼ばれる木のポールが各地で立てられ、人々はその周りで歌い踊る。デンマークでは各地で盛大な焚き火が焚かれ、人々はそのそばで、飲んだり食べたり、語らい合いながら、明るい夜を過ごす。
 夏は外で過ごす季節だ。人々は長い夏休みをとり、森や湖畔のサマーハウスに滞在し、毎日太陽をたくさん浴びて、エネルギーを蓄える。
 逆に、冬の季節には、人々は巣ごもりするように室内で過ごす。暗く寒く長い冬は創作のとき。音楽家は音楽を作り、作家は文章を書き、絵描きは絵を描く。
 光にあふれる眩しく短い夏と、長く凍てつく暗い冬。そのコントラストが、北欧独特のライフスタイルを育んできた。デンマーク人のニコライ・バーグマンは、こう語る。

「心地のいい時間の過ごし方を表現する『ヒュッゲ』というデンマーク語が、日本でも広く知られるようになりました。たとえば私の故郷の家では、朝起きると、まずキャンドルに火を灯します。キャンドルに火をつけることで新しい一日が始まる。私たちデンマーク人は、天井の白い蛍光灯が苦手です。静かに揺れる柔らかな炎で、穏やかに過ごしたい。これが、ヒュッゲ。デンマーク人は居心地の良い空間や時間を大切にします。みんな自分で創意工夫して、それぞれの居心地良い場所を作るんです。花や音楽も、そんな居心地の良さと深く関係しています」

1996年、19歳のときに初来日し、’98年から日本に暮らす、ニコライ・バーグマン。人生の半分以上を、日本で過ごしてきた。
東京・南青山にある「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン フラッグシップストア」、その2階にあるオフィスに、ニコライ・バーグマンを訪ね、話を聞いた。
夏の光が燦々と降り注ぐオフィスのテーブルには、黒壇をデザインしたウッドモデルのヘッドホン「ATH-AWKT」があった。

花屋じゃなかったら、音楽家になっていた。

「私は、もし花屋をやっていなかったら、フラワーアーティストになっていなかったら、音楽家になっていたと思います。それくらい音楽が好き。音楽のない人生は考えられない。家でもオフィスでも、常に音楽が流れていて欲しい。
 こう言うのはちょっと恥ずかしいですが、私は今でも音楽を聴いて涙を流すことがあります。音楽を聴いてメチャクチャ感動する。私は、音楽から大きな影響を受けて生きてきました。

 兄が早くからバンド活動をしていて、その影響で私も幼い頃から楽器に親しんでいました。私の専門はドラムス。兄から最初のドラムス・セットをもらったのが、8歳のとき。兄と、友人たちと一緒に楽器を鳴らして楽しんでいた。音楽について、兄の影響は大きかったと思います。
 記憶にとても強く残っているのは、初めてヘッドホンで音楽を聴いたときのこと。9歳の頃でした。あるとき兄が、『目を閉じて、これで聴いてごらん』と言って、僕にヘッドホンを渡したんです。やけに立派なヘッドホンをつけて、目を閉じた。少しすると、爆音でかなり激しいロックが響いた。それは、メチャクチャ新しい体験でした。びっくりしながらも感動して、『ああ、音楽って、こういうことなのか!』と思ったことをよく覚えています」

花は日常。家にはいつも花があった。

「デンマークの首都コペンハーゲンから、車で20〜30分ほどの港町で生まれ育ちました。港の前には、黄色い壁と赤い屋根の家が建ち並んでいて、その風景はデンマークではよく知られています。
 リンゴ園を営む祖父、フローリストの母、父は鉢物の卸屋。花はとても身近な存在でした。家にはいつも花がありました。ダイニングテーブルの上、キッチン、バスルーム、玄関周りなど、家のいろんな場所にいつも花が飾られていたんです。幼い頃、ヨーロッパでの鉢植えの展示会回りをする父の仕事についていったこともありました。
 コペンハーゲンまでバスで30分ほどの街でしたが、私は都市とは反対の方向に30分行って、森や草原で時間を過ごすのが好きな子供でした。牛や羊が放牧されている牧場は、特に好きな場所で、その頃の私は、将来は牧場で働きたいと考えていました。
 15歳の頃、将来自分は、本当は何をしたいのか?と考えたとき、自分のルーツに立ち返り、植物や花に関係する仕事をやりたいと気づいたんです。それまでずっと植物に囲まれて生きてきたので、当たり前過ぎて花を仕事にしようとは考えつかなかったのでしょう。
 デンマークにはグリーン・ライセンスという国家資格があって、それを取得すれば、花屋を営んだり、フローリストとしての仕事ができます。私はその資格を取得しました。
 家族みんな花が好きだったから、花は日常のもの、あって当たり前の存在でした。ずっと後になってから、自分にとって花がいかに特別な存在だったのか気づかされたんです。
 昔も今も、花や草木、自然は、私にたくさんのインスピレーションをくれます。音楽も同じ。音楽を聴いていて、アイディアが湧いたり、やりたいことに気づいたりします」

旅をして、インスピレーションを得たい。

「デンマーク人は、子供の頃からいろんなことをDIYでやります。家の改装はもちろん、車のエンジンを自分で見てメンテナンスする人もけっこういます。青山のこの店も、私の箱根のアトリエも、内装はかなりの部分をDIYでやりました。自分が心地よく過ごすために、時間かけて、手を加え、少しずつ直していくことは、とても楽しいものです。
 オーディオ・アンプをDIYで作ることはありませんでしたが、10代の頃は、アルバイトをしてお金を貯めて、自分にとって最高のスピーカーを買って、それで好きな音楽を聴いていました。パンク、ロック、メタル、ジャズ、私はなんでも聴きます。そのときの気分で選ぶのが楽しいですね。
 もし、ヘッドホンのデザインをやらせてもらえるなら、このATH-AWKTのように、木目をあしらったデザインはいいですね。オークのナチュラルな木目を生かしたデザインとか。革の素材を使うのも面白そうです。
 また自由に移動ができるようになったら、いろんな場所へ旅をしたいですね。今、自分がインプットを求めているのがわかります。知らない場所へ旅をして、インスピレーションを得たい、自分の心にたくさんのインプットをしたいと思っています。
 思えば、20代の頃からずっと走ってきました。日本で走り続け、自分のブランドを起ち上げ、自分のステージを作ってきました。
 今、新たに次のステージに行くために、旅をしようと思っています。南アメリカ、アフリカ、そして、ブータンやネパールなどアジアの山岳地帯。異国の文化や空気、自然から、新しいインスピレーションを得たいんです。きっとまた行けるようになるから、そのときのために準備をしておこうと思います」

Cast profile

Nicolai Bergmann(ニコライ・バーグマン)
フラワーアーティスト。デンマーク出身。スカンジナビアン・スタイルのセンスと、細部にこだわる日本の感性を融合させ、フラワーデザインの世界でユニークな作品を発表し続けている。活動の幅は広く、ファッションやインテリアの分野でも世界有数の企業と共同デザイン・プロジェクトを手がけている。現在、国内外に14店舗のフラワー・ブティック、2つのカフェ、アート・ギャラリーなどを展開。著書に『いい我慢〜日本で見つけた夢を叶える努力の言葉〜』(あさ出版)。2020年11月20日から、フラワーボックス20周年を記念した展覧会『The Flower BOX Exhibition』を、六本木ヒルズ展望台・東京シティビュー・スカイギャラリーにて開催予定。
https://www.nicolaibergmann.com

Staff credit

Creative Direction by チダコウイチ
Photography by 若木信吾
Interview & Text by 今井栄一

「良い音楽と良い本は、
身体が憶えている」

幅允孝

ブックディレクター

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