昨年発表したEP『Nonadaptation』はインディ・バンドとしては大健闘のチャート13位を記録し、2019年末の単独コンサートは2,500人規模のホールを即完させるなど、過去3年くらいの韓国の音楽シーンで最もブレイクしたバンドの1つ、Se So Neon。バンドのフロントに立つ、ギター・ボーカルのファン・ソユンは結成時からの唯一のメンバーで、97年生まれの彼女はインディ音楽シーン、そして音楽というカルチャーを超えた今の韓国の若者のアイコン的な存在だ。今回は、韓国の音楽・カルチャーシーンで注目を集め、アーティストとして、素直に、自由に、人間の立体性を表現しているソユンの魅力に迫る。

楽曲を通して知るファン・ソユンの世界観

Se So Neonが2017年に発表したシングル“The Wave”は韓国大衆音楽賞のベスト・ロック・ソング部門を受賞し、その年の新人賞獲得にも繋げた「ロック・バンド」としてのSe So Neonの代名詞的な1曲だ。イントロから強靭なグルーヴとギターリフで突き進み、後半のジャム・パートでは、3人の息の合った演奏の迫力と緊張感に痺れてしまう。そしてその中で、クールにシャウトしたかと思えば、ハスキーな声でメロディを歌い、さらに鳥肌立つほどのテクニカルなギター・ソロも披露するソユンの姿はまさにカリスマ性が宿ったロックスターそのものだ。一方、Se So Neonの代表曲の中でもは優しく耳に残るメロディが印象的な“A Long Dream”や、周囲の雰囲気についていけず憂鬱を感じている人を癒すような歌詞の“Nan Chun”を聴いてみると、“The Wave”とは対照的なSe So Neonのもう1つの魅力を知ることになる。

自由に多様なキャラクターを表現するZ世代

バンドは2018年末のコンサートを機に、兵役のため当時活動を共にしていたベーシスト、ドラマーが脱退してしまう。しかし残されたソユンはその後、バンドに新たなメンバーを迎えるまでの間も休むことなく、自らの表現意欲をソロ作品で消化した。ソロ・プロジェクト、So!YoON!(読み:ソユン)として2019年5月に発表したEP『So!YoON!』ではヒップホップやR&B、エレクトロニカまで多様なジャンルのミュージシャンとコラボしながら幅広いジャンルにトライし、ファンを驚かせた。このEPについてソヨンは「私はバンド音楽をやろうとして、音楽を始めたわけではないんです。まず、音楽をやる上では色々な挑戦や実験をやってみたいっていうのがあって。やはり私にはSe So Neonのイメージがあるので、そこから脱皮するっていうことを方向性にして作ってみました」と話している(*1)。こうしてジャンルに縛られず自由に多様なキャラクターを表現していることが、彼女が10代20代を中心に支持を得ている理由だろう(*2)(*3)。

(*2)(*3)ビリー・アイリッシュやLil Nas Xなど、ジャンルに縛られない好みを持つZ世代はことでよく知られている。

そして、彼女に惹かれているのは音楽リスナーだけではない。そのスター然としたステージ上での出で立ちもあってか、アディダスやマリ・クレールなどのモデルに起用されたり、ファッション雑誌に登場することも増えている。さらに、今年の3月8日にはTwitter Koreaの「世界女性の日」にちなんだトーク・セッションに、国会議員や”韓国女性の電話”常任代表とともに招待された。今や彼女は音楽を超えた様々な分野で、何かを代表するポジションにいる。

「自由を求めることが私たちを強くしてくれる」

こうして影響力を持つ存在になると、これまで以上に大衆の声にも耳を傾けなければならなくなるだろうし、作る音楽もその時々のトレンドを意識する必要が出てくるだろう。ただ、「私を気に入ってくれようがくれまいが、私のやり方のまま成長しながら、より良い影響を与えたいです」と話す(*4)ソユンからは、あくまで自分らしさにブレないことを大事にしていることが受け取れる。そんな彼女の姿勢を象徴的に表していると思う発言がもう1つあるので紹介したい。

「インディじゃないシーンのことをいうと、ここ最近はインスタントで、自分ではなくて他人が好む音楽をやっている人が多過ぎると思います。インディっていうのはそういうところから離れて作られた音楽なんじゃないかと思います。人々が『どうやって稼ぐんだろう』と言ったとしても、そういう人たちに合わせて音楽はやっていきません。道を歩いている人皆に私たちの音楽を好んでもらうように音楽を作っているわけではないし」(*5)

そんなソユン率いるSe So Neonが2月に発表した最新シングルのタイトルは“Jayu”。韓国語で「自由」を意味する言葉だ。「自由を求めることが私たちを強くしてくれる」という思いが込められたこの曲は、アコースティック・ギターを基盤にしシンプルに作曲されながらも、ボーカル・エフェクトを用いる新たな実験が試みられた。生の声のソユンと変声された声のソユンという複数のキャラクターが同時に耳に入ってくるが、それは普段の多様な音楽、活動をする彼女の姿と重なるようにも思えた。

この曲の発表に際したインタビュー(*6)での彼女の言葉で本稿を締めよう。
「私らしい音楽とアティチュードを大切にしながら、妥協しないままどこまでいけるか気になります」。
音楽にも活動姿勢にも通ずるブレない彼女らしさをこれからも期待したい。

Words: 山本大地
Main Photo via 황소윤|So!YoON!