ブリット・アワードの授賞式は通例2月に行われていたが、今年は新型コロナ・ウイルスの影響により延期、現地時間5月11日に授賞式が開催された。今回の授賞式は英政府による研究プログラムの一環として、会場のキャパ20%となる約4,000人の観客を動員(そのうち2,500人は会場近郊に在住のエッセンシャル・ワーカーに贈られた)し、いわゆる“ソーシャル・ディスタンス”やマスク着用の義務はなく、陰性証明のある観客たちが招かれた。

4年連続で司会を務めたのはコメディアンのジャック・ホワイトホール。授賞式の醍醐味であるパフォーマンスは事前収録されたものが多く、一方でサプライズとして演出されたステージも。授賞式のオープニングアクトは、ブリット・アワードでグループ最多の28回のノミネートと9度の受賞歴があるコールドプレイ。アワードのオープニングを務めるのは通算5度目のバンドは、テムズ川に特設されたステージから最新曲“Higher Power”を披露した。彼らがテレビに出演するのは1年以上ぶりであり、ブリット・アワード2021の授賞式自体、2020年3月にロックダウンが行われたイギリス国内で1年以上ぶりに行われた大型屋内音楽イベントとなった。また、O2アリーナで音楽イベントが行われたのも1年以上ぶりのことになる。

デュア・リパが最多2冠、医療従事者への感謝と敬意が込められたスピーチ

ブリット・アワード2021のノミネート発表時に注目が集まったのは、主要部門の「ブリティッシュ・アルバム賞」。デュア・リパ『Future Nostalgia』、アーロ・パークス『Collapsed in Sunbeams』、セレステ『Not Your Muse』、J・ハス『Big Conspiracy』、ジェシー・ウェア『What’s Your Pleasure?』と、ノミネートされた5作品のうち4作品が女性ソロ・アーティストのアルバムという、アワード初のラインナップが並んだ。

「ブリティッシュ・アルバム賞」と「最優秀ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト賞」の最多2冠を受賞したのはデュア・リパ。パフォーマンスでは、ロンドン地下鉄を舞台としたステージで、最新作『Future Nostalgia』から“Don’t Start Now”、“Physical”など収録曲のメドレーを披露した。YouTubeで公開されているライブ映像では、メドレーのなかで同作収録曲でありチャートを席巻中の“Levitating”を歌わなかったことが非常に印象的だったとのコメントも多く、Z世代を代表するアーティストとしての余裕を見せたパフォーマンスとも捉えられた。

今年のアワードでは、受賞スピーチやパフォーマンスのなかで医療従事者への感謝や、第一線で働き続ける彼らの環境改善を訴えるメッセージがはっきりと発せられた。デュアは「ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト賞」受賞スピーチで、医療従事者への敬意を表しながら、彼らの給与の引き上げを訴え、「最優秀ブリティッシュ・シングル賞」を受賞したハリー・スタイルズ、英国音楽への貢献を評価する「アウトスタンディング・コントリビューション・トゥ・ミュージック賞」に選ばれたテイラー・スウィフトも同様に、受賞スピーチで医療従事者への感謝を述べている。

ラグ・アンド・ボーン・マンとピンク(アメリカよりリモートで出演)のパフォーマンスには、ルイシャム&グリニッジNHS(=国民保健サービス)聖歌隊が参加。演奏された楽曲“Anywhere Away from Here”は医療従事者に捧げられた。アワード受賞の翌日は国際デー「国際看護師の日」でもあり、本楽曲のチャリティー・バージョンがリリースされた。収益は医療現場の最前線で働く人たちへのサポートなどを行うチャリティーにあてられる。

他にも、チャリティーに紐づいたステージとして、サプライズで行われたエルトン・ジョンとイヤーズ&イヤーズ(オリー・アレクサンダー)によるパフォーマンスも挙げられる。2人はステージでペット・ショップ・ボーイズの代表曲“It’s A Sin”のカバーを披露。LGBTプライドを前面に押し出したパフォーマンスは強く支持され、直後に共同名義で同楽曲のコラボシングルがリリースされた。シングルの収益はエルトン・ジョン・エイズ基金へ届けられる。

リトル・ミックスが41年で初の女性グループ受賞、UKラップ勢の活躍も

「ブリティッシュ・アルバム賞」に続き、アワード初の快挙を成し遂げたのはリトル・ミックス。彼女たちが受賞した「最優秀ブリティッシュ・グループ賞」は41年間、女性グループが1度も受賞しなかった部門だ。受賞スピーチではメンバーの3人(昨年12月、ジェシー・ネルソンはメンタルヘルスの問題からグループを脱退)が、イギリスのポップシーンにおける白人男性至上の一面や女性蔑視、性差別、多様性の欠如に言及し、この受賞は国民的な女性グループのスパイス・ガールズやシュガーベイブス、オール・セインツ、ガールズ・アラウドたちのものでもあると語った。

「最優秀ブリティッシュ男性ソロ・アーティスト部門」を獲得したのは、アフロビーツと巧妙なストーリーテリングでUKラップシーンを席巻しているJ・ハス。最新作『Big Conspiracy』は主要部門の「ブリティッシュ・アルバム賞」にもノミネートされるなど、式には不在であったが、確かな存在感を残した。

ヘディ・ワンのパフォーマンスにはAJトレーシー、ヤング・T&バグジーが客演し、“Ain’t It Different”と“Princess Cuts”のメドレーを披露。パフォーマンスでは、ドリル・ミュージックが性差別的であり「犯罪を助長する」音楽であるという批判に対して、このジャンルはユースカルチャーの賜物であり社会的に抹殺されてきた人々のためにあると答えたうえで、人種差別やパンデミック下における政府の決定に対する疑問を呈するメッセージを織り込んだ。昨年の授賞式で話題となったUKラッパー・デイブによる“Black”のパフォーマンス同様、鮮烈なメッセージを残すステージは英大手メディアのThe Gurdianらから絶賛された。

「最優秀ブリティッシュ・ブレイクスルー・アクト賞」に選ばれたのは、デビューアルバム『Collapsed In Sunbeams』を今年1月にリリースしたアーロ・パークス。「ブリティッシュ・アルバム賞」「最優秀ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト賞」を含め3つのノミネーションに選ばれた彼女は、メディアに「Z世代の代弁者」と称されながらもそういった枠組みを否定し続け、歌には世代を超えたメッセージ性が宿っていることを主張し続けた、画期的なシンガーソングライターだ。会場で行われたNMEのインタビューでは、今回のブリット・アワードに女性アーティストやインディペンデントで活躍するアーテイストが多くノミネートされていることにも言及するなど、そのコンシャスな姿勢が見て取れる。パフォーマンスでは、向日葵に囲まれながら、ブラスバンドとともに“Hope”を披露した。

グラミー賞をボイコットしたザ・ウィークエンドのパフォーマンス

「最優秀インターナショナル男性ソロ・アーティスト賞」を獲得したザ・ウィークエンドは、グラミー賞永久にボイコットすると発言しているが、ブリット・アワードではパフォーマンスを届けている。パフォーマンスビデオでは、嵐の中に無機質な空間を出現させ、VALENTINOに身を包んだザ・ウィークエンド(着用しているバケット・ハットはSNSで話題になった)の隣にセンセサイザーを演奏するワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンの姿も。アンダーグラウンドのシーンから登場し、イギリスの名門レーベル、ワープ・レコーズからリリースを続け、ザ・ウィークエンドによるスーパーボウルのハーフタイムショーでは音楽監督を務めるまでになったダニエルがビデオに登場する意義は大きいだろう。

また、本賞のプレゼンターを担当したのはミシェル・オバマ。ザ・ウィークエンドがブラック・ライブズ・マター運動や過酷な状況下にあるエチオピアへの支援、レバノンで起こった爆撃の生存者に資金提供をするなど、数々のチャリティーを行っていることにも言及している。

韓国歌手として初めてアワードにノミネートされたBTSは、受賞ならず(「最優秀インターナショナル・グループ賞」部門)。同様に、グラミー賞でも韓国歌手として「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」にノミネートされていたが、受賞することはなかった。新曲“Butter”がYouTubeで「24時間史上最多再生回数」を記録したBTSの行方は、各アワードにとって今後のトピックになることは間違いないだろう。