アナログ再生をさらに楽しむためのアクセサリー「スタビライザー」。たかがおもり、されどおもり。音質に大きな変化をもたらす一方で、選び方を誤ると逆効果にもなりかねない繊細な存在です。その奥深い魅力と選ぶ際の注意点について、豊富な実体験をもとにオーディオライターの炭山アキラさんが解説します。

スタビライザーは“音質向上”の万能アイテムではない?

オーディオマニアはよくプラッターの中心部におもりを載せて、レコードを聴いています。スタビライザーといいます。オーディオテクニカにも『AT618a』という超ロングセラー製品がありますね。

ディスクスタビライザー AT618a
ディスクスタビライザー AT618a

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でも、一般の音楽ファンでスタビライザーを使っている人はほとんど見かけません。それでいいのでしょうか、それとも音楽ファンは知らない間に損をしているのでしょうか。

スタビライザーというグッズはある意味で両刃の剣のようなところがあり、使えば必ず音が良くなるというものではありません。プラッターやターンテーブルシートの材質、そしてあなた自身の音の好みにより、スタビライザーは毒にも薬にもなってしまうものです。

私自身は、もう40年以上もスタビライザーを使い続けていますが、それはたまたま私の手元にやってきた歴代のプレーヤーが、スタビライザーを載せるに好適な材質と構造だったから、ということがいえます。とはいっても青少年の頃の私は、今ほどスタビライザーをしっかり使いこなせていませんでしたけれどね。

ちなみにわが家のサブリファレンス・プレーヤーは、スタビライザーを使わずにレコードをかけることが多いのですが、それは特殊な使いこなしをしないとスタビライザーの副作用が強く出てしまう製品だからです。

素材と重さと音の不思議な関係

それでは、どんなプレーヤーにスタビライザーが適合するのか。これもあまり一概に言ってしまうのは危険ですが、私個人はアルミをはじめとする金属製のプラッターに、ゴム製のターンテーブルシートを装着したものが、最もスタビライザーと相性の良いプレーヤーである、と考えています。

プラッターとシートの材質、スタビライザーが合うかどうかは、非常にセンシティブな問題です。私は長年の経験からある程度の予測がつきますが、それでも時に予想を覆す組み合わせへ当たって驚くことがあります。

一例を挙げると、ある社のアクリル製プラッターを持つプレーヤーに数mm厚のゴムシートを装着してスタビライザーを載せたら、ブヨブヨとゴム臭い不自然極まる音になったものでした。そのシートとスタビライザーは、アルミ製プラッターを持つメインリファレンス機から移植したもので、当初はまさかそんなに相性が悪いなんて想像もしておらず、何が起こったか分からなかったものです。

しかし、こちらのサブ・プレーヤーも長年使いこなし、いろいろな実験に供した結果、1mm厚の薄いゴムシートに自重100g少々の軽いスタビライザーを載せると、劇的な好相性を聴かせることが分かりました。アナログ機器周りの相性というのは、本当に恐ろしく、そして面白いものだなと、深く納得したものです。

また、ゴム製や金属製のシートで、レコードを載せる面がごく薄いすり鉢状になっている製品があります。オーディオテクニカにも、かつて『AT676』と『AT677』というアルミ製のシートがありました。それらは、必ずスタビライザーを併用しなければなりません。それもかなり重めのもの、最低でも300g程度は必要です。薄いすり鉢にレコードをしっかりと密着させ、レコードとプラッターの鳴きを最小化するとともに、レコードの反りを抑えるためです。

ターンテーブルシートAT677(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています。)
ターンテーブルシートAT677(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています。)

一方、ターンテーブルシートにはフエルト製のものが少なくありませんが、それらの多くはスタビライザーなしで聴いた方がいいように感じています。概して頭を抑えつけられたように伸びやかさが減じ、フエルトの柔らかく開放的な音が損なわれてしまうことが多いのですね。フエルトとは少し違いますが、よく似た素材で製作されたある社のターンテーブルシートには、「スタビライザーを載せないで下さい」と但し書きがあるくらいです。

スタビライザーで“自分の音”を見つけよう

スタビライザーそのものにも、いろいろな材質の製品があります。金属製が多いものですが、その中でも真鍮、アルミ、ステンレス、亜鉛合金、砲金、青銅、鋳鉄など、いろいろな素材が用いられています。金属以外にもガラス、焼き物、木材、水晶、特殊な制振素材、樹脂、そしてそれらを複合した製品群など、もう数え切れないほどです。

それらすべての素材に固有の音色があり、さらに自重と形状によっても音質はコロコロ変わります。そして、そのキャラクターによりシートやレコード、そしてあなた自身の音の好みとの相性を生ずる、というわけです。私も数え切れないほどのスタビライザーを試しましたが、幸い20年ほど前に試したオーディオテクニカの『AT6274』がわが好みへピタリと合い、それ以来ずっと手元で活用し続けています。

スタビライザーAT6274(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています)
スタビライザーAT6274(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています)

スタビライザーについて書いていたら、何だかオーディオ・ビギナーの人を脅かすような内容になってしまったかと反省しています。しかし、翻っていうならば、それだけ上手くツボへはまった時のスタビライザーは音楽をどっしりと力強く安定して表現し、情報量も大幅に向上させてくれますが、ツボを外すとむしろ情報量が減り、何とも冴えない音になってしまうことがさほど珍しいことではないのです。ただレコードの中心部へ載せるだけですから、使い方は至って簡単なのですが、意外と奥の深いアクセサリーといってよいでしょう。

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Words:Akira Sumiyama

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