「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。
ZEPが刻んだ伝説のステージを追体験
レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)が1975年に発表した2枚組アルバム『Physical Graffiti』の発売50周年を記念して、ライブ音源4曲を収録した12インチシングル「Live EP」が180g重量盤で登場した(ちなみにCDも併売中)。折しもバンドが初めて公式に認めたドキュメンタリー映画『レッド・ツェッペリン:ビカミング』の全世界公開も重なり、ZEP再評価の気運が高まっている。
ここに収録された4曲は、75年英国アールズコート公演時の「In My of Dying」と「Trampled Under Foot」、そして79年英国ネブワース公演時の「Sick Again」と「Kashmir」だ。いずれの音源も03年リリースの映像コンテンツ『Led Zeppelin DVD』に初めて収録されたものだが、レコード/CD化されたのは今回初である。アールズコート公演は前述の『Physical Graffiti』リリース後、その4年後のネブワース公演は久しぶりの地元での公演とあって、バンドのひとつのピークを捉えた録音といってよいだろう。
『Physical Graffiti』は、75年2月下旬にリリースされ、直後に全米レコード協会(RIAA)によるプラチナムディスクを獲得。これは2枚組アルバムとしてはひじょうに稀なことであり、 “史上最強の2枚組アルバム” といわれる所以である。現時点では17xプラチナムディスクに認定されているようだ。
 
こうした発掘ライブ音源によくありがちな、録音品質がいまひとつという評価は本作には当てはまらない。ジョン・ポール・ジョーンズ(John Paul Jones)と、ボンゾことジョン・ボーナム(John Bonham)が繰り出すリズムはひじょうに力強く、ロバート・プラント(Robert Plant)のシャウトはたいそう伸びやかでパワフル。そしてジミー・ペイジ(Jimmy Page)のギターはビシビシと切れまくっている。これほどの熱い演奏がなぜ当時発表されなかったのか、不思議でならない。
 
冒頭の「In My Time of Dying」は、ステージの怒涛の臨場感が迫り来るよう。ボンゾの大口径のバスドラムのヘヴィなビートと、ジョーンズのうねるベースのコンビネーションが実にいい。右チャンネルのギターの荒々しいフレージングに先導されるようなグイグイと突き進む推進力を感じる演奏だ。転調しての間奏部以降のスピード感も凄まじく、ギターのカッティングは鋭利な刃物さながらの切れ味だ。
B-2「Kashmir」はちょっとサイケデリックな雰囲気と、オリエンタルなエスニックムードがユニークな楽曲。ペイジのギターのフレージングやプラントの歌唱がそうした印象を補強しているわけだが、それらを支えるのが、ジョーンズのベースラインの、地味だけれども安定したリズム。後半のボンゾのドラムは最早超人クラスだ。
4曲トータル34分超。EPとあるが、充分にアルバム1枚分の満足感である。
Words:Yoshio Obara
