日本の音楽は一般に「邦楽」といいますが、そのスタイルや表現は実に多彩。シティポップやJ-POP、演歌、アイドルソングなど、時代や文化の影響を受けながら発展してきたジャンルが数多く存在します。邦楽の主要ジャンルの音楽的特徴や背景、そして代表曲について、オーディオ評論家の小原由夫さんに解説していただきました。(今回は一般に「邦楽」と呼称される日本の音楽を採り上げております。ただし、雅楽や民謡などの日本の伝統的な古典音楽、いわゆる「純邦楽」については省かせていただいております。)

目次
J-POP
J-ROCK
ヴィジュアル系
アニソン(アニメソング)
ボーカロイド

J-POP

正しくは「Japanese Popular Music」で、主に1990年代以降の、洋楽の影響が色濃い邦楽を指す。名称の由来は、FMラジオ局が洋楽と並んで紹介しても遜色のない呼び名として使い始めたのがきっかけとされる。

ロックやR&B、ヒップホップ、エレクトロニックなど洋楽的なメロディやコード進行、8ビートや16ビートのリズムを特徴とした音楽スタイルで、J-POPが隆盛する以前に主流だった歌謡曲に比べると概ねテンポも早いが、歌詞自体は日本語特有の繊細さや多様な表現、語彙や比喩を活かしているものが多い。叙情性やストーリー性なども歌謡曲から派生しているといっていいだろう。

毎年ヒット曲が生まれるこのジャンルであるが、代表曲としてサザンオールスターズの「TSUNAMI」を挙げる。キャッチーなメロディーと切ない歌詞の相乗が素晴らしい、J-POP屈指の名バラードといえよう。

J-ROCK

「Japanese Rock」の略称で、日本のロック全般の総称として使われる。J-POP同様に、明確な音楽ジャンルを分類するものでなく、日本のロックシーン全般を指す。またJ-POPとの厳密な境界線はなく、近年は双方を明確に区別することが困難になりつつあるが、一般的にはJ-POPが「キャッチーで大衆的な音楽」で、J-ROCKは「バンドサウンドを重視した音楽」とカテゴライズされることが多い。

従ってその音楽性においても、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムというバンド編成が基本となっており、ハードロックやオルタナティブロック、パンクロック等の欧米のロックの影響を受けつつ、日本語の歌詞や独特のメロディラインが取り入れられた独自のスタイルを構築している。歌詞は社会問題や政治、哲学的メッセージの他に、恋愛感情や内省的なものなど、多岐に渡る。また、ステージやライヴなど、生演奏のパフォーマンスに力を置くバンドが多いのもひとつの傾向だ。

J-ROCKの象徴的バンドとして真っ先に私の頭に浮かぶのは、B’zである。ヴォーカリストの稲葉浩志とギタリストの松本孝弘による鉄壁のユニットは、40年近い長い活動歴でヒット曲も多いが、やはり「Ultra Soul」を挙げないわけにはいかない。

ヴィジュアル系

日本のロックバンドの様式のひとつで、音楽性のみならず、メイクや髪型、衣裳などの視覚(ビジュアル)的要素を重視した表現スタイルを指すキーワード、およびその様式に則したバンドをいう。派手なメイクや奇抜なヘアスタイル、中性的ファッションなどを基盤に、ゴシック、パンク、サイバーなどのスタイルが主なもの。また、特定の音楽ジャンルを指すのでなく、あくまでロックをベースとしつつ、ヘヴィメタルやパンクロック、エレクトロニックなどの様々な音楽スタイルがある。

彼らのステージは、楽曲の歌詞やメロディーはもちろん、ステージ構成や舞台造形など、視覚的にも統一された世界観で繰り広げられ、そうした様式を踏襲した服装やメイク、コスプレでライブ等をサポートするファンも多い。

ヴィジュアル系バンド黎明期のX JAPAN、黄金期のGLAYなど、時代毎に象徴的なバンドは数多いが、ここではあえて老若男女を含め、お茶の間でも広く人気を集めたゴールデンボンバーの「女々しくて」を代表曲としよう。

アニソン(アニメソング)

アニソンとは、「アニメソング」の略称だ。今や日本を代表する文化として世界から注目を集めている “クールジャパン” の一大コンテンツであるアニメ。その主題歌や挿入歌、イメージソングの総称である。これは音楽ジャンルというよりも、アニメ作品と関連した文脈で定義され、従ってそれらは多様な音楽ジャンルで構成されており、一括りにするのは難しい。歌詞やメロディはアニメ作品と深く関わっており、ストーリーや登場人物など、作品の世界観と強固に結びついている。

アニソンを歌う歌手は、水木奈々のような声優はもちろん、水木一郎やささきいさお等、アニソンにほぼ特化した活動をする歌手(一般にアニソン歌手)もいる。また、そうした歌手はライヴやフェス等でファンとの交流を尊重する傾向も近年見られる。もちろんアニメ音楽を専門としないミュージシャンがアニソンを歌うこともあり、YOASOBIや米津玄師がそうだ。

代表曲として、国内外で未だに圧倒的な支持を受けるテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を挙げたい。歌っているのは高橋洋子で、1997年に公開された劇場版『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の主題歌「魂のルフラン」も彼女の歌唱による。

ボーカロイド(ボカロ)

ボーカロイドとは、ヤマハが開発した歌声合成技術、およびその応用機器の総称で、ユーザーが歌詞と音階(メロディー)を入力することで、人間の歌声を元にした歌唱ができあがる。これらの楽曲は「ボカロ曲」と呼ばれ、ひとつの音楽ジャンルとして確立されている。2003年にドイツで開催された楽器見本市で同技術が初めて発表され、04年に製品化された。

その制作過程は、サンプリングされた歌手の声質「歌声ライブラリ」と、歌声の編集ソフト「VOCALOIDエディター」の組合せで構成される。人間が歌うのが難しい高いキーの声や高速のメロディーが表現できるのも特徴だ。

ボーカロイドは専用ソフトウェアにてデザインされたキャラクター設定がメインだ。その最も知られる存在が「初音ミク」で、07年に「VOCALOID2エンジン」と「クリプトン・ フューチャー・メディア社」によって作成され、初音ミクによるボカロ曲が大きな話題を集めた。代表曲として「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」を採り上げよう。ちなみに「みくみく」とは、初音ミクのファンの間で用いられるスラングで、「初音ミクに魅了される、夢中になる」という意味がある。

Words:Yoshio Obara

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