カバー曲とは、過去にリリースされたオリジナルの楽曲を、同じ歌詞、同じ曲の構成のまま別のアーティストが演奏、歌唱、編曲をして録音された楽曲のこと。歌い手や演奏が変わることでオリジナルとは違った解釈が生まれ、聴き手にその曲の新たな一面を届けてくれます。ここではジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、曲の背景やミュージシャン間のリスペクトの様子など、カバー曲の魅力を解説していただきます。

ビリー・ジョエルの「Just The Way You Are」

70年代末から80年代初頭にかけてのビリー・ジョエル(Billy Joel)の人気は凄まじかった。出すアルバム、出すシングルがすべて洋楽チャートを席巻。音楽専門誌の表紙を飾らない月はなかった。さらに象徴的なのは、彼の大ヒットアルバム『52nd Street』(以下、邦題の『ニューヨーク52番街』と表記)が、世界初の音楽CDとして御殿場のソニー工場でプレスされたことである。

その『ニューヨーク52番街』の前作に当たるアルバムが『The Stranger』で、今回採り上げる「Just The Way You Are」(以下、邦題の「素顔のままで」と表記)は第1弾シングルとして77年9月にリリースされた。

ビリー・ジョエルの「Just The Way You Are」

本楽曲は、当時のビリーの妻エリザベスに捧げられたラヴソングで、イントロから聴こえるフェンダー・ローズピアノは、ビリー自身による演奏。間奏部のサックスソロは、ジャズ・アルトサキソフォニストのフィル・ウッズ(Phil Woods)による。ビルボード誌のシングルチャートでは、ビリーにとって初めてのトップ10入りとなり、最高3位まで上昇。翌年のグラミー賞では、最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞の2部門を獲得している。

ミディアムスローのゆっくりとしたテンポは、ボサノヴァのリズムを取り入れている点が特色で、サックスソロも含めてひじょうに温かみを感じる曲想だ。全編を通してフェンダー・ローズピアノとコーラスの調べが美しく、ビリーの声もたいへん伸びやかで、情感のこもった素晴らしい歌唱である。

ダイアナ・クラールの「Just The Way You Are」

カバー演奏として採り上げたのは、女性ジャズ・ヴォーカル界のクイーン、ダイアナ・クラール(Diana Krall)。2002年に発表したライヴアルバム「Live in Paris」にボーナストラックとして収録された、スタジオ録音の演奏である。

ダイアナ・クラールの「Just The Way You Are」

収録は米ニューヨークのAvatar Studiosにて、マイケル・ブレッカー(Michael Brecker)がテナーサックスソロで参加した他、ロブ・マウンジー(Rob Mounsey)のキーボード、クリスチャン・マクブライド(Christian McBride)のベースなど、アルバム収録の他のライヴ楽曲とはメンバーが異なる(唯一の共通点は、ギターのアンソニー・ウィルソン(Anthony Wilson)のみ)。

プロデュースはトミー・リピューマ(Tommy LiPuma)、録音エンジニアはアル・シュミット(Al Schmitt)と、いずれも既に他界しているものの、鉄壁のコンビによるサポートだ。

ダイアナは自らのピアノでAメロをしっとりと歌う。Bメロではパーカッションが入り、カラフルな印象が加わる。キーボードのコーラス的な処理も含め、オリジナルにかなり忠実なカバー演奏といえる。演奏家も制作陣も大物揃いとあって、さすがは優れた録音、演奏である。

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Words:Yoshio Obara

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