今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。

今回登場するのは、映画とインディロックへの深い愛情をサウンドに詰め込むHomecomingsより、ソングライティングを担う畳野彩加と福富優樹。紹介された5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

福富優樹が考える「アナログ・レコードの魅力」

進学で京都の街で暮らし始めたときに一番衝撃だったのが街中にレコード屋がたくさんあることでした。

昔からレコードそのものへの憧れもあったのですが、小さな町で暮らす高校生の僕にとってはタワレコやブックオフでCDを集めることがやっとで、それが宝物でした。そんな僕にとってレコード屋さんというその空間自体がとても魅力的な場所だったのです。自主音源のCD-Rや本屋では見かけないような雑誌、たくさんのフライヤー、そういったものすべてが新鮮で、何回も何回も通っては少しずつ部屋のレコードも増えていきました。

みようみまねでスピーカーに繋いだレコードプレイヤーから聴こえてきた音はもしかしたらCDよりもいいものとは言えなかったかもしれないけれど、憧れや興奮がそのまま震えて鳴ったようなその音にはどんなものよりもワクワクさせられました。

ジャケットが大きいとか針を落として音楽を聴く行為とか、いろんなことが好きだけど、結局はあの頃集めていたCDと同じように、宝物のように愛おしい音楽が手に取れる宝物として自分の部屋にやってくる、ということがただただ嬉しいのだと思います。

Low『Christmas』

Low『Christmas』

大好きなバンドの大好きなクリスマス・アルバム。トレイシー・ソーン(Tracey Thorn)のクリスマスレコードも大好き。このレコードはHomecomingsのイギリスツアー中に行った「Rough Trade Shop」の本店で買いました。となりにあったベーグル屋さんが超最高だった。ツアーの思い出も詰まった一枚。(畳野彩加)

Big Thief『Two Hands』

Big Thief『Two Hands』

カバーするくらい大好きなバンドの大好きなレコード。自分たちのラジオでかけたくてレコードで買いました。おやすみの日にぼーっとしながらよく聴くレコードです。エイドリアン・レンカー(Adrianne Lenker)がとにかく好き。来日公演も最高だった。(畳野彩加)

Wheat『Hope And Adams』

Wheat『Hope And Adams』

無人島に持っていきたいくらい大好きなアルバム。デイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)の手がけた作品ならとりあえず買ってみるか、みたいな時期に遠征先のディスクユニオンでCDを買ったのを覚えています。

ずっとアナログで探していたけれど見つからず、何年か前の誕生日に自分へのプレゼントとしてDiscogsで買いました。まぁまぁ高かったけどそれもまた思い出。90年代の終わりと2000年代初頭の空気が混ざりあった、エレクトロニカ〜フォークトロニカ風味のUSインディにエモの感触もあり、という自分が好きな音や匂いが詰まっている大名盤です。レコードノイズも似合う。A面もB面も全部余すことなく好きすぎる一枚です。

なかでも「Don’t I Hold You」が最高の一曲で、この曲の7inchは「100000t」という京都のレコード屋さんで買いました。(福富優樹)

Disiniblud『Disiniblud』

Disiniblud『Disiniblud』

いまのところ今年いちばん夢中になったレコード。ラチカ・ナイヤル(Rachika Nayar)が新しくはじめたユニットでジュリアナ・バーウィック(Julianna Barwick)も参加、というクレジット的な情報だけで予約して買いました、と言いたいところですが、実際はこのジャケット! レコードで欲しくなる最高ジャケットです。

ポストロック、IDM、エレクトロニカ、そしてAphex Twin『Drukqs』に映画『エターナル・サンシャイン』。

2025年は僕にとってこのレコードが出た年、として忘れられない年になるかもしれません。(福富優樹)

Daniel Powter『DP』

Daniel Powter『DP』

2000年代中期〜後期に毎日MTVやスペースシャワーを観続ける10代を過ごした僕にとって、『アメイジング・スパイダーマン』でおなじみのマーク・ウェブ(Marc Webb)監督が撮ったMVというのはかなり特別なもの。当時僕が思い描く「洋楽」そのものの質感が画面いっぱいに詰まっていたのでした。

イエローカード(Yellowcard)、マイ・ケミカル・ロマンス(My Chemical Romance)にオール・アメリカン・リジェクツ(The All American Reject)にフーバスタンク(Hoobastank)。クレジットにこそ載っていないものの、針を落として目を閉じると浮かびあがるMVの印象的なカットたち。

そんなマーク・ウェブ作品のなかでも印象的な「BAD DAY」が収録された名盤がようやく去年のRSDでアナログ化。名曲だらけの大名盤です。マーク・ウェブ監督といえば『500日のサマー』のサントラLP(最近再発されました)もかなり最高です。(福富優樹)

Homecomings

メンバーは畳野彩加(Vo/Gt)、福田穂那美(Ba/Cho)、福富優樹(Gt)。これまで台湾やイギリスなどでの海外ツアーや、5度に渡る「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演など、2012年の結成から精力的に活動を展開。日々の喪失感を柔らかい優しさで包む歌声。日常を壊れそうなほど淡く描写していくリリック。コーラスやギターの響きを目の覚めるような彩りに変える演奏。インディ、エモ、シューゲイザー、ポップスの間を率直に進みながら、聴く人の心の彼方まで届く音楽によって、オーディエンスから深く信頼されている。

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Edit:Shoichi Yamamoto

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