アナログレコードの音質を最大限に引き出すには、洗浄が欠かせません。日常的に行いたいクリーニング、レコードを手で磨く楽しみも悪くはない。でも、効率的かつ徹底的に汚れを落とすのであれば、クリーニングマシンの出番です。超音波式とバキューム式——二つの代表的な洗浄方式の仕組みや特徴について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

クリーニングは音質と寿命を守る

音楽をより好ましく聴くために、盤そのもののコンディションを長期にわたって劣化させないために、そしてカートリッジ針先の寿命を伸ばすためにも、レコードをクリーニングすることはとても大切です。日常的な埃取りには『AT6012a』をはじめとするレコードブラシが必需品ですし、より丹念に磨くにはクリーニング液とクロスを用いた洗浄が欠かせません。

そこからさらに上級のクリーニングを目指すなら、クリーニングマシンを使った自動洗浄という方法があります。大きく分けて、クリーニング液を使って磨いた後に掃除機と同じバキュームの要領で汚れた液を吸い取るタイプと、超音波メガネクリーナーと同じ原理で音溝の中の汚れを浮かせて取るタイプの2方式があります。

アナログ再燃の裏側で、狭まる洗浄機の選択肢

バキュームタイプのクリーニングマシンは、アナログの全盛期からいくつかの製品が見受けられましたが、21世紀を迎える頃からだったか、少しずつ製品数が増えていき、つい数年前までは片手に余る数の製品が、その効果を競っていたものです。しかし、長引く円安の影響で海外からの輸入が途絶えたり、経営者の高齢化で老舗が店を畳んでしまったりという事態が続き、現在の日本で新品で購入できる製品は限られてきています。

これだけレコードクリーニングの重要性が大きく叫ばれ、ユーザーにも広く認識が共有されつつあるご時世にあって、まことにもって不可解な現象ではありますが、まだ踏みとどまってくれている社があることは、日本のレコードファンにとってとても好ましいことだ、と私は考えています。

いま手に入るバキューム式、どんなものがある?

かつて市場を賑わせていたバキューム式クリーニングマシンにもいろいろな方式があって、その多くはモーターで回転するターンテーブルを持ち、その上へレコードを固定して回しながらクリーニング液を振りかけ、付属のブラシで盤面を磨き、磨き終えたらスリット状のノズルで汚れた液を吸い取る、という方式で、現行製品の中ではPerfectionブランドのPFT-VC1がそれに当たります。

PFT-VC1の作業手順をお伝えすると、まず本体プラッターへレコードを装着します。レーベル面を保護するカバーをしっかりとネジ留めしたら、純正の薬液を適量振りかけてプラッターを回転させながら付属のブラシで盤面を磨きます。磨き終わったら、向かって右側の黒いアームを盤上へセットし、盤上の汚れた液体を吸い上げます。概ねバキュームが終わったら、今度は左側のアームを据えてやると、乾燥風が吹き付けて盤面を乾かしてくれ、それでクリーニングは終了です。

2025年11月現在、新品で購入できるもう一つのバキューム式は、クリーニングマシンのメーカーとしては最古参の英キースモンクス社製品です。同社の製品は私も愛用しています。

こちらも小ぶりのプラッターへ盤を固定し、純正の薬液を振りかけて付属のブラシで磨いていきます。多くのバキューム式がスリット状のノズルを持ち、音溝の部分を一気に吸い上げるのに対して、キースモンクスのマシンはトーンアーム状のアーム先端についた細い円形のノズルから吸い上げます。LPレコード1面につき3分くらいと少々時間はかかりますが、とても確実なバキュームです。

これはどの社の製品も多かれ少なかれそうなのですが、とりわけキースモンクスは吸引ノズルがとても繊細な作りのため、他社のクリーニング液を使うと障害が起こることがあるという報告がなされています。ですから、私は純正の液を使用されることを薦めます。この純正クリーニング液は、とても優れたクリーニング性能を有しています。

実力と個性を兼ね備えた超音波式

一方の超音波式マシンは、オーディオショップで新品として買える製品では、現在3機種ほど確認することができます。一度ある人が行った実験に参加させてもらったことがあるのですが、超音波は周波数と絶対的な強さで、レコードの洗浄力とそれに伴う洗浄済みレコードの音質が大きく違ってきます。各メーカーでは、それぞれの実験結果に基づき、独自の周波数帯と強さ、洗浄時間を設定しており、時間の長さは調節できる製品もあります。

基本的には水道水か精製水、あるいは僅かに洗浄剤を入れた水をタンクに溜め、そこにレーベルが濡れないよう養生したレコードの音溝の部分を沈め、回転させながら汚れを取り去るという動きの製品が多く、レコードをセットしてボタンを押したら乾燥まで全自動で行ってくれるもの、内部の洗浄液を取り替えながら自動で二度洗いしてくれるものなど、さまざまに工夫を凝らした製品があるのが面白いところです。

中には、「完璧な洗浄を完遂するためには、最後にしっかりとクロスで拭き上げることが大切だ」という考えの下、敢えて乾燥装置を搭載していないマシンもありますから、本当にいろいろな考え方がありますね。

私は生産・輸入終了品まで含め、ほとんどすべてのクリーニングマシンをテストしていますが、どの製品も極めて高いクリーニング性能を有していることは間違いありません。中でも飛び抜けた高性能の持ち主というべき、独HANNLのMERAが生産完了してしまったのはまことに残念ですが、それでも1台クリーニングマシンを用意しておけば、至って手間いらずにあなたのレコードがピカピカになることは保証します。便利なマシンですよ。

Words:Akira Sumiyama

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