不思議なことに、レコードは針を変えると音は劇的に変わります。 針先の形状の種類、音の違い、カートリッジの交換方法など、その楽しみ方をオーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

「レコードとプレーヤーを買った。 Bluetoothでイヤホンに音が届くから、これでひとまず何も文句なしだ。 でも、アナログのプレーヤーってカートリッジを交換していろんな音を楽しめるんじゃなかったっけ。

そこに気付かれたあなたは、アナログの広く大きな世界へもう片足がかかっています。 カートリッジ交換の楽しみへ、ぜひ一歩踏み出してみましょうよ。 」

カートリッジを変えると音も変わる

その前に、例えばオーディオテクニカのワイヤレスターンテーブルAT-LP3XBTでレコードを聴いている人なら、針交換をして楽しむという方法があります。 このプレーヤーには「AT-VM95C」というカートリッジが純正装着されていますが、実はこのカートリッジ、本体はそのままいろいろな交換針を取り付けて音の違いを楽しむことができるんですよ。

純正装着カートリッジには、接合針といってチタン製の小さな円錐の先端に顕微鏡サイズのダイヤモンドを接着した針先(スタイラス)が使われています。 針先の形状は「丸針」といって、円錐の先端を球状に丸く成型した格好です。

AT-VM95C

VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

AT-VM95C

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スタイラスの先端を楕円形に研磨し、それを前から見て横方向に配置したものを「楕円針」と呼びます。 AT-VM95シリーズの交換針で、接合の楕円針を装着したものが「AT-VMN95E」です。 丸針に比べて音溝への追従力が高まるため、高域がスッキリと伸びた繊細な表現力を楽しむことができますよ。

AT-VM95E

VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

AT-VM95E

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さらに、チタンのベースを使わず全体をダイヤとした針を無垢針といいます。 「AT-VMN95EN」は「無垢楕円針」を持つ交換針です。 少しお値段は張りますが、接合と無垢ってこんなに違うのかと、ちょっと驚くくらい音が澄んで音楽の見晴らしが良くなりますよ。

AT-VM95EN

VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

AT-VM95EN

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丸針と楕円針では後者の方が音溝の追従性が良いという話を先ほどしましたが、もっと音溝へ忠実に針先を添わせるために、特殊な研磨をした針先がいくつかあります。 「マイクロリニア針」というのは音溝に針先がライン状に接する非常に高度な針で、オーディオテクニカが高級カートリッジに使用しています。 それも使うことができるんですよ。 「AT-VM95ML」がその交換針です。 最低音から最高音までスッキリと伸び切って、余分な音がつかないのに情報量が多いことに驚かれると思います。

AT-VM95ML

VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

AT-VM95ML

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いわゆるラインコンタクト・タイプの針先にはまだいくつかあって、そのうちの「シバタ針」というものも、交換針が用意されています。 「AT-VM95SH」です。 こちらはどっしりとパワフルで、上質なのに豪快な感じの音を楽しむことができます。

AT-VM95SH

VM型(デュアルムービングマグネット)ステレオカートリッジ

AT-VM95SH

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カートリッジ本体を交換しなくても、針交換だけでこんなに楽しめる。 AT-VM95シリーズって本当に面白いですね。

左から:丸針、接合楕円針、無垢楕円針、マイクロリニア針、シバタ針
左から:丸針、接合楕円針、無垢楕円針、マイクロリニア針、シバタ針

カートリッジを交換してみよう

それでは、カートリッジ交換の方法を述べていきましょうか。 オーディオテクニカのプレーヤーは、エントリーモデルのAT-LP60Xシリーズを除いて、トーンアームからカートリッジが装着されているヘッドシェルと呼ばれる部品を外すことができます。 特に海外製のプレーヤーに多いのですが、ヘッドシェルが外せないタイプのトーンアームは、カートリッジの交換がとても大変です。 その点、シェルを外せるプレーヤーはカートリッジ交換が格段に簡単なのがうれしいですね。

ヘッドシェルとカートリッジをつなぐシェルリード線は、赤/緑/青/白の4つに色分けされています。 赤が右の+、緑が右の-、白が左の+、青が左の-です。 今のカートリッジは大半がリードを取り付けるピンの根元に各色の目印がついていますから、それに合わせて挿し込んでやるといいでしょう。

シェルリードの着け外しには、ピンセットやラジオペンチを使います。 特に先端の細いラジオペンチは1本あると便利ですよ。 あとはカートリッジ取り付けビスを回すマイナスドライバーが必要ですが、これは精密ドライバーの2.4mmくらいが適しています。 精密ドライバーは6本くらいのセットでもホームセンターで数百円くらいですから、そろえておいて損はありません。

特にオーディオテクニカのVM型カートリッジや他社のMM型などをシェルへ脱着する時は、必ず交換針を外しておきましょう。 スタイラスが装着されている片持ちの棒はカンチレバーといい、とても繊細なパーツです。 少し手や服の袖が触れただけで、曲がったり折れたりしてしまいかねません。 そういう事故を防ぐ一番の方策が、交換針を外しておくことです。 また、長袖の服で作業する際は袖まくりをしておくといいでしょうね。

ピンセットでシェルリード線を接続する
ピンセットでシェルリード線を接続する。

一方、ほとんどのMC型カートリッジは針先を外すことができず、だから針交換する際には本体を販売店へ持っていって新品と取り替えてもらうという方式なのですが、それだけにシェルへ着け外しする際には細心の注意が必要です。 必ず付属のプロテクター(スタイラス・カバー)を装着して作業しましょう。

と、こういう話題になりましたから、MC型へ変更する方法も書いておきましょうか。 カートリッジの取り付け自体はVM型などとほぼ変わりありません。 これまでの説明に従って作業して下さい。

問題はここからです。 カートリッジが音溝の振幅を拾ってそれを音楽信号にするのがレコード再生ですが、それをヘッドホンやイヤホンが再生できるようにするには概ね数十倍、スピーカーなら数百倍ほども増幅してやらなければいけません。 また、レコードには低域を小さく、高域を大きくした音溝が刻まれていますから、それを元のフラットな特性へ戻さなければいけません。

Bluetooth経由のイヤホンやスピーカーでは、音の特性をプレーヤー内で戻し、信号の増幅はイヤホンやスピーカーに内蔵されたアンプで行っています。 ところが、プレーヤー内蔵のフォノイコライザーはMM型(ここにVM型も入ります)用で、MCカートリッジはMM型よりさらに10分の1くらいの出力電圧しかなく、もう1段増幅してやらなければ再生音がとても小さくなってしまうのです。

そんなに面倒なものなら、MC型をなぜわざわざ使わなきゃいけないのか。 VM型はじめ、MM型にもたくさんカートリッジがあるじゃないか。 そうお思いの人もおられるかと思います。 しかし、MC型にはMM型にない、それでしか味わえない魅力がありますから、1人でも多くの人にそれを味わってほしいのです。

MC型の魅力

ならば、どうやったらMC型を楽しむことができるのか。 具体的に話していきましょう。 まずプレーヤーの後ろについているPHONO/LINEの切り替えスイッチをPHONOに合わせます。 そして市販のMM/MC型対応フォノイコライザーを導入します。 オーディオテクニカなら「AT-PEQ30」ということになりますね。
高級なフォノイコライザーは膨大な切り替えスイッチがついていて使いこなしの難しいものですが、AT-PEQ30は電源スイッチとMM/MC型の切り替えボタンだけという極めつけにシンプルな製品ですから、MC型ビギナーの皆さんに安心して薦められます。

AT-PEQ30

フォノイコライザー

AT-PEQ30

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あとはそこから有線でアクティブスピーカーにつなぐなり、ヘッドホンアンプをつないでヘッドホン/イヤホンを楽しむなり、ライフスタイルに応じた使い方が可能です。 もちろん、アンプとスピーカーをつないで本格的なオーディオへ発展させることもできますね。

というわけで、残念ながらBluetoothを使っている人は、そのままではシステムをMCカートリッジに対応させるのは難しいのですが、例えば単体のBluetooth送信機も存在します。 ちょっと複雑にはなりますが、そういうものをつなげば従来通り使えるようになりますね。

ところで、MCカートリッジっていくらくらいから買えるの? というと、3万円台くらいから入手可能です。 おそらく現在世界で最も安価なMCカートリッジはオーディオテクニカ「AT-OC9XEB」でしょう。 何と税抜きなら3万円を切っていますからね。 音は骨格がしっかりしてハキハキと情報量が多く、とても抜けの良い爽やかな印象です。

カートリッジ交換によってレコード再生の世界はどんどん楽しみが広がっていきます。 「あれ、このレコードにはこんな音が入っていたのか」「こんな風に聴こえ方が変わっちゃうのか」という驚きをどんどん味わうことができるでしょう。

でも、レコード再生の楽しみ方には、まだまだいろいろな方法があるんですよ。 どんどんマニアックになっていっちゃいますが、機会を見てまたお話したいと思います。

AT-OC9XEB

デュアルムービングコイル(MC)ステレオカートリッジ

AT-OC9XEB

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Words:Akira Sumiyama