日本のヒップホップ黎明期である1980年代後半にラッパー/プロデューサーとして活動を開始し、1990年代末からはDJとして最前線でクラブシーンを牽引してきたDJ MURO。 その影響力はとどまることはなく、今や欧米やアジアにも多くのファンを持つ存在だ。

そんな彼が、密かに愛してきたある機材がある。 1982年に発売された『AT-727』。 通称「サウンドバーガー」である。 片手で持ち運べるコンパクトさと秀逸なデザインで人気を博したAT-727は、熱烈なファンを生みながらも、初代モデルの生産が終わって以降は復活することはなかった。

しかし、2022年、40年の月日を経てサウンドバーガーはUSB充電とBluetoothという現代のテクノロジーを備えて復刻。 当時のままのデザインを忠実に再現しながら、カラーバリエーションは、復刻のレッドに加えて、新色としてイエロー、ブラック、ホワイトも登場している。
サウンドバーガーの新たな歴史が始まった今、満を辞してDJ MUROの口からサウンドバーガー愛を語ってもらった。

MUROさんにとってサウンドバーガーの復刻は嬉しいニュースだったのではないでしょうか?

そうですね、オーディオテクニカの製品の中でも特別思い入れのある製品なので、復刻はすごく嬉しかったですね。 オリジナルのサウンドバーガーは1990年代から中古品を探しては買って、修理しながら使っていましたから。

この形のプレーヤーって他社にはまず無いですし、海外に持っていって「そのプレーヤーは何だ?」と聞かれるのも気持ち良かったですね(笑)。 海外や地方に行く時は、レコードの試聴用にサウンドバーガーを持参しておくと便利なんです。 コンパクトで、電源がいらないしね。 海外のディーラーに頼まれて、贈ったこともあります。

MUROさんにとってサウンドバーガーの復刻は嬉しいニュース
海外に持っていって「そのプレーヤーは何だ?」と聞かれるのも気持ち良かったですね

たしかにプレゼントにも喜ばれそうですね。

この前はMISIAの誕生日だったので、新色のイエローカラーのやつをプレゼントしました。 新しいサウンドバーガーはイエローがあるのもいいですよね。 オリジナルにあった赤いサウンドバーガーは、昔から仲間内では「フェラーリ」って呼んでました(笑)。

2022年発売の復刻版サウンドバーガー『AT-SB2022』
2022年発売の復刻版サウンドバーガー『AT-SB2022』

あと、娘と一緒にレコードを聴く時は、サウンドバーガーを使うことが多いんです。 アニメの主題歌のレコードとかを聴いたり、歯磨きをさせている間にレコードかけて「この一曲が終わるまでしっかり磨こう!」とか、砂時計みたいな使い方をしてます(笑)。

Bluetoothにも対応していますし、キャンプや野外のシチュエーションでも重宝しそうです。

そうですね。 サウンドバーガーに合うスピーカーとか出てきたら、欲しいな。

本日は宇田川のFace Recordsさんでインタビューを行っていますが、サウンドバーガーで聴きたい一枚を店内から選ぶとしたら何になりますか?

さっき7インチの棚から見つけたやつで、自分が関わったレコードになっちゃうんですけど……。 2016年にプレスしたMary J. Blige(メアリー・J・ブライジ)の「 I Love You (Remix) / Be Happy」。 特にB面の「Be Happy」のCurtis Mayfield(カーティス・メイフィールド)「You’re So Good To Me」の使い方が大好きで。 この一枚はずっとレコードバッグに入りっぱなしですね。

2016年にプレスしたMary J. Blige(メアリー・J・ブライジ)の『 I Love You (Remix) / Be Happy』

MUROさんが運営しているCAPTAIN VINYLとUNIVERSALのコラボレートによる7インチですね。

ジャケットも、UP TOWNの猫ちゃんが可愛い。 12インチのデザインを7インチに縮小するっていうアイディアで作ったんですよ。 これをリリースした後、Maryも同様のスタイルで7インチのボックスを出していましたね。

MaryがMUROさんの手がけた7インチを見て「この感じ、いいじゃない」と思ったのかも知れないですね。

そうだと思います。 Mary本人からもインスタで「いいね!」が来たんで。 嬉しかったですね。 『I Love You (Remix) / Be Happy』はチェコのプレスで、盤面が分厚い作りになっているんです。

『I Love You (Remix) / Be Happy』はチェコのプレスで、盤面が分厚い作りになっているんです

なるほど。 Face Recordsさんには普段から通ってらっしゃるとのことですが、MUROさんにとってどんなお店でしょうか?

1996年に宇田川町でSAVAGE!というアパレルの店をオープンしたんですけど、それとほぼ同時期に、近所で武井さん(武井進一。 FTF株式会社 代表取締役社長)がオープンしたのがFace Recordsだったんです。

その頃は、CISCOとかManhattan Records、DMRみたいな大型店舗に対して、町のレコード屋さんみたいな小さなお店がどんどん増えだしたんですけど、Face Recordsはその先駆けだったと思いますね。 いつ行ってもセレクトがいいし、レコードの買い取りも幾度となくお願いしていますし。 二人三脚で歩んで来た感じはありますね。

その頃は、CISCOとかManhattan Records、DMRみたいな大型店舗に対して、町のレコード屋さんみたいな小さなお店がどんどん増えだしたんですけど、Face Recordsはその先駆けだったと思います

ちなみに、MUROさんは売ったことを後悔しているレコードってありますか?

いやあ、いっぱいありますね。 売って買って、買って売って、を繰り返していると、巡り巡って自分のマーキングが付いているレコードを買ってしまったこともあります(笑)。 あとは、やっぱり再発盤が出てしまうと悔しいですね。 オリジナル盤を持っていたのに売っちゃったなあ、みたいな時ね。

なるほど(笑)。 Face Recordsさんが作ったレコードマップはご覧になりましたか?

(現物を手に)これですよね? 良いですね……。 渋谷だけじゃなく、下北沢も網羅しているのはありがたいですね。 もう10年くらいシモキタに住んでいるので。 ああ、ゼネラルレコードストア(General Record Store)とかも載っているんですね。 1990年代は渋谷・宇田川町がレコード屋の中心地でしたけど、今はシモキタにも古着屋と一緒にどんどん音楽の店が増えていますからね。

Face Recordsさんが作ったレコードマップ

レコードに興味を持ち始めた若者や、たまに東京にやって来る人にも、こういうマップの存在はありがたいですね。

この間、大阪へ行った時にレコードマップがあってすごく便利でした。 まさに、東京版があればなあと思っていたところでした。

MUROさんは日本各地も飛び回っていますし、海外にもたびたび行かれていますよね。 海外のクラブシーンで面白かった国はありましたか?

最近はやっぱりタイですね。 ミュージックバーみたいな店がどんどん増えていて。 レコード好きも多いし、日本の音楽のマニアもいますね。 店名がちょっと思い出せないですけど、少し街から離れたレコード屋で、入り口にすごく大きなベアブリックが置いてあって、何だここ?と思ったんですけど。 レコード屋とおもちゃカフェが一緒になっているような店なんですよ。 そういうところで人気なのは、やっぱり山下達郎などの日本のシティポップなんですよね。

タイはクラブでDJするのも面白いですね。 お客さんが食いかかってくる感じで、熱気がすごい。 毎回挑戦する気持ちでやっています。 タイ向けのセットだと、いわゆる和モノを取り入れることが多いです。 もっともっと日本の音楽を発信していきたいと思っているので、この前BBE Musicから出した民謡のファンクアレンジっぽいやつ(『DIGGERS DOZEN』)とかと和モノを織り交ぜたり。

あと、最近はトルコも面白いらしいですね。 ディーラーの間で良いレコードが集まっているって噂になっています。

レコードマップを眺めるDJMURO

なるほど。 もうこれまでに何百回と聞かれた質問だとは思うんですが、MUROさんにとってレコードの魅力って何でしょうか?

もう生活の一部みたいになっちゃっているし、触っていないと落ち着かない、店に行かないと気がすまないみたいな。 もう病気だと思うんですけど(笑)。 一日一枚、一曲でも新しいものに出会わないと、という気持ちですよね。 レコードは、とにかくモノとして圧倒的な魅力があるということじゃないかな。

昨今はレコードブームとも言われていますが、MUROさんはそうした状況をどのように見ていますか?

インバウンドの波もあって、最近はとにかく海外のディーラーの勢いが凄いですよね。 お店のオープンと同時に外国人の方がレコード屋に詰めかけているのをあちこちで見かけます。 日本の良いレコードがどんどん海外に持ってかれちゃうんじゃないか?という危機感すら感じますね。

若者向けのファッション誌でレコードの特集が組まれたりすることも増えていますよね。 一連のブームからレコードの世界に入った人たちが、もう一歩深く「ディガー」になるためにはどうすればいいんでしょうか?

例えば、100円コーナーで試聴を繰り返して、自分の耳を使って探すことを覚えたら、より楽しくなるんじゃないかと思います。 あとは、やっぱりDJとして自分が選んだ音楽を人前で見せるということをやってみれば、さらなる深みに入っていけるんじゃないですかね。

「この曲はMUROさんがプレイしていたから買いました」ではなく「これはもうMUROさんがプレイしていたから俺は別のものを探すぞ」という気持ちが大事ってことですよね。

そうですね……(笑)。 いろいろなジャンル、いろいろなレコードを聴いて、音楽の幅広い楽しみ方を知ってほしいですよね。

DJ KRUSHから教わっていたころも、とにかく人と同じことをしていたらやっていけないよ、と言われていたんです。 このレコードはもう他のDJがかけているからやめよう、という意識は昔から変わらず持っていますね。

いろいろなジャンル、いろいろなレコードを聴いて、音楽の幅広い楽しみ方を知ってほしい

なるほど。 今はデータDJが当たり前の時代ですが、そうしたなかでもヴァイナルオンリーのスタイル貫いているDJがまだまだ多くいることや、若者たちの間でレコードショッピングの文化が広がっていっているのは、世の中がなんでも均質になっていくことへ抗う動きというか。 頼もしいことだなと思ったりするんですが。

最近、ポップアップのレコードストアをやったんですけど、そこに設けた100円コーナーに若い子がすごくたくさん集まったんですよ。 中学生や高校生もいるんです。 びっくりして、思わず話しかけちゃって(笑)。 そういう子たちがどんどん現れてきているのは、頼もしいなと思います。

若い人には、やっぱりクラブやレコードショップに行って現場を感じて欲しいですね。 家でパソコンを開いて得られる情報もありますけど、自分の足で探すっていうのがレコードの醍醐味だと思います。 現場というものを味わいながら楽しんで欲しいですね。

そこでまさに、このレコードマップがあれば便利ですよね。 これ片手に街に出て、Face Recordsで買い物して、帰ってサウンドバーガーで聴いて。

間違いないです(笑)!

家でパソコンを開いて得られる情報もありますけど、自分の足で探すっていうのがレコードの醍醐味だと思います"

「レコードジャケットを探せ!」キャンペーン

レコードマップのリリースとともに、サウンドバーガーやオーディオテクニカ製品が当たる「レコードジャケットを探せ!」キャンペーンを 2023/10/20(金)〜2023/11/30(木) まで実施します。 キャンペーン期間中に参加店舗店頭に設置された”レコードジャケットを モチーフにしたイラスト”を撮影し、SNS(Instagram/ Facebook / X)に投稿することで、 合計 30 名様にオーディオテクニカ製品やレコードマップグッズが当たるユニークな SNS キャンペーンとなっています。 更に投稿画面をスタッフに提示することでその場でノベルティをプレゼント致します。

実施期間:2023 年 10 月 20 日(金)〜2023 年 11 月 30 日(木)
参加方法:参加店舗店頭に展示中のジャケットイラストを撮影して、SNS で タグ付け投稿
ハッシュタグ:「#レコードマップ 2024」または「#RecordMap2024」

参加店舗:
Face Records SHIBUYA
Face Records MIYASHITA PARK
タワーレコード渋谷店
TOWER Vinyl SHIBUYA
HMV レコード渋谷店
RECOfan MAGNET by SHIBUYA109
ディスクユニオン下北沢店
General Record Store SHIMOKITAZAWA

キャンペーン詳細はこちら

DJ MURO

日本が世界に誇るKing Of Diggin’ことMURO。 「世界一のDigger」としてプロデュース/DJでの活動の幅をアンダーグラウンドからメジャーまで、そしてワールドワイドに広げていく。 現在もレーベルオフィシャルMIXを数多くリリースし、国内外において絶大な支持を得ている。 TOKYO RECORDSのプロデューサーにも名を連ね、多岐に渡るフィールドで最もその動向が注目されているアーティストである。 毎週水曜日21:00〜 TOKYO FM MURO presents「KING OF DIGGIN’」の中で、毎週新たなMIXを披露している。

Photos:Keisuke Tanigawa
Words:Shoichiro Kotetsu
Edit:Kunihiro Miki