オーディオライターや評論家たちは、レビューやコラムを通して日々私たちにオーディオ情報を届けてくれています。 そのレビューを執筆する際に必ず行うのが試聴です。 今回は、オーディオライターの炭山アキラさんが2台のリファレンス・プレーヤーを使った時に体験した、ちょっと怖いお話をお届けします。

驚くほどの相性の悪さ

ここからは、私が体験したちょっと怖い話です。 わが家には、レコードプレーヤーが2台あります。 1台はプラッターがアルミ製、もう1台はアクリル製の製品です。

アルミ・プラッターのプレーヤーは、もうかれこれ30年以上使い続けている製品で、カートリッジやスタビライザー、ターンテーブルシートなどのアナログ関連アクセサリー類は、そのプレーヤーと好相性のものをそろえてあります。 一方、アクリル・プラッターのプレーヤーは導入してからまだ数年と日が浅いため、その製品専用で集めたアクセサリーというのはそれほど多くありません。

それで、当初はアルミ・プラッターのプレーヤーからいろいろ移植して使おうとしたのですが、そこで事件が起きました。

長年愛用しているプレーヤーで、私はゴムと金属のシートを愛用しています。 ゴム製のシートはオヤイデのBR-12、金属製のシートはオーディオテクニカのAT677という古い製品です。 どちらのシートも外周から軸の部分へ向かって僅かに凹んだ薄いすり鉢型で、300g以上のスタビライザーを載せることによってレコードの反りを抑え、密着性を高めることを目指した製品たちです。

ターンテーブルシートAT677(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています。)
ターンテーブルシートAT677(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています。)

一方、アクリル製のプラッターを持つ、我が第2リファレンス・プレーヤーは、フェルトと和紙のシートが付属していました。 フェルトは若干柔らかめの落ち着いた傾向、和紙はピシリと締まってやや乾いた質感の音質表現となります。

それらの音質で満足していれば良かったものを、せっかくだから第1リファレンス・プレーヤーのノウハウも移植してやれと考え、まずオヤイデのゴムシートを敷き、我が家の純正組み合わせ的に愛用しているオーディオテクニカのスタビライザーAT6274(生産完了)を載せて、愛聴するレコードへ針を落としました。

スタビライザーAT6274(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています。)
スタビライザーAT6274(オーディオテクニカ所蔵。すでに生産は完了しています)

そうしたら、もう大惨事です。 音はいっぺんにブヨブヨとゴム臭くなり、アタックが鈍って音色も不自然なことこの上もありません。

一体何が起こったんだと、慌てて第1リファレンス・プレーヤーを召還し、ゴムシートとスタビライザーを載せて音を出したら、ごく普段から聴いているちゃんとしたバランスの音で鳴り響きます。

それでは金属製ではどうかとAT677とAT6274を使ってみたら、今度は重々しいばかりで音が一向にこちらへ飛んでこず、薄暗い音色の何とも冴えない音になりました。 第1リファレンスで聴かれる、ピリッと張りがあってパワフルかつ切れ味鋭い音楽再生とは、まるで似ても似つかない質感です。

狙っていた音が再現されないかもしれない恐怖

プレーヤー周りはアクセサリーの相性に向き不向きがある、という傾向はこれまで何度も確認してきましたが、ここまで致命的に音質を損なってしまった相性の悪さとは、長いレコード生活の中でも出合ったことがありませんでした。

オーディオライターとしてごく正直に発した論評も、それを信じてアクセサリーを購入してくださった読者様がお持ちの装置との相性次第では致命的な音質劣化をきたす可能性があるということです。
お客様にとってもせっかく懐を痛めて買ったアクセサリーでは音質を伸ばすどころか悪化させてしまうとしたらと考えると、肝を冷やしました。

まだ実験不足で100%の確証を得ているわけではありませんが、この違いはアルミとアクリルという、プラッター材質の違いがもたらしたものではないかと考えています。 この現象を確認して以来、ターンテーブルシートの音質を評価する際には、試聴したプレーヤーのプラッター材質を極力書き添えるようにしています。

機器の相性、好みの相性

私がまだ若者の頃の話です。 オーディオ評論家の故・長岡鉄男さんが好意的に評価されていたオーケストラのレコードを入手し、「どんな素晴らしい音だろう」とワクワクしながら針を落としたら、埃っぽく茫洋としたコンサートホールから、濁ってショボくれたオケの音が聴こえてきて、ガッカリしたものです。

その時は、「ちくしょう、評論家なんて嘘つきだ」と若気の至りで早合点しそうになりました。 しかし、その後プレーヤーもカートリッジも買い替え、長岡さんと同じようなスピーカーを自作するようになって、ふとそのレコードを思い出してかけてみたら、もうビックリでしたね。

澄み切った空気を満々と湛えた広大なコンサートホールが眼前に現れ、その遥か遠くへ精密なミニチュアのオーケストラが並び、生きいき朗々と音楽を奏でるじゃないですか。 コンサート・ホールの2階席で聴いているような質感です。 「あぁ、自分の装置と腕前が悪かったんだな」と痛感した出来事でしたね。

プレーヤーとアクセサリーの相性と同じように、筆者と読者の間にも相性のようなものはありますし、オーディオ機器と同様、読者側のちょっとした工夫で、記事の内容をより活かすことができます。 皆さんもオーディオ記事を、上手く使いこなして下さいね。

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Words:Akira Sumiyama