レコードプレーヤーでもヘアドライヤーでも調味料でも、新しく何か買う時には誰かの意見を参考にする人は多いはず。友人からの評判や検索エンジンで出てきたレビューで好評であれば、なんとなく良いものだと思ってしまいます。それが雑誌や新聞といった紙面の情報なら尚のこと。しかし実際に使用してみると、「あれ、何か違う?」「私には合わないかも」という結論に至ったことはありませんか?今回はオーディオにまつわるレビューについて、オーディオライターの炭山アキラさんに教えていただきました。

好みや目線は十人十色

私自身、オーディオ雑誌やウェブマガジンなどに文章を寄せています。というか、それが本業だと思っていますし、読者の皆さんに可能な限り分かりやすく参考になる情報を提供しよう、と頑張っているつもりです。

そんな立場でこういうものの言い方をすると、落雷が直撃してしまいそうなものですが、今回はあえて少し恐ろしい話をしようと思います。「オーディオ雑誌の記事はそのまま信用していいの?」というお話です。

私を含めて現在活動中のオーディオライターや評論家という存在は、少なくとも一人ひとりは誠実に、読者の参考になるべく論を立て、文章を書き進めています。ここは皆さんにご信頼いただきたいと思います。

でも、ある評論家の記事を参考に機材やアクセサリー、レコードなどを買った。しかしあれあれ、それが額面通りに魅力的なものとは感じられないじゃないか。そんなご経験がおありの人がおいでではないですか。

そういう場合、私の知る限りその評論家が評価対象の魅力を “盛って” 表現し、上げ底の評価をしている、というわけではありません。

人にはそれぞれ「好み」というものがあり、また「ものの見方」も人それぞれです。ひとつの山を何人かの人が見たら、ある人は「素晴らしい緑に囲まれた山だ」と思い、別の人は「稜線の描き出す風景が美しい」と思うかもしれません。どちらもその山を好意的に見ていますが、注目するポイントが違っているのです。

人にはそれぞれ「好み」というものがあり、また「ものの見方」も人それぞれ

また、その山には針葉樹が多く植林されていたとしましょう。整然と斜面を覆う杉林を秩序立って美しいと捉える人もいれば、もう少し雑然とした、しかし生命感あふれる広葉樹林を好む人にとっては、その山は人工的に過ぎると感じられてしまうかもしれません。

オーディオ製品やレコードなどもそれらと似たところがあり、それぞれに固有の持ち味が “刺さる” 人には大変な魅力を感じ、一方で個人的なスイートスポットから外れると一向にピンとこない、ということは決して珍しくないのです。

プロの音楽評論家でも、それぞれ違った音楽の聴き方をする

私自身、アマチュアのオーディオマニアだった頃は、「この先生は参考になる」「この先生のおっしゃっていることはちょっとよく分からない」なんて生意気な感想を抱いていました。しかし、私は幸せ者ですね。アルバイトとして業界へ潜り込んだ結果、編集者となって数多くの評論家と仕事をさせてもらう機会を得、何人かの先生には担当編集者として仕えることができました。

そういった先生方は、基準(リファレンス)としている機材も部屋ももちろん違いますが、何より大きく違ったのが音楽の聴き方です。例えば同じクラシックでも、穏やかな曲をそう大きくない音量で聴かれる人もおられれば、豪壮な大編成のオーケストラを雷鳴轟くような音量でかけられている人もおられます。これではある程度評価にバラツキが出ても仕方ないな、と感じるに十分な違いでした。

まずは自分と好みが近い評論を参考にしてみよう

そうなると、読者の側はどうすればよいか。個人的には、「自分に合った評論を探す」のがよろしいのではないかと思います。まず、一番大きな手掛かりになるのは、筆者が用いているリファレンス・ソフトです。ご自分が日頃聴かれているジャンルと共通したものをメインで音質を評価されている記事が、比較的あなた向きといっても過言ではないと考えるものです。

あとは、もちろん可能な限りということではありますが、評論家がオーディオショーや販売店のフェアなどで行うセミナーをのぞいてみることを薦めます。それぞれの先生方がどんな装置でどんなソフトをどんな音量で再生し、再生された音楽をどんな言葉で表現されるか。これが分かると、雑誌などの記事を読む際の大きな基準の一つになると思うのです。

機器の相性も「あれ、何か違う?」の原因になり得る

これは特にレコードの周辺に大きいことですが、プレーヤーとカートリッジやアクセサリーなどに、絶望的な、あるいは危険な、といってもいいくらい大きな「相性」の問題があります。

まず、一見問題なさそうに見えて、実は組み合わせの難しいものについて解説しましょうか。オーディオテクニカのプレーヤーAT-LPW50BT RWを一例とすると、付属ヘッドシェルとリード線、ビス込みで取り付けられるカートリッジは自重11.5~16.5gとなっています。付属ヘッドシェルがパーツ込みで8.5gですから、カートリッジ本体なら3~8gということになりますね。

オーディオテクニカのカートリッジはほとんどがその枠へ収まっていますから、あまり問題がないともいえますが、特に高級なMCカートリッジでは13gほども自重がある製品が結構存在しますし、同社でも最高級カートリッジのAT-ART1000は11gですから、取り付けられないことになります。

高級なMCカートリッジでは13gほども自重がある製品が結構存在しますし、同社でも最高級カートリッジのAT-ART1000は11gですから、取り付けられないことになります

1/10g単位まで測ることができる精密な針圧計を購入し、トーンアームのカウンターウエイトへ鉛のシートなどでおもりを付加するなどすれば、アームの規定自重から外れたカートリッジでも取り付けることは可能です。しかし、もちろんアームの想定範囲外で動作させるのですから、本来の性能が発揮されない可能性は高いし、精密な軸や軸受けに大きな負荷がかかり、故障の原因にもなりかねません。

スタビライザーやターンテーブルシートからも影響が

同じようなことがいえるのは、プラッターのセンター軸へ載せるスタビライザーです。本来はレコードとターンテーブルシートの密着性を高めてスリップを防止し、軸回りのノイズを抑えて音質を向上させる働きを持つアクセサリーですが、華奢なプラッターにあまり重量級のものを載せると、軸へ大きな負担がかかって逆に周辺のノイズが増えてしまうことがあり、そうなるともちろんプレーヤーの寿命も短くなってしまいます。

また、ターンテーブルシートの材質とスタビライザーとの相性も、非常に大きなものがあります。ターンテーブルシートには、さまざまな厚さと硬さのゴムやフエルト、紙などが一般的ですが、高級アクセサリーには金属やガラス、カーボンといった素材のものも存在します。

あくまで私の好みでしかありませんが、ゴムには比較的重量のあるスタビライザーが対応でき、フェルトや紙はあまり重量級のものを載せると持ち味が失われやすく、ごく軽量級のものを載せるか、いっそ何も載せない方が好結果を得られることが多いように感じています。

ターンテーブルシートの材質とスタビライザーとの相性も、非常に大きなものがあります

同様に、金属は割合と重量級でも問題なく、ガラスはあまり重くないもの、カーボンは何も載せないのが、それぞれの持ち味を出しやすいのではないか、というのが今のところ私の結論となっています。しかし、新しい製品が出てきたらまた例外が生まれるかもしれず、アナログのアクセサリーというのは本当に難しいものです。

と、ここまではスタビライザーを載せることを前提として話しましたが、そもそもスタビライザーを載せた音が好きかどうかは、個人差があってどちらが正しいとはいえません。同業の先輩で「スタビライザーを載せたら音が縮こまって開放感が失われる」とおっしゃる人は1人ではありませんし、私もレコードによって、またその日の気分によって、スタビライザーなしの音が好ましく聴こえることがありますから、本当に「コレ!」とは決められないものだな、と痛感する日々です。

Words:Akira Sumiyama