Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。 前回はFace Records NYC店での人気レコードトップ5をご紹介しました。 邦楽のレコードがとても好評で、山下達郎や杏里、竹内まりやなどのいわゆる ”昭和のシティポップ” が人気のようです。

「お客様の99%くらいが外国人の方」というNYC店と対比するため、今回は国内店舗の中でも特に日本人のお客様が多い名古屋中日ビル店の人気盤を比較してみました。 ニューヨーク編に続いて、今回もFace Recordsの藍隆幸さんにご紹介いただきます。

名古屋中日ビル店での人気タイトルは?

2024年4月に開店したFace Records 中日ビル店での売れ行きランキングを見ながら曲をご紹介します。

1位 大滝詠一 『ロングバケーション』
2位 荒井由実 『ひこうき雲』
3位 YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『ソリッド・ステイト・サバイバー』(NYC店では6位)
4位 山下達郎 『FOR YOU』(NYC店では1位)
5位 YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『イエロー・マジック・オーケストラ(US VERSION)』(NYC店では8位)

1位 大滝詠一 『ロングバケーション』(1981年) より、「雨のウェンズディ」

大滝詠一 『ロングバケーション』(1981年) より、「雨のウェンズディ」

作曲&ヴォーカル 大滝詠一、ベース 細野晴臣、ギター 鈴木茂に加えて、作詞 松本隆という、『ロングバケーション』の中で唯一はっぴいえんどメンバー全員が関わっている曲。 これはリリース当時のラジオ番組で大滝詠一ご本人が言っていた情報なので間違えないはずです。 『ロングバケーション』の収録曲は歌詞を読むと、意外と情けない男ばかりが描かれていますが、情けないのになぜかかっこいい。 全体を通して「夏」というテーマと、歌詞のかっこつけ方が「情けなさ」を打ち消していて、大人の情景を演出している。

2位 荒井由実 『ひこうき雲』(1973年) より、「雨の街を」

荒井由実 『ひこうき雲』(1973年) より、「雨の街を」

「しこたま飲んだ明け方にこのアルバムを聴くと沁みる」と、初期のPOPEYEに書いてあった記憶がある。 このアルバムはコンセプト・アルバムなのでは?と思うくらい全体を通じて感じられる共通の雰囲気(朝、空、雲、雨、静けさ)がある。

このアルバムを発表した約7年後にはウィンター・アクティビティ、サマー・アクティビティの象徴となるアルバムを出すとは思えない。 この頃はまだ美大系のアーティストといった存在でした。 「雨の街を」は特に象徴的にこのアルバムの雰囲気が感じられる曲。

感情を表す言葉は少ないのに、「垣根の木戸の鍵をあけ表に出たら」という歌詞(いまはそんなことが出来る家も減った)など、朝の静けさを感じる表現が叙情的であり情緒的でもある。 いつか、朝までしこたま飲んだとき、明け方に聴いてみたい。

3位 YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『ソリッド・ステイト・サバイバー』(1979年) より、「BEHIND THE MASK」

YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『ソリッド・ステイト・サバイバー』(1979年) より、「BEHIND THE MASK」

当時、1枚目のアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』(1978年)が出た後、2枚目『ソリッド・ステイト・サバイバー』(1979年)が出てからもしばらくは、国内でYMOを聴くのは一部の人だけでした。 たしか、1枚目のリリース時、POPEYEに広告が出ていて。 その広告がカッコよくて興味を持ち友達と聴き始めましたが、まだ周りにはYMOを知っている人はほとんどいませんでした。

1979年12月ごろから日本でも逆輸入の形でYMO人気が拡がるのと同時に、アンダーグラウンドにいたテクノポップのバンド、PLASTICS、ヒカシュー、P-MODELなどが一気にメジャーに現れました。 1980年に入るとテクノ、ニューウェーブ、DC系などが、それまでPOPEYEが紹介してきたアメリカウェストコーストカルチャーに加わって一気に多様化。 世の中は「なにか新しい時代がはじまる」「新しい価値観で世の中を変えてやろう」という空気感に変わりました。

当時、渋谷に行くと必ず横を通っていた西武百貨店には「じぶん、新発見」(1980年)、「不思議、大好き」(1981年)、「おいしい生活」(1982年)という、糸井重里が考えた今までにない不思議なキャッチコピーが表れて80年代という空気感を象徴しました。 渋谷ですれ違う人のファッションも1979年春頃までと1980年に入ってからでは、がらっと変わって多様化。 ウォークマンが出てきたのもこの頃で、とにかく街に出ることが刺激的で楽しい時代だった。 ネットもスマホも無かったので、街に出て新しいカルチャーを吸収しないと時代に取り残されてしまいそうな感覚で毎日が回っていました。

1981年には渋谷区宇田川町にタワーレコードが店舗を開店、この頃から日本のレコードショップも一つのカルチャーと呼ぶのに相応しい時代に突入します。

4位 山下達郎 『FOR YOU』(1982年) より、「MORNING GLORY」

山下達郎 『FOR YOU』(1982年) より、「MORNING GLORY」

70年代後半から80年代前半の頃、若者カルチャーを引っぱっていたサーファー達が好んで聴いていたのが山下達郎でした。 1978年にはアルバム『GO AHEAD!』、翌年には『MOONGLOW』がリリースされ、そして1980年に『RIDE ON TIME』が全国的にヒットしたことから山下達郎のファン層は拡大していきます。 ノーザンソウルやディスコ寄りの曲から抜け出して、1982年1月にリリースされたアルバム『FOR YOU』では、さらに新しいファンを意識した音作りになったと感じました。 発売当時初めて「MORNING GLORY」『FOR YOU』を聴いたとき、シュガーベイブの頃に戻った様な、良い意味で殻を破った印象を受けたのを覚えています。 この曲は1980年12月に発売された竹内まりやの『Miss M』の方で先にリリースされています。

5位 YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『イエロー・マジック・オーケストラ(US版)』(1979年) より、「YELLOW MAGIC (TONG POO)」

YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『イエロー・マジック・オーケストラ(US版)』(1979年) より、「YELLOW MAGIC (TONG POO)」

US版は、もともと1978年に制作された日本版オリジナルの『イエロー・マジック・オーケストラ』をアル・シュミット(Al Schmitt)*がリミックスしてアメリカでリリースされたアルバム。 「Yellow Magic (Tong Poo)」は、坂本龍一の作品で、Wilkipediaによると坂本龍一が購入した中国の文化大革命後に毛沢東の詩に曲をのせてリリースされたレコードの中の曲を参考にしているとのこと。 US版には吉田美奈子のヴォーカルが入っていて、当時のライブでは矢野顕子と渡辺香津美が加わり頻繁に演奏されていました。 初期のYMOらしさを感じさせる代表曲で個人的にも大好きです。

同アルバムに入っている「FIRECRACKER」の原曲はマーティン・デニー(Martin Denny)ですが、改めて同曲が収められているアルバム『Quiet Village The Exotic Sounds Of Martin Denny』を通して聴くと、特に細野晴臣が作曲した楽曲にその影響が感じられる。

言わずもがなですが、YMOは色々なミュージシャンに影響を与え、音楽の新たな可能性の扉を開けた存在であると言えます。

*アル・シュミット:ジョージ・ベンソン(George Benson)の『Breezin’』などの録音を手掛けたことで有名なレコーディングエンジニア。

NYC店と名古屋 中日ビル店の人気タイトルを眺めて分かってきたこと

8月7日、Face Records独自調査による「愛知県アナログレコード白書」という記事を発表しましたが、この調査には更に詳しいデータがあって、それを分析すると、レコード購買層は大きく分けて、50代以上のアナログレコードのリアルタイム世代と、20~30代のアナログレコード新体験世代の方がいらっしゃいます。

アナログレコードのリアルタイム世代は、最近のレコード人気を機に「若いころに熱中した音楽をレコードというメディアを再び所持して楽しみたい」という理由でレコードを買っている人(買戻している人)が多くみられ、その結果がこの人気タイトルのランキングにも表れているように思います。 一方、アナログレコード新体験世代の中には両親が好きな音楽に影響を受けて、このランキングに入っている音楽に興味を持ち、レコードを購入しはじめているという話も多く聞きます。

NYC店で売れている中古レコードの楽曲を聴くと共通して感じられるのが「グルーヴ感」。 特に多様性の国、アメリカのポピュラー音楽は常にブラックミュージックからの影響抜きでは語れませんし、音楽にはグルーヴ感が好まれると言っても過言ではありません。 もちろん例外もありますが。

今、アメリカ人を中心とした外国人が邦楽中古レコードに求めているものは「80年代邦楽のグルーヴ感」。 日本人が中古レコードに求めるものは「当時の若者カルチャーの空気感」という傾向なのではないかというのが私の仮説です。 「昭和レトロ」と言われることもありますが、「当時の若者カルチャーの空気感」はまた別の感覚です。

次の時代に向けてカルチャーをつなぐ

このように1980年代を中心として人気だった邦楽は、再び国内外で人気を集めていて、次の時代のカルチャー創造に影響を与えつつあります。 1980年代の熱い音楽カルチャーを新しい世代に継承していくことは中古レコード業界として大きなテーマです。

今回ご紹介したレコードは当時の流通数も多く、決して ”レア盤” などではありませんが、人気と比例してレコード買取の価格も上がってきています。 レコード専門店の買取りサービスは、大切にしてきたレコードを次の人へバトンタッチし、魅力や感動を伝播させ、カルチャーを繋ぐための一つの手段です。 大切にしてきたレコードが次の人の感動や笑顔につながるよう、Face Recordsは責任もってそのバトンタッチをお手伝いさせていただきます。 不要になったレコードがありましたら是非私たちのもとへお寄せ下さい。

Face Records

Face Records

”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋、京都に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。

HP

Words: Takayuki Ai