Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。
レコードファンであれば、一度は「中古レコード店の倉庫の中にはどんなレコードが隠れているんだろう?覗いてみたい!」と考えたことがあるのではと思います。 そんな人の興味を少しでも満たしたいと思い、今回はフェイスレコードの倉庫の中を探索。 埃だらけになりながら見つけた珍しいレコードを、Face Recordsの藍隆幸さんがご紹介します。

レコード店の裏側には…?

中古レコード店には様々なジャンルやアーティストのレコードが集まってきます。 中でも店頭に並ぶレコードはお客様からの要望が多い、人気のアーティストや注目のジャンル、「名盤」としての評価が高かったり、お勧めの曲が入っているものが中心になってきます。

でも一方で、あまり人気のない、世に知られていないレコードも沢山集まってくるのですが、それらは倉庫の奥に隠れてしまうこともあり、日の目を見ないことも少なくないのです。

長い間レコードを聴いたり買ったりしている人や常に新しい音楽を求めているDJなどからしたら、まだ誰も知らない隠れた名作が眠っている可能性がある、 ”ディグる” 価値の高いシークレットゾーン。 そんな場所に潜入して出てきたレコードたちの中から、決して万人にお勧めとは言えませんが、興味深い、時には怪しげな曲をご紹介します。

お勧めの音楽紹介というよりも、レコード店の倉庫探検ドキュメンタリーとして楽しんでいただけたら嬉しいです。

マイルス・デイビスの名盤収録曲を提供したサックス奏者
Gerry Mulligan「Please Don’t Talk About Me When I’m Gone」(1965年)

Gerry Mulligan「Please Don't Talk About Me When I'm Gone」(1965年)

知らないレコードだったのですが、ジャケットを手に取って直観で聴いてみました。 そして調べてみたところ、すごい人だということが分かりました。

ジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)はアメリカのジャズ・サックスプレイヤーで、マイルス・デイビス(Miles Davis)の『クールの誕生(Birth Of The Cool)』に収められている「Jeru」「Venus De Milo」を作曲したことでも知られています。 (恥ずかしながら『クールの誕生』は好きで聴くものの、ジェリー・マリガンを意識したことはなかったです…)

「Please Don’t Talk About Me When I’m Gone」は、1965年にリリースされたアルバム『Feelin’ Good』に収められている曲です。

このアルバムは『クールの誕生』のようなハードバップではなく、ストリングスも使われていて、ムード寄りのモダンジャズですが、非常に聴きやすいのでジャズ初心者や夜寝る前のBGMなどにお勧めではないかと思います。

昭和のムード歌謡のようなラテン・ポップ

Pinpinela「Bofetada」(1983年)

Pinpinela「Bofetada」(1983年)

ありがちなジャケットだなと思いながら、「案外この手のジャケットには名盤があったりするんだよな」と期待しつつ2枚目を選びました。

ピンピネラ(Pimpinela)はアルゼンチンのヴォーカルデュオでジャンルではラテン・ポップのロマンティック部門といった感じです。

スナックでかかりそうな昭和のムード歌謡の雰囲気を感じます。 こういうムード歌謡のファンって最近増えてきている気がします。

アフリカの韻律と西洋のジャズのフュージョン

Ben Brako「Mawie」(1987年)

Ben Brako「Mawie」(1987年)

国籍不明な感じが興味を惹かれます。 いったいどこの国の音楽だろうと思い、聴いてみました。

ベン・ブラコ(Ben Brako)はガーナのハイライフ(Highlife)と呼ばれる音楽ジャンルのアーティストです。

ハイライフはアフリカの韻律と西洋のジャズの要素が混ざったポピュラー音楽、陽気でアップテンポなメロディーとシンセサイザーの活用が特徴。
「Mawie」は彼の1枚目のアルバム『Baya』のA面ラストの曲ですが、繰り返し聴いていると癖になりそうな、なかなかの名曲です。

南米のビーチで聴きたい!

Square One feat. Andy Anderson「Turn It Up」(2002年)

Square One feat. Andy Anderson「Turn It Up」(2002年)

カリブ海っぽいジャケットとそこに書かれている「Soca」って何だろう?という興味で聴いてみることに。 Wikipediaによると、ソカ(Soca)は、トリニダード・トバゴ発祥のポピュラー音楽で、ソウル(Soul)とカリプソ(Calypso)を合わせたネーミングになっているそうです。

これはソカのコンピレーションアルバムで、「Turn It Up」はバルバドス出身のソカのバンド、スクエア・ワン(Square One)が2002年にリリースした『Unity』というアルバムに収められている曲です。

カリプソのメロディにソウルやファンク、更にはヒップホップ要素が加わってダンスに最適。 カリブの浜辺でナイトパーティー、うーん憧れます。

大人数での重厚感のある合唱

The Heritage Singers USA「Keep Your Hand in the Lord」(1974年)

The Heritage Singers USA「Keep Your Hand in the Lord」(1974年)

タイトルからしてクリスチャン系の音楽だなという印象。 コーラスワークに興味があったので聴いてみます。

ヘリテージ・シンガーズ(The Heritage Singers USA)は、アメリカのゴスペル・コーラスグループです。 250名以上のメンバーで構成されていて、大人数での重厚感のあるコーラスが特徴。 普通に現代の音楽を楽しんでいる中では、このような重厚感のあるコーラスに触れる機会はほとんどないですね。

歌詞は別として、70年代中期に存在していたポップ・コーラスグループの仲間だという印象、音楽的にはカーペンターズ(Carpenters)にも近い感じがします。

モーニング娘。 がその概念を参考にした?プエルトリコのアイドルグループ

Menudo「Tu Te Imaginas」(1982年)

Menudo「Tu Te Imaginas」(1982年)

ジャケットからしてアイドルグループということが分かります。 アイドル系は侮れないので先入観を持たずに聴いてみましょう。

メヌード(Menudo)は、プエルトリコのアイドルバンド。 印象としてはラテン版のフィンガー5といったところでしょうか。 (例えが古いですが声もフィンガー5がぴったり)

リッキー・マーティン(Ricky Martín)も1984年にこのグループからデビューしました。 Wikipediaによると16歳になったらグループを脱退するというルールがあったようで、メンバーチェンジを繰り返しながら存続するグループとして、モーニング娘。 がその概念を参考にしたと言われているそうです。 メヌードの初期の作品にはグルーヴ感のある曲があり、今でも人気です。

都会でも聴きやすいハワイアン

Webley Edwards「Whispering Reef」(1966年)

Webley Edwards「Whispering Reef」(1966年)

海のジャケットに惹かれて選んでみました。 ウェブリー・エドワーズ(Webley Edwards)はハワイのラジオ局の元アナウンサーでハワイ州上院議員も務めた人です。

”ハワイアン” というと、伝統に忠実なあまり、都会で聴くと場違いな印象を持ってしまう音楽もあるのですが、このアルバム『”Hawaii Calls” Best From The Beach At Waikiki』は全面ハワイアンにも関わらず、ジャズ的なギターも入っていたりするので、BGMとして聴きやすくなっています。

「Whispering Reef」は1961年のアルバム『Exotic Instrumentals』にも収録されていて、マーティン・デニー(Martin Denny)の影響を感じるエキゾチック・サウンドが魅力です。 このレコードを手に取らないと知ることは無かったと思いますが、『Exotic Instrumentals』が欲しくなりました。

民族打楽器による独自の世界観

Nana Vasconcelos「O Berimbau」(1979年)

Nana Vasconcelos「O Berimbau」(1979年)

ジャケット裏に印刷されている見たこともないような楽器を演奏している写真に惹かれて選んでみました。

ナナ・ヴァスコンセロス(Nana Vasconcelos)はブラジルのドラマー兼パーカッショニスト。 アルバム『Saudades』はブラジルやインドなどの民族打楽器を取り入れたプリミティブなパーカッション・ジャズアルバムです。

どんな音楽の影響も感じさせない、あくまでも打楽器中心による独自の世界観は圧倒的な空間の広がりを感じさせてくれます。 引いては押し寄せる波の様なうねりは津軽三味線や和太鼓の世界にも通じるものがありそうです。

聴いたことの無い音楽との出会いが楽しい

今回取り上げたレコードはすべて聴いたことのないものばかりです。 先入観なしで聴いてみましだが、想像以上に良い音楽体験が出来て充実した時間でした。 特にナナ・ヴァスコンセロスから受けた衝撃は大きく、脳に受けた刺激は音楽の世界観をまた広げられた気がします。 今回選んだレコードが全てSpotifyでデジタル音源が聴けることに驚きました。

人にお勧めの音楽を教えるのと、人からお勧めの音楽を教えてもらうこと、どちらが好きかを比べたら、後者の方が自分の世界観が広がるのでわくわくします。 自分が知らない音楽と出会うことは本当に楽しいです。

今回、わずか1時間で探索できたのは倉庫のほんの一角だけでした。 Face Recordsの倉庫にはまだまだ未知の世界が広がっているようです。 また機会があったらご紹介したいと思いますし、この様に倉庫の奥に隠れているレコードをあつめて、いつかガレージセールなど開催出来たら楽しいだろうなーと思います。

あ、倉庫の中だけでなく、店舗に並んでいる商品の中にも見たこともないようなレコードラインナップは沢山あるので、未知の音楽と出会う機会はそこらじゅうにありますよ。

Face Recordsは、アナログレコードを「文化を継承していくためのツール」ととらえ、過去の価値ある音楽と文化を将来に渡って継承していくこと、ホンモノが生き続ける時代をつくることが使命であると捉えています。 今後もFace Recordsの商品展開にご期待ください。

Face Records

Face Records

”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る”という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋、京都に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。

HP

Words: Takayuki Ai