カバー曲とは、過去にリリースされたオリジナルの楽曲を、同じ歌詞、同じ曲の構成のまま別のアーティストが演奏、歌唱、編曲をして録音された楽曲のこと。歌い手や演奏が変わることでオリジナルとは違った解釈が生まれ、聴き手にその曲の新たな一面を届けてくれます。ここではジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、曲の背景やミュージシャン間のリスペクトの様子など、カバー曲の魅力を解説していただきます。

バート・ バカラックの「Alfie」

映画『アルフィー』の主人公は、いわゆる “ジゴロ” である。逢瀬を重ねる色男だが、その身勝手さと失意の物語は、シニカルだけれどどこか憎めないキャラクターとして描かれている。この1966年の英米合作映画は、マイケル・ケイン(Michael Caine)が主人公を演じ、主題歌をバート・バカラック(Burt Bacharach)が担当した(歌詞はハル・デヴィッド(Hal David))。ちなみに主題歌を除いた音楽全般は、ジャズ・テナーサキソフォニストのソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)が作曲し、Impulse Recordsからサウンドトラック・アルバムをリリースしている。

オリジナルという点では、英国版映画で歌ったシラ・ブラック(Cilla Black)、米国版映画で歌ったシェール(Cher)がそれぞれオリジナル歌手といえるのだろうが、いずれも公開当初にアルバム収録はなく(EP盤だった模様)、後にコンピレーション盤に収められた。今回は、作者のバカラック本人のアルバム演奏を紹介しよう。

バート・ バカラックの「Alfie」

そのアルバム『Reach Out』は、1967年にA&M Recordsからリリースされた全編インストゥルメンタルの演奏である。ここでテーマを奏でるのはトランペットで、スネアドラムのブラシによるやや早めの規則正しいテンポのリズムが演奏全体を先導する。ガットギターとピアノのオブリガートが新鮮な印象で、ストリングス・オーケストラのサポートも実にゴージャス。どこかセンチメンタルな雰囲気が曲全体に漂っている。

マリーンの「Alfie」

ビル・エヴァンス(Bill Evans)やスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)によるハーモニカでの演奏など、インストゥルメンタルも多い「Alfie」だが、やはりヴォーカル曲の雰囲気が素敵だ。ディオンヌ・ワーウィック(Dionne Warwick)やバーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)などの大御所も歌っているが、私はここでぜひマリーン(Marlene)の歌唱を紹介したい。

マリーンの「Alfie」

フィリピン出身で、日本デビューは1981年。彼女のサードアルバム『My Favorite Songs』のラストに「Alfie」が収録されている。伴奏は折しも来日ツアー中であったドラマー、シェリー・マン(Shelly Manne)のトリオ。当時のCBSソニー信濃町スタジオでのデジタル録音である。

ピアノのマイク・ウォフォード(Mike Wofford)の伴奏のみで歌うマリーンは、極端なフェイク等は織り込まず、ヴィブラートやスラーを交えて情感を込めてしっとり歌っている。問い掛けるように「Alfie」を4回繰り返して締めくくられるのも、実にインティメートなムードである。

Words:Yoshio Obara

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