『Always Listening』がセレクトするおすすめ音楽映画コーナー。今回は「大統領選出馬でも話題!人気ラッパー、カニエ・ウェストにまつわる映画5選」!

いまアメリカで一番稼ぐミュージシャン、カニエ・ウェスト。ストリート・ファッションを発信するファッションデザイナーでもあり、最近では次期大統領選に立候補して世界を驚かせた。そんなとんでもない男、ラッパーカニエ・ウェストをより深く知ることができる映画をご紹介。その行動や発言が常に話題になるカニエとは、一体どんな男なのか。映像を中心に奇才の世界に迫ってみよう。

ジェイ・Zに見出され、プロデューサーとしての活動をスタート

1977年、カニエはジャーナリストの父と大学教授の母の間に生まれた。3歳の時に両親が離婚。母に引き取られたカニエは、子供の頃からアートに強い興味を示した。特に絵と音楽に夢中になり、小学生の頃には曲を書いてラップをし、13歳で母親にスタジオでレコーディングがしたいと頼み込んだ。そして、大学に通いながら作曲家/プロデューサーとして活動を始めたカニエは、大物ラッパー、ジェイ・Zに才能を見出され、彼が主催するレーベル、ロッカフェラとプロデューサーとして契約。カニエがプロデュースしたジェイ・Z“Izzo (H.O.V.A.)”は全米8位の大ヒットを記録した。その後ジェイ・Zのアルバム『The Blueprint』に5曲提供する等カニエはすぐに頭角を現し、リュダクリス、アリシア・キーズ、ジャネット・ジャクソンといったアーティストたちに楽曲提供する売れっ子になった。しかし、カニエの夢はラッパーとして成功すること。その夢を叶えるため、大学を中退して音楽活動に専念。2004年に念願のソロ・デビュー・アルバム『The College Dropout』(「大学中退」という意味)をリリースすると、アルバムはグラミー賞3部門を受賞して「カニエ伝説」が幕を開けた。

『Late Registration』(05年)以降、新作アルバムはすべて全米1位を記録。アートワークにも独創性を発揮

2作目『Late Registration』(05年)以降、新作アルバムはすべて全米1位を記録。ヒップホップスターとしての地位を揺るぎないものにする。そんななか、カニエはヴィジュアル面でも独創性を発揮した。何しろ、子供の頃から絵を描くのが好きで、一時期、美大にも通っていた男。『Graduation』(07年)では、現代アートの村上隆とコラボレートしてアートワークをデザイン。『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(10年)のアートワークは、キース・ヘリングやバスキアと交流があった芸術家、ジョージ・コンドに依頼。『Yeezus』(13年)ではジャケットもブックレットも作らず、透明のケースにCDを入れてステッカーを貼っただけ、という大胆な仕様だった。また、2015年にはアディダスとのコラボレートで「YEEZY BOOST」というスニーカーのシリーズを発表し、さらにファションブランド「YEEZY」を設立。今や「YEEZY」は世界的な人気ブランドに成長した。

自ら監督を務めた『Runaway』(10年)やスパイク・ジョーンズとのコラボレーション等映像作品も制作

そんなカニエのヴィジュアルへのこだわりが伝わってくるのが、彼が監督・主演を務めたミュージック・ビデオ『Runaway』(10年)だ。カニエは本作を制作するにあたって影響を受けたものとして、『プリンス/パープルレイン』(84年)、『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』(82年)といった音楽映画や、フェデリコ・フェリーニ、スタンリー・キューブリックの映画、ピカソやマチスの絵画、ファションデザイナーのカール・ラガーフェルドの作品等、様々なものをあげている。『Runaway』は4分の「ビデオ・ヴァージョン」、8分の「エクステンデッド・ビデオ・ヴァージョン」、30分の「フル・レングス」という3つのヴァージョンが作られたが、なかでも圧巻なのは「フル・レングス」だ。ドライヴしているカニエの目の前に空から隕石が落ちてきて、そこから羽根を生やした謎の美女が出現。その美女を巡るファンタジックな物語になっていて、カニエの独創的なイマジネーションと美意識がたっぷりと味わえる。

Kanye West – Runaway (Full-length Film)
※YouTubeにて全編公開中

その一方で、映画監督のスパイク・ジョーンズとコラボレートしたショート・フィルム『We Were Once A Fairy Tale』(2010年)は、カニエのダークサイドを垣間見ることができる作品だ。クラブで酔っ払ったカニエは暴言を吐いて暴れ、VIPルームで女性とセックス。挙げ句の果てにトイレで自分自身にナイフを突き立てる。そして、唖然とする結末が待っているのだが、作品のテーマは「敗北と孤独」だとか。このビデオの前年、2009年に開催された<MTV Video Music Awards>の授賞式で、カニエはテイラー・スウィフトが受賞のスピーチをしている最中に泥酔して乱入。式を台無しにしたことでファンやアーティストから批判された(この日から現在に至るまで、テイラーとカニエのバトルが続くことになる)。そのMTV事件が自虐的なショート・フィルムに反映されているのだろう。カニエとスパイクはミュージック・ビデオ「Flashing Lights」(07年)でも共同監督としてタッグを組んでいて、こちらもダークな内容。カニエは意外なところから登場し、恐ろしい結末を迎える。

Kanye West – We Were Once a Fairytale – Director : Spike Jones from wyatt troll on Vimeo.
※Vimeo, iTunesにて全編公開中
Kanye West – Flashing Lights ft. Dwele

A24製作『WAVES/ウェイブス』では、劇中歌として使われた“I Am A God”が話題に

カニエの才能は同時代のミュージシャンだけではなく、映画監督にも刺激を与えているが、そのひとりがトレイ・エドワード・シュルツ監督だ。シュルツの最新作『WAVES/ウェイブス』(2019年)は、映像と音楽を密接に関連づけた演出でも注目を集めたが、カニエのファンだったシュルツ監督はどうしても“I Am A God”を使いたかった。曲の使用許可が出るには長い時間がかかったもののカニエは快諾。“I Am A God”は劇中で主人公の感情を伝える重要な役割を果たした。

映画『WAVES/ウェイブス』予告編

また、カニエがらみの映像作品として近年話題を呼んだのが『JESUS IS KING』(19年)。本作は全米初登場1位を記録したカニエの最新作『JESUS IS KING』(19年)を題材に制作されたドキュメンタリー映画だ。監督を務めたのは世界的な写真家/映像作家のニック・ナイト。近年、カニエは信仰に目覚め、2019年から聖歌隊を引き連れた宗教色の強いイベント、「サンデー・サービス(日曜礼拝)」を開催してアメリカを巡回。ブラッド・ピットやケイティ・ペリー等セレブが足を運んだことでも話題になった。映画『JESUS IS KING』は、アリゾナの砂漠にある「ローデン・クレイター」で開催されたサンデー・サービスの模様を記録した作品。ローデン・クレイターとは、芸術家のジェームズ・タレルの指揮のもと、死火山の噴火口を天文台に作り変えるという壮大なアート・プロジェクトで、1972年にスタートして現在も建築中だ。カニエはこのプロジェクトに1,000万ドル(10億円!)を寄付している。『JESUS IS KING』はアートと宗教が融合したユニークなパフォーマンスに加えて、初めてローデン・クレイターの内部にカメラが入ったことでも注目を集めた。

Jesus is King – A Kanye West Film (BTS)
※YouTubeにて、予告編のみ視聴可能
KANYE WEST THE FORUM SUNDAY SERVICE FULL STREAM 10/27/2019

信仰に目覚めてから、カニエの音楽はラップからゴスペルへ方向性が変化しているようだが、ラッパーとしてのカニエの熱気溢れるパフォーマンスを見ることができるのがドキュメンタリー映画『Made in America』(13年)だ。『Made in America』というのは、カニエの才能を見出してバックアップしてきたラッパー、ジェイ・Zが開催した音楽フェス。カニエ以外にも、この日のために13年ぶりに再結成したランDMCや10年ぶりの公演となったディアンジェロ、パール・ジャム等大物たちの演奏も楽しめる。監督は『ダヴィンチコード』(06年)や『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18年)等を手掛けた巨匠、ロン・ハワード。

Made in America Official Trailer 1 (2014) – Jay-Z, Ron Howard Documentary HD
※Amazon Prime Videoにて配信中

これからカニエがどんなことをしでかすのか。それは誰にもわからないが、これからも目が離せないのは間違いないだろう。

INFORMATION

『WAVES/ウェイブス』

大統領選出馬でも話題!カニエ・ウェストにまつわる映画5選

監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
出演:ケルヴィン・ハリソン・Jr、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
作曲:トレント・レズナー&アッティカス・ロス
原題:WAVES /2019年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/135分/PG12
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
配給:ファントム・フィルム
公式サイト
Blu-ray&DVD 2020年12月18日(金)発売
amazon prime他、期間限定特別配信中!

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Words:村尾泰郎