レコード・フェス<Discogs Presents Mystic Crates>が11月初旬にZepp Tokyoにて開催されました。アナログレコードの魅力が凝縮された本イベントのレポートを写真と共にお届けします。

2019年上半期、アナログレコードがCDの売り上げを上回るという予測を全米レコード協会が発表。大判ジャケットのアートワークを楽しめる“モノ”としての存在感や、レコードで音楽を聴くことへの意識が見直され、近年では欧米を中心にアナログレコードが再び注目を浴びています。そんなレコードカルチャーを支えているのが、米ポートランドのZink Media, Inc.が運営する音楽データベース/マーケットプレイス「Discogs」。レコードやCDのデータを共有するサービスとして2000年にスタートし、現在では毎月1,000万以上のアクセスを誇る世界最大規模のレコードコミュニティとして知られています。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

「Discogs」が主催する<Discogs Presents Mystic Crates>は、複数のレコードショップとライブステージの両方が同じフロアにあり、ゲストDJやアーティストのパフォーマンスを楽しみながらレコードを選べる独自のイベントスタイル。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

フロアには見渡す限り大量のレコードがずらり。The Beatlesを筆頭にした60年代以降のロック/ポップスの名盤から、往年のソウル/ゴスペルのシングル盤、山下達郎や松任谷由実といった(※1)ニューミュージックや(※2)ジャパニーズレアグルーヴ、日本のアイドル、アニメソング、アンダーグラウンドな奇盤/珍盤や効果音まで、世界各国の12インチや7インチレコードが取り揃えられていました。

(※1)ニューミュージック:日本のポップス全般の呼称。1970年代前半のフォークソングブーム以降台頭してきた、シンガーソングライターたちによって形成された音楽ジャンル。
(※2)ジャパニーズレアグルーヴ:「踊れる、ファンキーである、グルーヴ感がある」として発掘され、再評価を受けた日本の楽曲。1980年代後半に、音楽ジャーナリズムやディスコ、クラブを中心に注目されるようになった。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

タワーレコードのレコード専門店「TOWER VINYL」のブースでは、この日のために値段を見直した潤沢なレコード在庫に加えて、フーディやトートバッグなどのオリジナルグッズや、この日DJとして出演していたMUROの最新ミックスを販売。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

他にも、東京を代表する音楽のセレクトショップ、マンハッタンレコードから個人経営のレコードショップまで多数のブースが集結。ショップによって得意ジャンルも様々で、音楽ファンにとって“かゆいところに手が届く”、ジャンルレスで豊富な品揃えが実現していました。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

主催の「Discogs」もブースを出店。ここでは購入したレコードを持ち帰るためのレコードバッグやステッカーなどオリジナルグッズを無料配布するという嬉しいサービスも展開。入場した誰もがアナログレコードを心置きなく(※3)ディグして楽しめるイベント空間が作られていました。

(※3)ディグ:音楽を探すこと

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

そうした雰囲気も相まって、お一人様から友人同士やカップル、小さな子供連れのファミリーまで、来場者も様々。中にはレコードを楽しそうに選ぶ小さな子供の姿も見られるなど、幅広い世代が集まっていました。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

黙々と夢中になってレコードを探す人の中には海外からの来場者も多く、ショップの方によると「和モノのレコード音源を探しに来る外国人が多い」とのこと。実際にロシアから駆けつけたというお客さんに声をかけてみると「日本へ旅行に来てすぐに、友達からこのイベントについて教えてもらいました。ぜひ行きたい!と思って来てみました」と話し、レコード探しを楽しんでいました。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

会場のエントランスエリアに設置されたオーディオテクニカ(以下、AT)のブースでは、レコード購入者を対象に抽選会を実施。賞品はレコードプレーヤー「AT-LP7」やワイヤレスイヤホン「ATH-CKS5TW」、ワイヤレススピーカー「AT-SBS70BT」など、アナログとデジタル両方のAT製品が当たるというもの。また、2000年代初頭のネオソウルムーブメントで多くの作品に関わりD’Angeloの作品を手がけたことでも知られるレコーディングエンジニア・プロデューサーのRussell Elevadoがイベントの前週に来日した際にATと一緒に渋谷のレコードショップを回ってセレクトしたレコード(本人が手がけたものにはサイン入り)や、Young Juvenile Youthが、agnès b.とのコラボレーション企画としてリリースした限定アナログ盤(ゆう姫のサイン入り)、会場ですぐに使えるレコード券など、どれもレコードファンの心をくすぐるラインアップに。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

ライブステージでは、全5組のアーティストが集結。世界のトップリーグで活躍するレゲエサウンドMIGHTY CROWNのセレクターを務めるCOJIE from MIGHTY CROWNや、日本有数のディガーとして知られる「KING OF DIGGIN‘」ことMURO、ミラノ出身のレジェンドDJ Bassi Maestro、東京のDJパーティー「EXTRA! EXTRA!」のDJ陣が、フロアの温度に合わせて終始グッド・ミュージックをプレイ。

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

中でも唯一のライブセットとなったのが、「(※4)Analogue Foundation Stage」に出演した、ゆう姫とJEMAPURによるYoung Juvenile Youth(YJY)。開始時間になるとスクリーンのロゴが「Mystic Crates」から「Analogue Foundation」に変わり、2人がステージへ登場。“Darkroom“や“Anti Everything”など、アブストラクトなビートに英語と日本語詞が混ざり合う楽曲を歌い上げ、フロアの空気をガラリと変えるパフォーマンスを魅せてくれました。

(※4)Analogue Foundation: AT、Russell Elevado、Soundwalk Collectiveにより設立。「音と音楽」を軸に、五感を通して人々の記憶に残る体験や、未来に残したい有形・無形のものを創造する活動を行う。

Analogue Foundation

レコード市と音楽パフォーマンスを同時に楽しめるレコード・フェス:Discogs Presents Mystic Crates

アナログレコードを切り口に、音楽ファン/レコードショップ、DJ/アーティストが一挙に集結した<Discogs Presents Mystic Crates>。訪れた人が自分の“好き”を見つけたり、それを人と共有したりと、まさに世界の音楽好きを繋ぐ「Discogs」のコミュニティをリアルな場で再現したような1日となりました。

今年で5周年を迎える「HMV record shop」や今年オープンしたばかりの「TOWER VINYL SHINJUKU」など、日本でも大手輸入CD店によるアナログ専門店が続々と誕生し、人気再燃の兆しを見せているレコードカルチャー。この先も、こういったレコード・フェスが日本各地で開催され、レコードカルチャーの魅力が広がっていくことを期待したいと思います。

Words:杉山仁
Photos:佐藤大輔