1ドル紙幣に、チェーンストアのクーポン、クレジットカード、NYC地下鉄の乗車カード。その全ての巨大プリントが絡まるようにタワーのようにそびえる。ニューヨーク(以下NY)のソーホー地区にあるギャラリー「Nowhere」のフロア中央の光景だ。

“(金銭の)価値の価値を解体する”というコンセプトのもと、お金をモチーフに作品を手掛けるジュエリーデザイナー/アーティスト、KOTA OKUDA。「お金」という誰もが関わるテーマを独自の観点とアートセンスで表現する彼に刺激を与える、NYのアートスポットやストリート。

有名ブランドのジュエリーに、セレブリティがファン公言する「お金」コレクション

数ミリのジュエリーから、数メートルのオブジェまで。KOTA OKUDAの手先から編み出されるオブジェクトは、繊細でいて大胆だ。自身のジュエリーやファッションブランドのKOTA OKUDAの活動にくわえ、AHKAH、TELFAR、LANDLORD、KOZABURO、KUDOS、WATARU TOMINAGA等の国内外様々なブランドで、ジュエリーのデザイン・製作も行う。

KOTA OKUDA

KOTA OKUDAのもうひとつの顔は、お金をテーマにしたコレクションのアーティストだ。NYの名門アートスクールパーソンズ大学院の卒業制作にて手掛けた同コレクションが、ラッパーのカーディ・Bやニッキー・ミナージュからのラブコールを受け、リアーナとマイリー・サイラスからも連絡あり。リアーナにいたっては、InstagramのDMで「超ファン!アナタの作品と死にたい!」と送りつけてきたくらい。

何度も足を運んで交渉する骨董市から、気が向いたらふらりと行くギャラリーにお土産屋、ご近所ハーレムのストリートまで。「Nowhere」で展示中の自作に囲まれながら、「カニエ・ウェストから直電がありました」という非日常的体験をするKOTA OKUDAが教えてくれた、NYの日常スポット。

Nowhere

40 Wooster Street First Floor, New York, NY 10013

ソーホー地区にあるギャラリー。NYで活躍する日本人クリエイターの作品を多く展示する。館内には、人気フードケータリングブランド「SHIKI」のカフェで、ひと息することもできる。

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AL:最近は、ジュエリーデザインより、お金をコンセプトにしたアート作品製作の方に注力を?

O:いや、今もばりばりジュエリーのデザインをしています。日本やこっち(アメリカ)のファッションデザイナーやジュエリーブランドのデザインやモデリングがメインの仕事で。もともとお金シリーズは大学院時代に手掛けたコレクションで、趣味程度で始めたものなんですが、大きくなっちゃって、収まりつかなくなって、辞めづらくなって(笑)。ジュエリーって小さいじゃないですか?こういう派手で大きなことをやっていろんな人が見てくれて、僕がやっていること(ジュエリーデザイン)の認知に繋がればなと思いまして。普段は、週5くらいでジュエリーの方をやって、週末はお金のシリーズの方をやっているという感じです。

AL:個展名「$17 76¢」って、なんの価格なんでしょう?

O:1776年は、アメリカの独立記念の年。ドルの誕生だったり、近代資本主義の誕生だったり。それに$(ドル)と¢(セント)をつけてみたんです。そうすると、安っぽいというかちょっとバカバカしくなるというか。

AL:“(お金の)価値の価値を解体する”という同展のコンセプトも面白いですね。作品のなかで、振り返って特に製作が大変だったのは?

O:これ、作るのに7ヶ月かかっていて。すごい大変でした。シルクとオーガンザ、チュールといういろんな素材を混ぜて、小さい“こより”を何万個も作って。チキンワイヤー(鶏小屋に使われる鉄のフェンス)に一個一個結んでいって、果てしない徒労の末にラグを作るっていう謎の行為をしていました。今回の展示に向けた新作です。

あと、マネークリップのドレスは、以前出版社に貸した末に紛失されて。バトったんですが、もう失くなってしまったので、もう一回作り直しました。

これがそのラグ。

AL:鉄からシルク、紙まで、色々な素材を使っているんですね。

O:硬いものが好きで。僕の作品は、ファッションをやっている人からすると、すごく硬いんですよ。もともとジュエリーをやるきっかけが、「柔らかい素材が嫌い」っていう。ニットとかも苦手です。柔らかすぎてコントロールできない。糸とか嫌いなんですよ。鉄とか紙とかジャリジャリしたものは、コントロールできますから。ガラスであったり、アクリルであったり。マテリアルとして好きですね。

AL:柔らかい素材が嫌い。独特の感覚ですね。これらの作品はどこで製作するんですか?

O:友だちと借りて事務所のようにしている場所があって、そこで製作しています。ジュエリーの仕事の方は、基本は家ですね、パソコンで。3Dモデリングでばば〜と。1日15時間くらい、ずーっとやっています。朝7時くらいまでやって、ちょっと寝て、という。夜型です。

AL:篭ってますね。

O:めちゃめちゃインドアで。出不精です。

AL:作品のインスピレーションを得るために行くところはありますか?

O:僕、骨董品やアンティークなものがすごい好きで、めっちゃ集める人なんですよ。アンティークのマーケットに行ったりとか。古物商が並んでいるビルに行ったりとか。eBay(イーベイ)でひたすらパトロールしたりもします。それで疲れちゃう。

AL:NYだと、どこの骨董市が好きですか?

O:チェルシーフリーマーケットです(昨年12月に開催終了)。昔、アンディ・ウォーホールが買いつけていた場所なんですけど。その向かいにある古物商のビル「Showplace」も行きます。西洋や東洋のものから、ゴミみたいなものまで。基本プライスがめちゃめちゃ高いので、見て楽しんでいます。

Showplace・Luxury・Art・Design・Vintage

40 W 25th St, New York, NY 10010

チェルシー地区にある、4階建ての骨董ビル。ギャラリーのようになっている建物内では、ミッドセンチュリーのコレクションから、ヨーロッパ、アジアの古今の骨董がおいてあり、その場で交渉し、購入することができる。

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AL:プライス高めって、どれくらいですか?

O:やばいものだと、1,000万円くらい。

AL:セキュリティ厳重そうですね。

O:そこはけっこう雑です。エステートオークションという、故人の家を丸々掃除してオークションに流すという文化があるんですけど、そういう商品を見たりして。やばいなって。

AL:“これは欲しい”っていうアンティークって、どんなもの?

O:ふわっとしてて申し訳ないんですけど、雷が落ちる瞬間があるんですよ、自分の中で。その後、ディーラーとの駆け引きがあります。「安くしてくれ」「だめだ」「そこをなんとか」みたいな。「もう一回来る」と言ってまた行き、「もうちょっと悩ませてくれ」と言って、また再び行く。そして、安くなる。

AL:競りのプロ。これまで手に入れた、一番の掘り出し物、知りたいです。

O:作家不明なんですけど、70年代のNYタイムズの風刺画を描いていた人のオリジナルの原画です。当時のフランスの通貨フランとドルとを換金している風刺画なんです。すごく気に入っています。一目惚れして、何回も交渉して。

AL:競り落とした。

O:先日も、昔のアメコミを買いました。アンクル・スクルージってご存知ですか?ドナルド・ダックの伯父さん、お金大好きな人。彼の昔のコミックって、いま高くて。プレミアつきの40冊セットのうち2冊をeBayで落札して。100ドルくらいだったんですけど、競りがバチバチ。最後1秒の闘いでした(笑)。息抜きには、そういうことばっかりやっています。

AL:お金がモチーフのものが好きなんですね。

O:もともと全然興味なかったんですけど、お金シリーズをやっていくうちに、どんどん好きになって。お金って、みんなが知っているもので、一番コンセプチュアルなもの。だから、古今東西いろんな作家が扱っている。そういう作品を集めようかなと買い漁っています。

「$17 76¢」より。

AL:よく行く場所はありますか?

O:お土産屋とか行きます。CVSとDuane Reade(チェーンのドラッグストア)も好きで。それこそ、キャナル(チャイナタウンのメイン通り)のお土産屋だったりとか。別に行こうと思って行くわけじゃないけど、ふらっと行きます。

AL:なにか買うんですか?

O:あそこの自由の女神の置物とか。かわいいなと思って買って、あとで調べたら一般の値段より6ドルくらいボッタクられていたという。ちょい痛です(笑)。

AL:地味な金額だからこそ、数秒沈むボッタクられ感。贔屓にしているギャラリー等はありますか?

O:ハーレムにある「Gavin Brown’s Enterprise」というギャラリーです。

AL:ハーレムといったら、ご自宅の近所ですよね。どんな時に行くんですか?

O:気が向いたらなんですけど、好きなアーティストのオープニングに行ったり。先日も、ハーレムに行きたいという人が日本から来て、ここに連れて行きました。Bjarne Melgaardというアーティストが好きで彼の本等がたくさん置かれているので好きです。広い空間のビルを使って、絵画や彫刻、映像・インスタレーション等、素材や媒体のミックス要素のセンス強い作家の作品を鑑賞できるのが魅力的です。少し外れた場所にあるので、静かに見られるのもまた嬉しいポイント。

Gavin Brown’s Enterprise

439 W 127th St, New York, NY 10027

かつてウェストビレッジ地区に存在し、いまはハーレム地区に移ってきたギャラリー。元醸造所だという19世紀の建物を再利用している。

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あと、チェルシー地区のギャラリーもよく行きます。「Hauser & Wirth」「David Zwirner」「Lisson Gallery」「Gagosian」とか。大手の老舗ギャラリーが好きです。規模感が大きくて。この近くにあった、ロサンゼルス現代美術館の元館長の「Jeffrey Deitch」というギャラリーもよかったです。ギャラリーはけっこう絞っていますね。ピッキーな(こだわる)部分があるので。

Hauser & Wirth

548 W 22nd St, New York, NY 10011

1992年にスイス・チューリッヒに設立したギャラリーで、NYでは2軒、ロンドン、ロサンゼルス、香港等世界中にも展示スペースをもっているメガギャラリー。現代美術作品を取り扱う。

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Jeffrey Deitch

18 Wooster St, New York, NY 10013

現代アートに40年以上携わってきたアートキュレーターでアーティストのJeffrey Deitchが開いたギャラリー。

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AL:どんなアートが好きなんですか?

O:コンテンポラリーアートが好きですね。映像も見ますし。自分が作品でオブジェクトを扱っているから、オブジェクトに琴線が触れるというか。彫刻やインスタレーション等、オブジェクトを使っているアーティストが好きで、何かしらのインスピレーションを受けていると思います。素材は何、どうやって作っているんだろう、とか。でっかいな、とか、この溶接きれいだな、とか。

AL:いろいろ見るんですねえ。他の散策コースも聞いても?たとえば本屋とか。それこそジュエリーショップとか。

O:本屋だと「Strand」。その向かいにある古本屋もアートブックが多くて好きですし。チェルシー地区にある「Printed Matter」「Rizzoli」、イースト・ヴィレッジ地区の「East Village Books」とか。新品中古問わず、ふら〜と行って、ぱら〜と見て。

Strand Book Store

828 Broadway, New York, NY 10003

1927年創業のインディペンデント老舗書店。新刊だけでなく、古本、希少本等も取り揃えている。棚の本を並べると、全部で18マイル(約29キロメートル)になるとか。オリジナルグッズや雑貨のデザインもよく、お土産にグッド。

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Printed Matter, Inc.

231 11th Ave, New York, NY 10001

アーティストたちの自費出版本を世に送り出すアートブック専門書店として1970年代から愛される。リトルプレス、ZINEを中心に扱っている、作家を紹介するギャラリースペースも併設。

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O:ジュエリーは無意識にずっと見ています。人がつけているジュエリーとか。デパートやセレクトショップ、お土産屋さんの安っすいジュエリーだったり。分け隔てなく全ジャンル見るようにしています。オークションの高いアンティークから、1,000円とか2,000円くらいの安いジュエリーまで。なーんでも見てます。

AL:アートに本ときて。音楽にまつわるスポットだったら、ここっていうのは?

O:ぜんっぜんないですね〜。僕、ライブとか嫌いで。あんまり行かないですね。Shazam(音楽認識アプリ)は常に持つようにしていて、セレクトショップやギャラリーでたまに流れている音楽でいいなと思うのは、ストックするようにしていて。自分の行く導線のなかに、音楽はあります。

あ、でもこの前、ロサンゼルスであったカニエ・ウェストの<Sunday Service(ゴスペルイベント)*>に行って。楽しかったですね。1ヶ月くらい前に、いきなり電話が来て。

AL:え、カニエから?

O:そう。この前、彼、パリでYEEZY(カニエ・ウェストのコレクションブランド)のコレクションを発表したんですけど、その準備段階の時に見た僕のマネークリップのでっかいシルバーが琴線に触れたらしいんです。電話があって、「ちょっと会いに来ない?いつ来られるの?」と。金曜に電話した後、土曜のフライトで行き、日曜に<Sunday Service>に招待してくれました。

その後、オフィスで8時間待たされて。で、話した内容が「俺、これ好きー!」。それで終わっちゃった。俺来た意味ある?って。8時間待って1秒で終わったという。その後、オフィスで拘束されたんですけど。

*カニエ・ウェストが毎週日曜日に開催している日曜礼拝。ゴスペルインスパイアのイベント。

AL:拘束…?

O:8時間待っていたので帰りのフライトも遅らせて。でも、「この辺、見る所もないから、何する?」ってなって。結局、リサーチみたいな雑用をさせられていました。しかも4日間。謎の時間でしたね。

AL:とてつもないエピソードをお持ちで…。肝心の<Sunday Service>はどうでしたか?

O:滅多にライブは行かないんですが、<Sunday Service>では、本当に衝撃を受けました。50人くらいのゴスペル隊が目の前にいるんですけど、あの熱量はスクリーンから伝わってこない。汗だったり、熱気がすごかったです。音楽の強さってこういうものなのかなって。音質はデジタルで聴いた方がいいんですけど、生でくる衝撃というか、その場にいる歓びだったり、目の前にパフォーマーがいるという歓びだったり。アナログでしかない魅力なのかなって。

AL:ご近所ハーレムはゴスペルが有名ですが、聞きに行ったりするんですか?

O:いえ、僕は、邦楽がすごく好きで。小室哲哉やTM NETWORK、Globe、TRF、華原朋美とかが好き。90年代の「2000年に向かって頑張るぞ」みたいな、あの時代の音楽ってすごい明るいじゃないですか。

家でも、オールナイトニッポンを流しながら製作しています(笑)。全然おしゃれじゃないというか。あとは作業中、映画を流し見していますね。1日10時間くらい流しながらパソコンやっているんじゃないかな。邦画が好きで、是枝監督の『三度目の殺人』を最近見ました。あと、僕の好きなファッションデザイナーHalstonのドキュメンタリーもよかったです。これ、ほんとかどうかわからないですけど、僕新潟出身なんですが、新潟県民って全国で一番テレビを見るらしいです。

AL:家では、どっぷり日本の映画やラジオ浸り。一歩外に出てご近所でふらりと行くところは?

O:デリがすごく好きです。なんでも揃っているカラフルな感じが。あとは、置いているものは一緒でも、デリによって味がちょっと違っていたりするのも好きで。

AL:クッキーや小さなケーキ、グリルドチーズサンド等、わりとどこのデリにもありますが味は結構変わりますよね。

O:日本のコンビニって、どこ行っても同じじゃないですか。それに対して、こっちのデリって、微妙に店のこだわりがあったり、既製品で出回っているものでも値段の違いがあったり。これを発見したりディグするのが面白くて、行く土地土地でデリは必ず行くようにしています。

米国のモールや車屋、ガソリンスタンドで見かける“エアダンサー”も展示の一部に。

AL:ハーレムの街の好きなところは?

O:ハーレムって、街の人がみんなその辺でゴロゴロしている。たむろしていたり筋トレしていたり。何してるんだかわからない人たち。なんというか、ちょろい感じというか。ああいうのすごくいいなと思います。ハーレムは、インスピレーションの塊みたいな街なので、楽しいです。

AL:どんなインスピレーションがわくんですか?

O:具体的に作品に繋がっているのはないですけど、直感的に黒人特有の美的センスであったりが好きなんですよ。アホみたいなでっかいサングラスしたりとか。柄ドンっみたいな。あの楽観主義というか、ハーレム特有のラテン系のノリというか、わかりやすさこそ正義というか、派手こそ正義みたいな。明日を考えない、今こそが正義、いいなって思っちゃいますね。あと、みんなストリートでブツブツ言ってるじゃないですか。“Whoa Whoa Whoa”って。

AL:ハーレムのストリート自体が音楽。

O:ポータブルのスピーカーをかついで音楽を共有する、謎の自己主張あるじゃないですか。ああいうの見ると、いいなと思っちゃいますね。iPhoneからBluetoothで飛ばしていると思うんですけど、ガジェットは変わっても(昔はラジカセ)、やることは40年50年なにも変わっていないというのが、すごく魅力的です。僕、中高のときから集めていた『212 MAG』というローカルの人々に焦点をあてたストリートスナップのZINEがあって。ネットなき時代に、ハーレムやブルックリン、ブロンクスの黒人を撮ったストリートスナップ。昨年たまたま実家に帰ったときに見たら、今と全く変わらない。当時の僕が見ていたNYが、なにも変わらず今もあるというのは、やっぱりインスピレーションですね。

KOTA OKUDA

1991年生まれ。2015年、セントラル・セント・マーチンズのジュエリーデザイン科を卒業し、同年イタリアのITS (International Talent Support)ジュエリー部門でグランプリを受賞。2016年に渡米し、今年、パーソンズ大学院のファッションデザイン科を卒業。同卒業コレクションはセレブからのラブコールにはじまり、各所ファッションシューティングで引っ張りだこに。自身のジュエリーやファッションブランドのKOTA OKUDAの活動にくわえAHKAH、TELFAR、LANDLORD、KOZABURO、KUDOS、WATARU TOMINAGA等の国内外さまざまなブランドでジュエリーのデザイン・製作も行う。

KOTA OKUDAのオリジナルプレイリスト

Photos:Kohei Kawashima
Words:Risa Akita(HEAPS)
Text&Edit:HEAPS