2019年発表の国際レコード産業連盟(IFPI)によるレポート「Music Listening 2019」の第1位にランクインしたメキシコ。以前、Always Listening ではメキシコ国内で人気の楽曲を集めたプレイリストを紹介しました。

世界で一番音楽を聴いている国の人気プレイリストをチェック:メキシコ編

今回その最新版記事として、現在メキシコで人気の楽曲や音楽シーンの傾向を改めてリサーチしてみました!

2020年最新版 世界で一番音楽を聴いている国、メキシコの音楽事情

メキシコといえば、Netflixのドキュメンタリー番組『タコスのすべて』やドラマ『ナルコス』の新シリーズ『ナルコス メキシコ編』等、メキシコを舞台にした作品が全世界で大人気。サッカーでは、中米No.1の実力国として注目を集めています。また、レコードマニアの間で話題の、“チカーノ・ソウル”(メキシコを源流の一つにもつ音楽ジャンル)を特集した本『チカーノ・ソウル~アメリカ文化史に秘められたもうひとつの音楽史』(ルーベン・モリーナ 著/宮田 信 訳)が刊行されるなど、日本でもメキシコのカルチャーや音楽への興味が高まっていると言えるでしょう。

新型コロナウィルスのみならず、隣国のアメリカ大統領選ではトランプ政権におけるメキシコ移民問題が大きな論点の一つとなり、ついにバイデンが当選するという大きな転換点をむかえた激動の2020年。この国ではどんな音楽が聴かれていたのでしょうか? 

「Top Artistas de 2020 (2020年にメキシコで最も聴かれたアーティスト)」と題するSpotifyのプレイリストを参考にしながら、2020年のメキシコでの音楽のランキングを見ていきましょう。

|第1位 Dákiti/Bad Bunny x Jhay Cortez

1位を獲得したのは、プエルトリコ出身のシンガー、バッド・バニーが2020年11月にリリースした3枚目のスタジオ・アルバム『El Último Tour Del Mundo』に収録されている楽曲“Dákiti”。歌詞はあらゆる面で自信を誇示する内容ですが、タイトルはプエルトリコの都市サン・フアンに実在するパブに由来しているそうです。バッド・バニーは2020年にSpotifyで最も再生されたアーティストで、合計83億回再生を記録。2019年2月にリリースされた2枚目のアルバム『YHLQMDLG』は2020年で最も再生されたアルバムとなりました。

2020年10月末に公開された本楽曲のミュージック・ビデオはすでに4.9億回再生を記録(2021年1月20日時点)。ビルボードの全米チャートにトップテン入り、ラテン・チャートで1位を獲得しました。加えて、アルバム『El Último Tour Del Mundo』は、同社アルバム全米チャートで1位。バッド・バニー初のアルバムチャート首位獲得を成し遂げ、全編スペイン語のアルバムとしては初の歴史的快挙を果たしました。

コロナ禍中にレコーディングされた本作は、ラテン・トラップやレゲトン、オルタナティブなロックスタイルで構成されながら、バッド・バニーの特徴でもあった攻撃的な音楽性を削ぎ落とした意欲作として、高い評価を得ています。

またバッド・バニーは、デイヴィッド・リンチ監督、ブラッド・ピット主演、伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』原作で、ハリウッド映画化が決定した『Bullet Train』にも出演が発表されています。

|第2位 Azul/J Balvin

バッド・バニーと同じく、ラテン・チャートのみならず全米チャートも席巻しているコロンビア人のレゲトン・シンガーJ.バルヴィンによる楽曲“Azul”が第2位にランクイン。本楽曲が収録されている2020年3月リリースのアルバム『Colores』のジャケットやアートワーク、ヴィジュアルを村上隆が担当したことも話題となりました。

アルバムのタイトル『Colores』は「色」の意で、「Azul」はスペイン語で「青」を意味します。その色の通り、爽やかな本楽曲では「自分の思うがままに生きる女性」についてファビュラスに歌う一方、実は自身の孤独にも触れているとも捉えられる一曲です。

2020年2月に開催された第54回スーパーボウル・ペプシ・ハーフタイムショーでは、メインアクトのジェニファー・ロペスとシャキーラに客演する形で登場したJ.バルヴィン。その際に着用していた、J.バルヴィンと人気のシューズライン「Air Jordan 1」のコラボシューズは瞬く間に話題に。「Air Jordan 1」とのコラボはラテンアーティスト初のことで、2020年12月初頭に発売され、即売り切れとなりました。

|第3位 Se Me Olvidó/Christian Nodal

若干21歳にしてその人気を確固たるものにしたメキシコ・ソノラ州カボルカ出身のシンガー・ソング・ライター、クリスチャン・ノーダルが2020年3月にリリースした3枚目のアルバム『AYAYAY!』に収録されている “Se Me Olvidó”が第3位に。2020年3月に公開されたミュージック・ビデオはすでに1.2億回再生を突破しています(2021年1月20日時点)。

「Se Me Olvidó」は「忘れる」を意味する言葉で、華やかな日々の中で別れた彼女との関係を思い出してしまう、といった内容の歌詞が印象的な楽曲。クリスチャン・ノーダルの特徴とされるサウンド「マリアッチェーノ(mariacheño)」は、メキシコの伝統的なスタイル・マリアッチ(mariachi)とメキシコ北部が発祥とされ、チェコのポルカやワルツに影響を受けたノルテーニョ(norteño)を組み合わせたもので、メキシコの伝統を現代的に進化させたサウンドと言っても過言ではないでしょう。

心安らぐ音作りだけでなく、言葉遣いや語彙は、「メキシコならでは」の言葉を意識したとインタビューで語っています。

Main Photo via BadBunny Official
Words: Always Listening