一見すると頑丈そうなレコード盤ですが、実はキズやホコリによって音質が左右されてしまう、とても繊細なものなのです。 盤面にはできるだけ触れない、ホコリは再生前にきちんと拭く、高温多湿での保管は避ける。 レコードを大切に扱うためのノウハウを、オーディオライターの炭山アキラさんが解説します。

「何だかジャケットのアートワークが気になって、レコードを買い始めた。 もう結構な数にもなってきたし、プレーヤーを買って聴いてみよう。 そんなあなたに、レコードの安全な扱い方をご伝授しましょう。 」

盤面はできるだけ触らない。

レコードの音溝は髪の毛よりもずっと細く、とても繊細なものです。 目に見えないホコリや汚れが付着するだけでも再生される音楽に大きな影響を与えてしまいますし、まして手指の脂は雑菌やカビにとって大好物ですから、盤面がどんどん汚れ、カビを生やしてしまう文字通りの温床ともなってしまいます。

でも、DJさんはレコードを鷲づかみにしている人も多いように見えますよね。 しかしそれは仕方ないことです。 DJにとってレコードの出し入れや載せ替えは0.1秒単位の戦いですから、丁寧に扱っていられないのでしょう。

その点、私たちはそう時間に急かされることはありません。 大切に扱ってやれば、レコードは100年も200年も先の世界へ音楽を伝えていくことができるメディアです。 未来へ受け継いでいく音楽の遺産として、大切に扱ってあげましょう。

それでは、具体的にレコードはどう扱えばいいのか。 人によって多少の差はあると思いますが、私はこうしています。 まずジャケットからレコードを取り出すと、内袋に入っていますね。 内袋ごと外へ出したら、右手の5本の指先で支え、左手で内袋の下端を軽くつまんで中からレコードを滑り出させ、半分ほどレコードが出たところでレコードの中心部、印刷物が貼られているところ(レーベル面といいます)へ右手の人差し指と中指、薬指の先端を添わせ、外縁を親指で支えます。 ほら、こうすれば音溝に手が触れることはないでしょう。 あとはそのままレコードのプラッター上まで持っていき、そっと載せましょう。

レコードの取り出し方
内袋ごと外へ出したら、右手の5本の指先で支える
レコードの取り出し方
左手で内袋の下端を軽くつまんで中からレコードを滑り出させ、半分ほどレコードを出す
レコードの取り出し方
レーベル面に右手の人差し指と中指、薬指の先端を添え、外縁を親指で支えます。

傷をつけないように。

実のところ、私はこの一連の作業をほとんど反射的に行っており、今回この文章を書くに当たって、改めて自分の所作を確認することになりました。 皆さんもこうやって「考えるより先に手が動く」ようになれば、レコードを安全に扱うことができるようになりますよ。

「それでも私は手先が不器用だから、できたらしっかりとレコードをつかみたいんだけれど……」という人には、役に立つグッズがあります。 いろいろありますが、代表的なものを挙げるとするなら、東レが発売しているトレシーというマイクロファイバー・クロスでできた手袋です。 トレシーはそのままレコード磨きにも使える布ですから、その手袋をしていればレコードをどんなにむんずとつかんでも問題はありません。

これは余談ともいえる話ですが、レコードをプラッター(レコードを回転させる部分)へ載せる際、レーベル面へプレーヤーのスピンドル(レコードをセットする真ん中の棒)を無造作に当て、手探りしながら穴へ収めている人がいます。 これをやると、レコードの中心穴付近に薄い傷がつきます。 この傷は「ヒゲ」と呼ばれ、ぞんざいに扱われたレコードの象徴として中古市場では嫌われる傾向にあります。 小さな中心穴からスピンドルを目視しながら載せたら、ヒゲをつけずに載せることはそう難しくありません。 皆さんもよかったら試してみて下さい。

うっかり事故を防ぐには外袋とジャケットの向きが重要。

これから書く話題は、いろいろな流儀があって何が正しい、間違っていると一刀両断できない話です。 あくまで「私はこうしている」ということですから、まぁよろしかったら、というレベルで参考にして下さい。

それは「レコードの外袋(ジャケットを保護するための透明な袋)とジャケット、内袋の縦横をどうするか」という話です。 人によってはそれらのすべてを横向き(右向き)にしていることがあります。 そういう配置にしていると、外袋も内袋も抜き取ることなく、ワンアクションでレコードを取り出すことができて便利です。

実は私も、小学6年で初めて買ってもらったレコードをそうしていて、とても便利に使っていました。 しかしある時、友達のステレオで聴かせてもらおうと外へ持ち出したら、何たることかレコードがコロンと外へ飛び出してしまい、音溝に大きな傷をつけてしまいました。 そうなったら、もうそのレコードはおしまいです。 どんなに後悔しても覆水は盆に返りません。

それ以来、私は外袋と内袋を上向きに仕舞うことを徹底しています。 ジャケットの開口は右向きですから、こうしておけばレコードが飛び出す事故はまず起こりません。 レコードを大切にしたい人へ、いの一番にお薦めしたい方法です。

ちなみに、小学6年でダメにしてしまった件のレコードはお小遣いを貯めて同じタイトルを買い直し、何と半世紀近くたった今でも素晴らしい音楽を聴かせてくれています。 やっぱり、レコードは大切にしたいですね。

レコードのしまい方
炭山さんオススメの仕舞い方

高温多湿は避けて、まっすぐ保管しよう。

レコードを保管する際に、一番気を付けなければならないのは「気温の高い場所に置かない」ことです。 レコードの素材は塩化ビニルで温度変化、中でも高温には極めて敏感です。 車の背もたれに立てかけておいたら夏の暑さで……、などという事故を起こしたら、そのレコードはもう元に戻すことは不可能でしょう。

また、国内盤によく用いられているビニール製の内袋は、夏場の暑い部屋に置いているとレコードにベッタリと張り付いてしまうことがあります。 こちらももうそのレコードを元に戻すことはできません。 私もそういう状態になったレコードを何枚か所有していますが、どんな洗い方、磨き方をしても、音溝は元に戻りませんでした。 皆さんも、くれぐれも注意して下さいね。

あとは、レコードを斜めに立てかけたまま長時間放置しないことも注意点です。 ちょっとくらい角度がついていてもそう心配することはありませんが、あまり大きな角度をつけたままにすると、ジャケットの中でレコードが大きく反ってしまいがちなのです。 こちらも特に夏場の高温下が一番危険です。 ご注意あれ。

Words:Akira Sumiyama