1977年に打ち上げられた2台の宇宙探査船、ボイジャー1号、2号。
この2台の宇宙探査船にはそれぞれ金色のレコードが搭載されていることをご存知だろうか。
その盤面には、地球の存在や文化をまだ見ぬ異星人に伝えるための画像や音声データが刻まれている。

もし異星人がそのレコードを手にした際には、どんな感想を抱くだろうか。
レコード文化に触れずに育ってきた世代が初めてレコードを手にした時にも、もしかするとそんな異星人と同じような感想を抱くのかもしれない。

さて、そんなレコードについてさまざまな思い出のエピソードを聞いてきたが、世代別のエピソード紹介は今回が最後となる。
最後までお付き合いいただければ幸いだ。

デジタルネイティブ世代に聞く、アナログレコードの思い出
レコードと共に生きてきた世代に聞く、アナログレコードの魅力

CD世代が語る、レコード曲の思い出

レコード曲の思い出を求めて〈40代・女性〉
レコード曲の思い出を求めて〈40代・男性〉

前回は40代女性、40代男性のレコード曲の思い出について紹介したが、今回は30代・20代から寄せられたレコード曲のエピソードを紹介しよう。

国内で一般的なレコードの生産が終了したのは1991年。
現在の30代・20代が物心つく頃には既にレコードは過去のものになっていたはずだ。
そもそもレコードに触れたことがない、という方も多いだろう。
CDなどレコード以外の媒体で音楽を聴くことが既に当然となっていた世代だ。
そんな世代の方々より寄せられた思い出の一端をご紹介しよう。

失恋した時のテーマソング

1989年9月19日リリース Janet Jackson「Come Back to Me」

もともとR&Bが好きだったのですが、深夜のラジオでこの曲を耳にしてから、レコードを買いに行くほど好きになりました。
その当時、初めて付き合った彼がいたのですが私のわがままで彼に負担をかけてしまい、振られてしまったのです。
なんとなく曲調が好きで聴いていたこの曲ですが、歌詞の日本語訳を目にした時、まさに自分の気持ちにマッチして、号泣しながらよく聴いていました。
今でもこの曲を聴くと当時の失恋にリンクして、センチメンタルな気持ちになります。
失恋した時のテーマソングです。
(かなこ・30代女性)

耳が釘付けになるほどの衝撃

1953年10月リリース Leroy Anderson & Boston Pops Orchestra「The Typewriter」

祖父がオススメだと言ってかけてくれたレコードでした。
私が気に入ったと知ると、曲について詳しく教えてくれました。
初めてこのレコードを聴いた時、本物のタイプライターを使って演奏していることを知った時の感動は今でも忘れることができません。
祖父の家に遊びに行った時には、いつもお願いしてこの曲をかけてもらっていました。
音に深みがあること、本物のタイプライターを使用して演奏していること、そしてレコード独特の針の音ですら素敵に聞こえるところが魅力です。
CDに負けず劣らずだと思います。
聴いた瞬間に耳が釘付けになるほどの衝撃を得た体験でした。
(ねこみみ・30代女性)

「こんな風に弾けるようになりたい!」と思わせてくれた一曲

1976年リリース Richard Clayderman「Ballade pour Adeline(渚のアデリーヌ)」

初めて聴いたのは3、4才の頃だったと思いますが、子どもながらに音色が心地良く、今でも覚えています。
幼少期に家で母がレコードをよくかけていた中の1枚で、リビングでくつろいでいる時にかけることが多かったです。
5才頃からピアノを習い始めたのですが、母も大好きなこの美しい曲を「こんな風に弾けるようになりたい!お母さんに聴かせてあげたい!」と、いつからか思うようになりました。
レコードを何回も流してもらい、耳コピしてメロディを覚え、買ってもらった楽譜で沢山練習し、高学年の頃には弾けるようになりました。
思い出の一曲なので、ピアノから離れてしまった今でも、ザックリとなら譜面無しで弾けます。
自分のピアノの弾き方に大きな影響を与えてくれました。
(よー・30代女性)

音楽との出会いを切り開いてくれたレコード

1966年8月5日リリース The Beatles「Yellow Submarine」

私が初めて出会ったレコードは、The Beatlesでした。
父がレコード好きで、大きなプレーヤーで日曜日によく聴いていたことから興味をもった私にオススメしてくれたのが「Yellow Submarine」です。
その後CDやMDなども出回りましたが、レコードの手間と時々響く途切れ音が好きです。
小学生の頃に聴き始め、日曜日に家で父が聴く時に一緒に聴いていました。
今では私も父も歳を重ねましたが、今でも鮮明に思い出せます。
私も母になり、いつか子どもと同じように趣味を分かち合いたいと思っています。
音を聴くことで、心がウキウキすると知ったレコードです。
父との思い出の時間であり、音楽との出会いでもあります。
私はこの曲をきっかけに音楽に興味をもつようになりました。
レコードを探すようになったり、音楽の好みを探ったりするようになりました。
そして、バンドを組んでギターをはじめました。
全てのきっかけはThe Beatlesの「Yellow Submarine」だったと思います。
The Beatlesとの出会いが音楽の世界を切り開いてくれました。
(かず・30代女性)

ジャズに接するきっかけとなった思い出の曲

1959年リリース The Dave Brubeck Quartet「Take Five」

高校生の頃は軽音楽部でロック音楽を嗜んでいたのですが、大学に入りジャズに触れてみたいと思い、ジャズ研究会に所属しました。
ジャズ研究会がお世話になっているジャズバーへ新入生歓迎イベントで初めて行った時に、この曲が流れていました。
テレビなどで聴いたことのある曲だと気づき、”ジャズはハードルの高い音楽”という印象を持っていた僕にとっては嬉しかった記憶があります。
この曲は5拍子で、普段聴くような音楽にはないようなリズムと不思議で幻想的な響きがあります。
そしてキャッチーで、ジャズの曲として認識してからレコードを通して初めて聴いた時の衝撃はとてもすごかったです。
(からくり・20代男性)

※2022年10月 筆者調べ

レコード文化を継承していくためには

今回は5人の30代・20代の方々のレコードについての思い出をご紹介させていただいた。
既に過去のものとなっていた世代のため、やはり両親や祖父母など上の世代からの影響でレコードに初めて触れた人が多い印象だ。
そのため紹介した楽曲の年代も、これまで以上に幅広いものとなった。

アンケートの都合上、30代男性の方からの思い出を聞くことができなかったのだが、せっかくなので30代男性の筆者の思い出を一つご紹介しよう。
拙文ご容赦いただきたい。

1970年12月リリース Vashti Bunyan 「Just Another Diamond Day」

私の一番思い出に残っている一曲は、Vashti Bunyanの「Just Another Diamond Day」。
1970年にリリースされた同名のアルバムに収められたこの一曲だが、オリジナル盤はプレミアがついていて現在では数十万円を超える。
私が持っているのは近年発売された3,000円程のリイシュー盤だ。
そんないつでも購入できるレコードに思い入れがある理由は単純で、2015年の来日時に品川のチャペルで行われたライブへ行った際に、ご本人からのサインをジャケットにいただけたからだ。
そのライブの素晴らしさはレコードを見る度に脳裏に蘇る。
まるで教科書に載っている歴史上の人物が時を超えて目の前で歌っている、そんなライブだった。
数千円程度のリイシュー盤だが、私にとっては数十万円のオリジナル版よりも価値のある宝物だ。
以上が私の思い出の一曲だ。

話は変わるが、現在、特に若い世代の間でレコードブームが続いている。
ジャケットのサイズから感じる所有感や、針を落とし、A面からB面へと盤をひっくり返す手間を楽しむ感覚など、好きな点は人それぞれにあるだろう。

レコードの誕生からは100年以上が経過しており、今や立派なひとつの「文化」となっている。
こうした文化を継承させるためには、やはり若い世代に興味を持ってもらい、継続的にレコードの購買層を増やしていくことが重要ではないだろうか。
そのためにも、このレコードブームが一過性のものにならないことを願っている。
まだ見ぬ異星人から「レコードが針飛びする!」なんてクレームが来た時のためにも。

Words:I・Shota