あの頃、テレビから流れていたあの曲。両親が昔から聴いていたあの曲。
レコードという媒体は、そんな時代の空気を呼び起こしてくれるまるでタイムカプセルのような存在だ。
レコードのジャケットを見ただけであの日、あの時の思い出が蘇ってくる。

レコードがまだ身近に存在した世代の方には、そういった大切な思い出がいくつもあることだろう。
レコード曲にまつわる思い出の一端を聞いてみたくなり、様々な世代の方にアンケートを取ったところ、貴重なお話をたくさん頂くことができた。

紹介させていただいたエピソードに懐かしさを覚えたり、時代の空気を感じるひとつのきっかけとなれば幸いだ。

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音楽媒体の転換期に青春時代を過ごした40代女性が語る、レコード曲の思い出

40代の青春時代は時代が昭和から平成に移り変わる中にあり、また音楽媒体もレコードからCDに移り変わっていく転換期。まさに激動の時代だ。
そんな激動の時代に青春を過ごした世代に、レコードに焦点を当てて思い出を聞いてみた。

>>レコード曲の思い出を求めて〈50代・女性〉
>>レコード曲の思い出を求めて〈50代・男性〉

前回、50代女性、50代男性のレコード曲の思い出について紹介したが、今回は40代の女性より寄せられたレコードとの思い出を紹介していこう。

落ち込んで、元気になりたい時に聴きたい曲

1983年9月21日リリース チェッカーズ「ギザギザハートの子守唄」

初めて自分が買ったレコードなので、思い出があります。
落ち込んで、元気になりたい時に聴きたい曲です。
アップテンポな曲なので、ノリノリになります。
ボーカルの声もいい感じで、聴いていて元気が出ます。毎日のように聴いていました。
当時チェッカーズが人気だったのですが、この曲を聴いた時、今までにない斬新な歌詞でびっくりしました。
当時は不良を題材にした曲がほとんどありませんでしたから、この曲を聴いてすぐにレコード店に行き購入しました。
私にとっての劇的な出会いです。
(dorako1024)

子ども時代に感性を刺激してくれた遊び道具

1964年6月5日リリース 小林幸子「ウソツキ鴎」

まだ小学校に入ったばかりの頃、学校から帰って友達と一緒に聴いていました。
まだ子どもだったので、音楽を聴くことが趣味ではなく、遊び道具のひとつでした。
ですので、ウソツキ鴎はよくレコードの回転数を速くしたり、逆に超スローで聴いては友達と大笑いしながら聴いた思い出があります。
このレコードの時の小林幸子さんがまだ子どもだったと父に聞いて、びっくりしたことも覚えています。
何度もリピートして聴いていたので、小学生ながらこの歌を丸暗記していました。
子ども時代に、感性を刺激してくれた遊び道具です。
(tomo)

人生観が変わる感動の体験

1971年6月14日リリース Emerson, Lake & Palmer 「Tarkus」

私は昔のプログレッシブ・ロックバンドが好きで、CDも集めていました。
こちらは初めて聴いてそのオルガンテクニックに感動した大好きな曲です。
レコードも購入し、何回もすり減る程聴いた本当に思い出のレコードです。
社会人になってこの曲を知り、レコードが手に入ってからはしょっちゅう休日にコーヒーと共に聴いていました。
私は元々クラシックピアノを弾いていて、アメリカでコンクールにも入選しました。
プログレッシブ・ロックというジャンルの、キーボードがテクニカルなロック・バンドがあるね、と会社の先輩に教えてもらったのが出会いのきっかけです。
2012年にこの曲は三谷幸喜さん脚本のNHK大河ドラマのテーマ曲になり、佐渡裕さん指揮のクラシック・オーケストラバージョンが世間の方にも知られるようになりました。
昔はプログレッシブ・ロックを知っている人しか知らなかった曲なので、良さが分かる人がこの曲を有名にしてくれたな、と嬉しい気持ちです。
格好いいジャケットのこのレコードを持っている私は、遊びに来る友人たちに昔からこの曲を知っていて愛していること、そしてレコードを持っていること自体を自慢できるので嬉しいです。
EL&PのTarkusとの出会いは人生観が変わる感動の体験でした。
(ドミニク)

※2022年10月 筆者調べ

40代の青春時代は若者文化のひとつの転換点

今回、3人の40代女性の方々にレコード曲についての思い出を語っていただいたが、いかがだっただろうか。
当時のヒット曲を懐かしむ方、レコードを遊び道具にしていた方、70年代のプログレッシブ・ロックに感銘を受けた方と三者三様の思い出だ。

特にレコードを遊び道具にしていた思い出は、音楽媒体がCDに移り変わり、レコードが過去のものになっていく時代を象徴するような思い出ではないだろうか。
また、Tarkusの思い出も40代の女性から情熱のこもったプログレッシブ・ロックの思い出を頂けると予想していなかったので、とても驚いたのが正直な感想だ。

40代の方が青春時代を過ごした80年代〜90年代にかけては、先に述べた音楽媒体の変化に加え、音楽界ではバンドブームが起こり、インディーズレーベルも発展した。
また雑誌「Quick Japan」(太田出版)に代表されるサブカルチャーへの傾倒も見られた時代だ。

TV番組でも「三宅裕司のいかすバンド天国」(TBS系、1989年2月11日~1990年12月29日)が人気を博し、街中ではナゴムギャル(インディーズレーベル「ナゴムレコード」の熱狂的女性ファン)も登場した。

マスメディアが紹介するヒット曲以外にも、様々な媒体から若者が音楽文化を吸収するようになったのが40代世代の特徴のひとつではないだろうか。

若者文化を考える上でひとつの転換点となる時代。
そんな時代のレコード曲にまつわる思い出を紹介させていただいたが、皆様のレコードの中にもきっとたくさんの思い出が詰まっていることだろう。
それはまるで時代の記憶を閉じ込めたタイムカプセルのように。

Words:I・Shota