「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、最近<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

極上音質と緻密なサウンドが魅せる2枚組LP

上原ひろみが率いる4人組バンド、Hiromi’s Sonicwonderの1年半ぶりのセカンドアルバム『Out There』の2枚組LPはすこぶる音がいい。全9曲はLP片面2曲収録で(B面のみ3曲)、13分から16分強という余裕のカッティングも奏功しているといっていい。重量盤仕様で、アルバムのカバーイラストレーションは、前作『Sonicwonderland』に引き続いてルー・ビーチ(Lou Beach、ウェザー・リポートのLP『Heavy Weather』のイラストで世界的に知られる)による書き下ろしだ。

上原ひろみが率いる4人組バンド、Hiromi’s Sonicwonderの1年半ぶりのセカンドアルバム『Out There』の2枚組LP

録音は米ニューヨーク、ブルックリンにあるPower StationのAスタジオで、2024年8月の13日から17日に実施された。録音エンジニアはアンドリアス・K・メイヤー(Andreas K. Meyer)、ミックスとマスタリングは沢口真生(Mick Sawaguchi)が担当した。アルバムのライナーノートには使用されたマイクロフォンやプリアンプなどの詳細が記されている。

過去、すべてのアルバムを米TELARCからリリースしてきた上原ひろみ。デビュー作からその録音はマイケル・ビショップ(Michael Bishop)に任されてきた(プロデュースを兼任することもあった)が、数年前に不慮の事故で急逝した。それ以来、アルバム毎に録音やマスタリングに携わるエンジニアは変わってきたが、沢口の起用は、2021年の弦楽四重奏団との共演盤『Silver Lining Suite』以来2度目となる。LPはカッティングエンジニア名の記載がないが、沢口からの情報によれば、ロンドンで実施された模様で、担当者は今年のベストと断言しているとのことだ。

私もこのレコードのカッティングは素晴らしいと感じた。アコースティックピアノの瑞々しい響きはもちろん、キーボード類の電子楽器のソリッドな質感イメージもいい。ベースのアドリアン・フェロー(Hadrien Feraud)の深々としたトーンはピッチが緻密に聴き取れるし、ジーン・コイ(Gene Coye)のドラムの音も緩急とダイナミクスが圧巻だ。エフェクトがかけられたアダム・オファリル(Adam O’Farrill)のトランペットの浮遊感も立体的である。まさしく4人の超絶技巧が実にクリアーかつ精巧に刻まれており、初めて針を降ろした時は驚いた。

ライナーノートには使用されたマイクロフォンやプリアンプなどの詳細が記されている

1曲目「XYZ」は、2003年の上原のデビューアルバム『Another Mind』の冒頭に収められていた曲で、そのSonicwonder版の演奏は猛スピードでグイグイと突っ走るかのよう。4人が一丸となった勢いとパワーが凄まじい。とりわけアドリアン・フェローのベースの早弾きがまったく崩れず、細かなニュアンスが明瞭に実感できたのには感激した。

B面1曲目の「Pendulum」は、シンガーソングライターのミシェル・ウィリス(Michelle Willis)をフィーチャーしたヴォーカル・バラード。声の質感にオーガニックな魅力を感じる(同曲はピアノ・ソロ版も収録されている)。

C面/D面は4曲からなる組曲で、アルバム・タイトルでもある「Out There」は、各人の 音色が有機的に絡み合ったアンサンブルがとても素敵だ。

しばらくは愛聴盤となりそうだ。

Words:Yoshio Obara

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