「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

3年ぶり、古き良きAORの空気感をまとった待望の最新作

「AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック、Adult-Oriented Rock)」という音楽ジャンルの呼称は、どうやら日本だけのようで、海外で「AOR」といえば、「アルバム・オリエンテッド・ロック(Album-Oriented Rock)」となり、日本のAORに当たる呼称は「ブルー・アイド・ソウル(Blue-Eyed Soul)」、または「アダルト・コンテンポラリー・ミュージック(Adult Contemporary Music)」というらしい。

翻って日本の音楽評論におけるAORは、都会的で洗練された大人向けのロックのことを指し、ジャズやソウルのエッセンスが刷り込まれた、いくぶんソフトでメロウなシティポップ的ロックとされる。

AORは1970年代半ばに台頭し、80年代にピークを迎える。やがて90年代には衰退したとする説もあるが、その流れを現代に正統に受け継ぎ、活躍しているのが、今回紹介するUKの2人組、ヤング・ガン・シルバー・フォックス(Young Gun Silver Fox)。

彼らの3年ぶり、通算5枚目となる最新作が『Pleasure』だ。アンディー・プラッツ(Andy Platts)とショーン・リー(Shawn Lee)の2人はヴォーカルだけでなく、大半の楽器をこなしてしまう器用さも売り。この2人が繰り出すメロディーとビートは、まさに80年代の王道的AORといってよい。キャッチーなメロディーとコーラス、粋なアレンジとタイトなグルーヴ感が、全盛期時代のAOR好きには堪らない、直球どストライクのムードなのである。アルバムジャケットも、どことなくヒプノシスの作風を思わせる70年代テイストがいい。米国盤レコードは、ペパーミントクリアのカラー盤だ。

彼らの3年ぶり、通算5枚目となる最新作が『Pleasure』

まずは1曲目「Stevie & Sly」を聴いてほしい。冒頭のどっしりとしたベースラインからシビレること受け合い。磐石の安定感である。キーボードの和音、コーラスの絶妙なハモリ具合や広がり方など、まんま80年代の古き良きAORの空気感だ。

3曲目「Late Night Last Train」も、まるでビル・ラバウンティ(Bill LaBounty)の楽曲ではないかというくらい、ウェストコーストの芳香を纏ったアーバンでメロウな雰囲気で、エイミー・ホランド(Amy Holland)やスティービー・ニックス(Stevie Nicks)辺りの女性シンガーが歌っても似合いそう。楽器の微細なニュアンスが細やかに再現されている。

今回ご紹介したカラーレコード盤は、現在一部では品切れ状態になっているとのことだが、UK盤や帯付き国内盤はまだ入手が容易なようなので、気になる方はぜひチェックしてみてほしい。

Words:Yoshio Obara

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