日本各地の絶景のもとで、DJやアーティストたちが各々のサウンドをプレイ。約1時間、映像と音楽の旅へと連れていってくれる映像配信プロジェクト『THAT IS GOOD』は、“日本の良さを知ってもらう絶景チャンネル”として、昨年10月にスタートした。上空から壮大に映し出された映像は、観たものに気づきを与えてくれるだけでなく、絶景とともにセッションをするDJやアーティストたちのプレイも伴って、新しいスタイルでの音楽の楽しみ方を教えてくれる。もの、こと、音楽、映像などを通じて、世界へ日本文化を伝えることをコンセプトに展開する『THAT IS GOOD』。この企画の舵をとるzaigoo inc.代表取締役の名取秀起さんと、第1回目の絶景にてDJを行った、JUZU a.k.a. MOOCHYさんに『THAT IS GOOD』について話を聞いてみた。

名取秀起(以下、名取):zaigoo.incではこれまでに、アートの個展や音楽イベントをプロデュースしてきていたんですけど、何か価値のある発信をしていきたいと考えていたんです。そのときに新型コロナウィルスでイベント関係の仕事が次々にキャンセルになってしまい、そんな状況の中でやれることはないかと考えたところ、デジタルで発信していくことに行き着いたんです。ちょうどそのときに『Cercle』という世界の絶景でDJをするフランスの音楽配信サイトを観て、「日本でもできるのでは」と思ったのもあったんですが、文化プロジェクトのような形にして、日本のアートやカルチャーを世界に受向けて発信していけたらいいなと『THAT IS GOOD(以下、TIG)』を始めました。

―お2人が知り合ったきっかけは?

JUZU a.k.a. MOOCHY(以下、MOOCHY):名取くんとは、自分がやっていた縄文と再生をテーマにしたフェスティバル『ONEESS CAMP』で知り合ったんです。縄文に関して名取くんも『JOMONISM』をやっていたことから仲良くなって、ZEN RYDAZやJ.A.K.A.M.の『ASTRAL DUB WORX』というアルバム用の映像の制作をサポートしてもらって。それで絶景シリーズの一発目で僕がDJで出たんですけど、名取くんは若い頃に映像制作をやっていたので、今回の映像の編集は名取くんが行ったんです。なので絶景シリーズの映像は、名取くんのアート作品としての要素もあります。

名取:長いことプロデュース業をしてきたんですが、今回は映像に対する熱が途中からでてきてしまって、自分で編集をしてみたいなと(笑)。

MOOCHY:僕もこれまで海外を意識してやってきたこともあり、『TIG』に関しては、海外をより意識してDJをしました。YouTubeの関係上、著作権の問題もあるから自分の曲しかほとんど使わなかったんですけど、自分が作る音は世界の民族音楽や、特に日本の民族楽器をよく使っているので、それが撮影をした武蔵御嶽神社に異様にマッチしましたね。日本の美しさとか、良さとか、郷土愛は出せたのかなとは思いますね。

名取:MOOCHYくんが、『ASTRAL DUB WORX』のLPを届けに来てくれたときに、「海外を意識したライブやギグを、いい場所でやりたい」と相談したら、MOOCHYくんも目線が海外に向いているということを話してくれまして。そのときに、台湾の人と仕事をしたらすごくやりやすかったと。僕もなんとなくアジア人の方が仲間意識を感じることがあるんですけど、それは文化の大東亜共栄圏というか、そう言うと炎上しそうですけど、考え方として共感できる部分が多いと思うんです。だから『TIG』は、海外の仲間も増やしていきたいと思いながらスタートしました。

―第1回目の撮影を、東京都青梅市にある武蔵御嶽神社の滝行の聖地である綾広の滝で撮影をされましたが、あの場所を選んだ理由はなんだったのでしょうか? 撮影許可をとるのが難しいのではと思いましたが。

名取:最初はこの企画にも携わってくれているWaon Productionsの鈴木シンヤくんと、陶芸家で『JOMONISM』メンバーの大藪くんが、『武蔵國御嶽山おおかみ奉納祭』という、神社に狼を祀る信仰を復活させようというお祭りをやっていて、そのお祭りと一緒に行えば、普段は撮影することができない綾広の滝の前で撮影ができるということになったんです。

MOOCHY:急遽、決まったんだよね。前日に入ってあの場所まで機材をリヤカーに積んで、1時間以上かけて運んで。御嶽山での撮影が『TIG』の初めての撮影だったので、あれがプロトタイプというか。大変な思いをしたことも含めて(笑)。

―第1回目の映像を目にして、『TIG』が目指す方向生性が詰まっていたのではないかなと思いました。

MOOCHY:処女作みたいなのは、大変だからこそ思い入れもありますよね。ちなみに、あの場所はスピリチュアル系の人たちにとっては聖地らしく、そこで撮影できたことを「神様に好かれている」と仲間の奥さんから言われました(笑)。

名取:撮影の許可取りを直接依頼しても、場所が場所なのでNGが出るはずなんですが、今回はイベントがあったからOKが出て本当にタイミングが良かったです。それと天気にも恵まれたことも良かった。ただ試行錯誤の中で撮影をしていたので、もう少し多めに撮っておくべきだったなとか後悔はたくさんあるんですけど、第1回目は試行錯誤から生まれるグルーヴ感も出たのではないかなと思います。

MOOCHY:僕は撮影の前日の朝にDJを終えて、ほぼ寝ないでバイクで向かったんですけど、ロープウェイを使って山を登ったり、東京にもこんなところがあるんだと単純に面白い体験でした。そういえば初めての撮影をしたときドローンを1台落としちゃったんだよね。だけど名取くんが冷静に判断して、その日にもう1台購入して現場まで持ってきてもらったんですよ。

―実際にあの場所でDJプレイをしてみていかがでしたか?

MOOCHY:YouTubeでの著作権の関係上、曲が引っかからないように、自分の曲を中心に30~40曲くらい曲のリストを提出したんですけど、結局どういう状態の中でやるのかわからなかったので、実際の現場では次の曲どうしようかなって考えながらプレイしていました。だけど僕は常に自分を追い込んで能力を発揮する方なので、直感に従ったときの奇跡みたいなのは感じましたね。何よりも尺八とか箏とか、民族楽器だとか、自分がいろいろな国で録音してきた素材がすごく風景にマッチすることがわかって、途中で「俺はこの撮影のために、この音楽を作ってきたんだ」というくらい感動しました。

―神の聖地で滝の水が流れている映像と、日本の民族楽器の音との融合がひとつの世界観を生み出していました。

MOOCHY:映像の最後は、昔からの仲間が吹く尺八で終わるんですけど、自分が作る音楽はミュージシャン参加型で成り立っていて、演奏者に対しての記憶やら思い出があるんです。つまりそれらの楽曲には、その人たちの意識も宿っている。だから撮影中は、撮影をしていた関係者たちと自分の曲に参加してくれた関係者との宴じゃないけど、そんな感じでしたね。昔、マドモアゼル朱鷺(タロット占い師)が、僕に「狼が月に向かっているような音楽をやりたい」と言ったことがあったんですけど、今回は“狼”というサイドストーリーもあったから、自分の中では“吠える”…その尺八に関しても吹くことはブレスだから、吠えている。狼が月に向かって吠えている、そんな感覚も意識しました。で、僕らは縄文を研究しているから、あの場所がどういう風土なのかはある程度知識としてあるし、だから自分の中ではどの楽器が一番その状況に対してマッチするのかは、必然的になっていったというか。言い方は雑かもしれないけど、シンクロニシティですよね。だからこの映像は、音楽がその場所を説明するガイダンス的な存在にもなっているんですよ。

―DJが絶景を引き出すガイダンス役であるとしたら、音楽を突き詰めてきた各々のDJたちの思想や、思いなどもこの映像から感じることができるなと思いました。

名取:場所に宿るパワーやストーリー性も重要だと思っています。世界へ向けて届けるのであれば、日本の場所にこだわりを持ちたい。だから映像を撮影するときは、DJやアーティストさんにその場所へ来てもらって、そこでインスピレーションを感じてもらって演奏をしてもらいたいなって思うんです。こういう配信映像って長く観る人は少ないと思うので、最初の20分~30分をどれくらいキャッチーにするかを考えていたんですけど、やっぱりアーティストさんがそこで感じたインスピレーションを元にプレイしてもらう方が断然仕上がりが良いんです。だから僕らがまず探さなくてはならないのは、ストーリーがあって、そこからアーティストがインスピレーションを得てパワーを発揮できる場所なんです。

MOOCHY:僕の親くらいの世代の人たちで、日本でレイヴをやってきた人たちがいるんですけど、10代の頃にレイヴィング(月に向かって吠える)の意味すら知らない中で、突然ヒッピーの親爺さんたちに呼ばれたパーティーが大雨で、テントの中にみんな集まって、少人数だけどそこでサンタナとかを聴いて盛り上がった記憶とか、それから数えきれないほどいろいろな野外でDJをやってきたけど、僕がレコードを回し始めたら犬がめちゃくちゃ吠えはじめたり、大雨やら、嵐やら、雪やら、自分の日頃の行いが天気を作ってるんじゃないかってことを真面目に考えざるを得ないことが何度もあって、やっぱり因果応報…自分の行いが天に疎通しないと、その状況が良い状況にはならない。実際に一挙手一投足がそのシチュエーションを作るわけで、何が起こるかわからないから、ただ祈るしかないって感じなんですよね。

―MOOCHYさんは、もうひとつ秋田で撮影されましたがそちらはどんな内容の選曲をされたのですか?

MOOCHY:秋田の映像に関しては、自分が作った曲を仲間がリミックスした曲をメインにプレイしました。自分が作った曲を、さらに自分よりも若い奴らがアレンジしたもの。ただDJトラックをかけるだけじゃなくて、そこにクルド人、セネガル人、キューバ人、沖縄の人だったり、それぞれの人生模様が曲に混ざり合っている。それってある意味地球レベルで感じた自分なりのメッセージであり、循環というか。自分が受け取ったものを、今この場所で、この時代に、この空間で返すという。秋田でも曲順も最後のオチさえも決めないでやったんだけど、自分の曲がコンセプト的に日本の風土にシンクロして本当に地球共和圏というレベルで絡み合っていくというか。結果的には自分が意図しないストーリーが生まれました。

―制作した楽曲は、自分の分身みたいなものなのかなと思いますけど、その曲をかけたときにとその場所に合ってしまった感じですね。

MOOCHY:結果的にね。自分の曲がコンセプト的に日本の風土にシンクロして、それで本当に地球共和圏というレベルで絡み合っていくというか。今もスウェーデンのアーティストと曲を作っているんですけど、日本という風土に興味を持っている人が世界中にいて、彼らが自分たちに誇りを持たせてくれることで、さらに文化が混ざり合っていくことが、僕ら的には重要なことだと思うから。

※3/9公開本映像挿入

―ラビラビがライブで登場した、日本最大級の縄文集落跡地である三内丸山遺跡(青森県青森市)での映像も最高でした。

名取:自分たちは『NPO法人 JOMONISM』という、アートや音楽の側面から縄文を観て、縄文を探求するNPOをやっているんですが、以前、三内丸山遺跡でイベントをやったことがあったんです。あの場所は来年にはたぶん世界遺産になると思うんですけど、海外の人たちにも三内丸山遺跡の魅力、縄文の魅力を届けたいという思いを伝えて、一緒にやることになったんです。

MOOCHY:KUNIYUKIさんが樹氷(宮城蔵王)で撮影をしましたけど、地球温暖化も含めて、これからいろいろ状況が変わっていってしまうことがあると思うで、それも記録をしておかないとですよね。

名取:雪がなくなる未来を想像したくはないんだけど、確実に少なくはなっている。なので今のうちに記録しておきたいなと思ったんです。

―これからどんな場所での映像が公開を控えていますか?

名取:沖縄の今帰仁城跡で、地元沖縄のDJ HIKARUさん、その後に沖縄の久高島でREE.Kさんが登場します。その場所に歴史があって、何故ここがこうなったのかなどを調べていくとすごく面白いじゃないですか。久高島は沖縄でも神聖な島で、女性が祈りを捧げていたんですね。だから女性DJにプレイしてもらいたくて、REE.Kさんにお願いしました。選んだ場所に対して、そこに合うキャスティングを考えると伝えられることがたくさんあると思うので、今後も場所とキャスティングにはこだわっていきたいですね。

―『TIG』で今後やってみたいこと、計画していることを教えてください。

MOOCHY:MOOCHY:今公開されている御嶽の映像で、マーカスというスウェーデン人のアーティストと作っている曲もかけているんですけど、彼はワールドミュージックや民族音楽が好きで、僕にアプローチをしてきてくれたんです。それで彼に「スウェーデンに面白い民族音楽はあるのか」をと尋ねたら、「女性コーラスがある」と言っていて、そういう話を聞くと自分はすごく面白いんですよね。スウェーデンにあるクラブカルチャーを知ることはもちろんだけど、その奥にあるベーシックなことというか、その地に根付いた文化を知れることは嬉しい。人間は重層的というか、その人が出来上がるまでに数万年かかっているわけだから、そういうことを『TIG』からも感じてくれたらいいなと思うし、映像で記録していくことで未来に対して継承されていくと思うので。

名取:配信なので、いろいろな国の人たちに観てもらいたいなと思いますが、風呂敷を広げてやるのではなく、なるべくストーリー性にフォーカスを絞って制作をしていきたいですね。それといつか、例えば台湾とかで『TIG』を面白いと言ってくれる人がいたら、台湾のアーティストを呼んで日本で撮影を行うとか、そういった交流はしてみたいです。自分はこれまで小器用にいろいろとやれてきてしまったんですけど、でもどこかに不器用で自分自身でやり切ってみたいという、何かふつふつとしたコアな部分が自分の中にありまして。僕の器用な部分と不器用な部分を生かしながら、仲間たちと一緒に作っていけたらいいなと思っています。

名取秀起

zaigoo inc.代表取締役。広告代理店でクリエイティブ、プランニングの経験を得て、2013年にzaigoo inc.を設立。自主イベント事業から、企業のプロモーション/クリエイティブまで、幅広くプロデュースを行う。2020年コロナ禍の中、ネーミングライツを販売するプラットフォーム「namee」や、「日本文化を世界へ」をキーワードに音楽、映像、アートなどを世界発信するプロジェクト「THAT IS GOOD」を立ち上げ、日本の絶景にて音楽LIVEの映像を収録、また俳優片桐仁の粘土作品プロジェクト「片桐仁の日本全国ご当地粘土道」など、日本が世界へ誇れるような文化活動を多言語化サイトで配信を行っている。
https://thatisgood.jp/
https://namee.jp/

JUZU a.k.a. MOOCHY(NXS / CROSSPOINT)

DJ/サウンドプロデューサー。90年代より、国内外の巨大音楽フェスやアンダーグランドなパーティにて活躍。2003年にキューバで現地ミュージシャンとレコーディングツアーを敢行したのを皮切りに、世界各地で録音を重ね、新たなワールドミュージックの指針としてレーベルCrosspointを始動。音楽制作のみならず、映像作品、絵本や画集のプロデュースなども手がける。2012年より野外フェス「Ooneness Camp”縄文と再生”」を企画する中、2015年からは国内外にてヴァイナルをリリース。現在はソロ活動だけでなく、DJ TasakaとのHIGHTIME Inc.、Macka-Chin、MaLとのユニットZen Rydaz、2020年よりMarcus HenrikssonとKuniyukiとのユニットMYSTICSでの活動も本格始動。
http://www.nxs.jp/

INFORMATION

THAT IS GOOD
Official YouTubeチャンネル
【公開中の配信】
武蔵御嶽神社(東京都青梅市)× J.A.K.A.M.
江ノ島シーキャンドル(神奈川県江ノ島)× DJ Kaoru Inoue
猊鼻渓(岩手県一関市) × DJ KENSEI
三内丸山遺跡(青森県青森市)× ラビラビ
八ヶ岳 清里テラス(山梨県北杜市)× starRo
大雄山最乗寺(神奈川県南足柄市)× DJ Yogurt
【今後予定している配信】
樹氷(宮城県宮城蔵王)× Kuniyuki Takahashi
今帰仁城跡(沖縄県)× DJ HIKARU
久高島(沖縄県)× REE.K
大湯環状列石(秋田県)×JUZU a.k.a. MOOCHY

Words: 吉岡加奈
Photos:四十物義輝