「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

ジャズ好きにはぜひ聴いてほしい、伝統と革新のピアノトリオ

ジャズは変容する音楽。時代に則してさまざまな要素や胎動を取り込み、発展してきた。「ジャズのジャンルガイド<歴史、特徴、代表曲を紹介>」でも記したように、大雑把に分類しても10以上、記載しなかったサブカテゴリーまで含めれば、優に20近くに分けられる。

では、楽器編成やその演奏スタイルでも変容を遂げてきたのだろうか。残念ながらその点では大きな変化がなかったように私は捉えている。少なくとも20世紀のうちは……。

50年代に登場したビル・エヴァンス(Bill Evans)のトリオを規範としているように見受けられる

ピアノトリオ(ピアノ、ベース、ドラムス)という最小単位のユニットは、ジャズの定番スタイルとして一定の支持がある。その多くは、50年代に登場したビル・エヴァンス(Bill Evans)のトリオを規範としているように見受けられ、アコースティック楽器が主体だ。さらにその大半は、編曲や個人技によって独自色を打ち出している。

さて、そこでだ。今回紹介するゴーゴー・ペンギン(GoGo Penguin)も、基本的にはアコースティックなピアノトリオとカテゴライズできるが、音の処理や演奏スタイルに斬新さが見受けられるのが特徴。ベーシックにはジャズだが、クラシックの要素に加え、大胆不敵なエフェクトを加えた上で最新のテクノやダブステップ、さらにドラムンベースなどの多様な音楽性を刷り込ませており、既成の枠に捉われない進化したピアノトリオを繰り広げているのである。

そんな彼らの2年ぶりの通算8枚目のフルスタジオアルバム『Necessary Fictions』の音質がすこぶるいいので採り上げたい。メジャーデビューこそ、ジャズの名門Blue Note Recordsからであったが、ベルリンを拠点とするXXIM Recordsに移籍して2023年、24年とコンスタントにアルバムをリリース。本作が同レーベルでの通算3作目となる。

Necessary Fictions

英マンチェスター出身の彼らは、グローバルには「アコースティック・エレクトロニカ・トリオ」と称され、クラブシーンでは「踊れるジャズ」と評価されている。その流れは本作にも受け継がれており、いい意味で大いに刺激的な演奏だ。

「Umbra」の反復するビートは跳ねるようであり、どこかアフリカの大地の胎動を連想させるような雄大さを感じる。このリズムはクセになりそう。そう、まさに踊れそうだ。

鋭くクリアーなピアノの響きを先導役とし、ドラムンベースのような重低音が押し寄せる「State of Flux」も、ゴーゴー・ペンギンだからこその無機質さとクラシカルな構造の融合が見られる。

儚い美しさを湛えた「The Turn Within」が醸し出す世界観は、クールなイメージの中に楽器のナチュラルな質感が感じられて実に新鮮。この拡張の止まない奥行き感が楽曲のハイライトのひとつと感じる。

従来のピアノトリオに飽き足らないジャズファン、あるいは最先端のジャズに関心のある方にはぜひ聴いていただきたいアルバムだ。もちろん、高音質のジャズを希求する貴方にも。

Words:Yoshio Obara

SNS SHARE