シティポップや昭和歌謡がSNSや各種メディア、街角で流れる光景は、いまや私たちの日常に深く溶け込んでいる。それは単なるノスタルジーや一過性のブームにとどまらず、確かな「いま」の空気として定着した現象だと言えるだろう。さらに、レコード特有のアナログな音質やフィルムカメラのざらついた描写、レトロポップなファッションやデザインなど、昭和という時代の質感をまとったカルチャー全般が、Z世代をはじめとする若年層のあいだで「エモい」という感性のもとに再評価され、その潮流は今なお広がりを見せている。

なぜ昭和のカルチャーは色褪せることなく新たな輝きを放ち続けるのか。その問いに一つの答えを示すのが、「ネオ昭和」を掲げるZ世代インフルエンサー/アーティストの阪田マリンである。彼女は音楽プロジェクトのザ・ブラックキャンディーズを通じて、昭和歌謡のエッセンスと現代のポップ感覚を融合させたサウンドを発信。同時に、SNSで昭和テイストのファッションやライフスタイルを現代的に解釈してみせ、往時を知る大人から同世代の若者まで幅広い共感を集めてきた。

そんな彼女の音楽キャリアが今、大きな転換期を迎えている。数え年で「昭和100年」という節目だった2025年をもって、ザ・ブラックキャンディーズとしてのプロジェクトを凍結。「昭和101年」となる今年からは、満を持してソロアーティストとしての道を歩み始めたのだ。

2000年生まれの彼女は、なぜ昭和に強く惹かれ、その魅力を現代へ手渡そうとするのか。そして、「ネオ昭和」はこの先どう更新されていくのか。昭和と令和をつなぐ彼女の感性の核心とこの先のヴィジョンをインタビューで探った。

「昭和100年」をこえて。ザ・ブラックキャンディーズからソロアーティストへ

(キャプション)今年2月にリリースされた、阪田マリンのソロアーティストとしての1stデジタルシングル「エンドロール」。

2025年の「昭和100年」という節目で、ザ・ブラックキャンディーズの活動を凍結し、「阪田マリン」として本格的なソロアーティスト活動を発表されました。この決断に至った背景を教えていただけますか?

実はザ・ブラックキャンディーズは、デビューした時点で「昭和100年で凍結する」と決まっていたんです。なので、そこに向けて楽曲を出したり、後悔のないように活動を続けてきました。そして、去年、無事[「昭和100年」を迎えたので、今回阪田マリンとして再スタートを切ったという感じです。

ソロ活動も当初から決まっていたのですか?

そこに関しては決まっていませんでした。正直、ザ・ブラックキャンディーズ凍結後にどうなるかはわかっていなかったんですけど、ただ、ソロでやりたいという気持ちはずっとあって。なので、こうして今回実現できたのは本当に嬉しいですね。続けてきてよかったなという気持ちが大きいです。

2月から3月にかけて新曲「エンドロール」「なみだ色のハイウェイ」を連続リリースされ、4月にはデビューアルバムも控えています。こうした作品にはどんなメッセージが込められているのでしょうか?

去年からずっとこのアルバムに向けて準備してきました。プロデューサーの長戸大幸さんが、私の知らない昭和のオールディーズや60年代・70年代の楽曲をたくさん教えてくれて、そこからインスピレーションを受けて歌詞を書いていったんです。昭和は自分が生きた時代ではないけど、「もしスマホのない時代に待ち合わせしていたら」とか想像を膨らませながら、自分が昭和の恋愛をしていたらどうなるだろうと考えたり、何回もやり直したりしながら、丁寧に作り上げていきました。

あとは昭和を知っている人にはわかってほしいというワードも散りばめつつ、初めて聴く若い世代でも情景が浮かぶような書き方を意識しました。がっつり昭和にはせず、今の時代に通じるニュアンスを持たせています。例えば映画を観ていたらなんとなくわかるような、そういうわかりやすさも大事にしています。

ちなみに、アルバム全体の路線はどういったものなのでしょうか?

例えば、「エンドロール」はバラード調で、「なみだ色のハイウェイ」はグループサウンズといった感じでジャンルはかなり幅広いです。ロック、ポップス、バラード、シティポップと、昭和のあらゆるジャンルを詰め込んだアルバムになっていると思います。自信作ですね。

「ネオ昭和」というコンセプトに込めた想い

阪田さんが「ネオ昭和」という言葉に込めている想いについて、教えていただけますか?

「ネオ」は「新しい」という意味で、今のカルチャーと昭和を融合させたものを「ネオ昭和」と呼んでいます。最初は「昭和が好き」というだけで活動していたんですけど、それだと昭和世代の方たちには応援してもらえても、同世代にはなかなか伝わりにくかったんです。そこで今流行っているものと昭和を掛け合わせたら、同世代にも馴染みやすいんじゃないかと思って始めたのがネオ昭和です。

具体的にはどういった掛け合わせなのでしょうか?

ファッションのなかで表現することが多かったですね。例えば、メイクは今時の流行りのものにして、ファッションは昭和。逆にメイクを昭和っぽくして、小物は流行りのブランドを合わせるとか。どちらか一方に囚われないことを大事にしています。実際、ネオ昭和というコンセプトに変えてからは、SNSの同世代のフォロワーさんが一気に増えた印象があります。

レコードやフィルムカメラといったアナログな体験を愛する一方で、InstagramなどSNSでも積極的に発信されています。SNSを使う上で心がけているマイルールなどはありますか?

SNSに関しては、とにかくフィルムで撮ったものを上げるということにこだわっています。あとは、昭和が好きだからといって昭和だけに縛られないようにしています。今の流行りの音楽も聴いて、そこからインスパイアを受けたものを昭和的な文脈に取り入れたりとか、そういったことも心がけています。

なぜレコードで音楽を聴くのか

以前にあるインタビューで、「今の時代は感情が常に平坦になりがち」とお話しされていたことが印象的でした。レコードをジャケットから出して針を落とすまでの一連の手間に魅力を感じるとのことですが、スマホのサブスクで聴くのとレコードで聴くのとでは、ご自身のなかでどのような違いがあるのでしょうか?

スマホですぐ音楽が聴けてしまう時代だと、「今これが聴きたいな」と思った瞬間に再生できるぶん、音楽が当たり前のものになってしまう感じがするんです。でも、レコードの場合は棚から聴きたいレコードを探し、取り出して、ターンテーブルに置いて針を落とすまでに1〜2分はかかります。すぐに聴けないからこそ、音楽に対するありがたみを感じるんです。それと、針を落としてから音が始まるまでにちょっとだけ間があくんですけど、その「間」に引き込まれる感覚がありますね。

聴いているときの感じ方も変わりますか?

そうですね。すぐに聴けてしまうと、どうしても流しっぱなしになって、作業のBGMになりがちなんです。でもレコードは針を落としたらもうそこに向き合うしかない。だから、音楽を真剣に集中して聴けるという感覚がありますね。

ちなみに現在、レコードを何枚ぐらい所有されているのですか?

今は100枚ぐらいです。普段からよく大阪の日本橋にある中古レコード屋さんに通っています。そのお店ではレコードの状態がA・B・C・Dでランク分けされているんですけど、最近はランクのいいAの帯付きを選ぶようにしています。あと、探すときは絶対にひとりで行くのがこだわりですね。欲しいレコードがすぐ見つかるときもあれば、じっくり掘らないといけないときもあるので、邪魔されたくないし、急かされたくないからです(笑)。

音楽を聴くまでのプロセスも含めて、レコードという文化を楽しまれているんですね。

そうですね。あとレコードの話で言うと、私のレコードプレーヤーとスピーカーはオーディオテクニカさんの『AT-LP70XBT』と『AT-SP3X』なんです。お父さんに「レコードを聴くなら、ちょっとお金を出してでも絶対オーディオテクニカにしなさい」と言われたのがきっかけで。初めてエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)のレコードをかけたとき、鳥肌が立つぐらい感動したのを覚えています。それ以来ずっとファンです(笑)。

デジタルの利便性との距離の取り方。アナログ体験や「不便さ」に宿る魅力

とはいえ、普段の生活ではスマホもお使いだと思います。デジタルの便利さとのバランスはどう取っているのですか?

実は休みの日はスマホを触らないという自分なりのルールがあるんです。仕事がある日はどうしても連絡のやりとりがあるので触りますけど、「今日は休みだ」と思った日は、漫画を読んだり、本を読んだり、レコードを聴いたり、テレビを見たり、意識的に離れるようにしています。

デジタルデトックスですね。気持ちの変化はありますか?

やっぱり1日がすごく長く感じますね。スマホを触らないだけで、こんなにいろいろなことができるんだって思います。スマホで言えば、ショート動画は脳が記憶しにくいという話も聞きます。それってやっぱりずっと無意識に見続けられるものだからこそですよね。そう考えるとスマホに費やしている時間は想像以上に大きいんだろうなと思います。

阪田さんの世代はいわゆるスマホネイティブと言われますが、周りにもデジタルデトックスをしている方はいますか?

ひとりだけいましたね。昭和好きの友達だったんですけど、「スマホ捨てるわ」と宣言して、ガラケーに変えていました。メールアドレスと電話番号だけ送られてきて、それでやりとりしたこともありましたが、その時は気合い入ってるなと思いましたね(笑)。

アナログならではの「不便さ」が、誰かとの対話を生むきっかけになっていると感じることはありますか?

もちろんです。例えば、最近はモバイルオーダーが主流になってきていますよね。お店にQRコードが置いてあって、店員さんとのやりとりなしで注文もお会計も全部完結する。便利ではあるんですけど、そうなるとそこで会話が生まれないんです。私がよく行く喫茶店がもしモバイルオーダーになったら、「今日のおすすめ何?」とか「今日天気いいね」とか、ちょっとした会話すら生まれなくなる。だから、人と人が言葉を交わせる場所があるということ自体が大事なのかなと思います。

その喫茶店はどんなお店なんですか?

いわゆる「純喫茶」ですね。朝の10時までに入店すると、ミックスサンドにコロッケとスープとフルーツとヨーグルトがつくっていうお店で、高校1年生くらいの頃にお母さんに教えてもらったんです。それを知ってから、ひとりで通うようになりました。

20代で純喫茶に通う方は、なかなか珍しいのではないでしょうか?

あんまり若い人は来ないイメージですね。でも「昭和が好き」みたいな話をしたら、「昔着てた昭和の服があるんだけど、もう着ないから捨てようと思ってたものだから、次来たときに持ってきてあげる」って言ってくれる人がいたり。そこで実際に昭和の服をもらったりとかもしましたね。

周りのお友達とのギャップはありませんでしたか?

それが意外と受け入れてくれました(笑)。「私と遊びに行くときはレトロなお店紹介してよ」って言ってくれる友達もたくさんいたし、「マリンと遊びに行くときは昭和っぽい、ちょっとレトロなコーデしてくる」と言ってもらえることもありましたね。

おすすめの昭和スポット&昭和ミュージック

阪田さんが拠点とされている関西でおすすめの「昭和を感じるスポット」を教えてください。

関西で昭和を感じるスポットなら、まず絶対に大阪の新世界ですね。そこに行くだけでタイムスリップしたような気持ちになれます。〈喫茶ドレミ〉や〈国際地下劇場〉は特におすすめです。あとは同じく阿倍野にある〈阿倍野ベルタ〉という地下のショッピングセンター。入った瞬間、頭がクラッとなったんですよ。昭和すぎて気絶しそうになりました(笑)。

思い入れのあるライブハウスについても教えていただけますか?

大阪・千日前の味園ビルにあった〈味園ユニバース〉ですね。去年そのビルが閉館したときは本当に泣きそうでした。味園ビルは、昔、和田アキ子さんも歌われていたような場所でしたし、あそこでライブがしたいという夢があったんですけど、それが叶わないままなくなってしまったので残念です。

阪田さんが時代を越えて聴き継いでほしいと思う、おすすめの昭和のアーティストを教えてください。

歌謡曲のアイドルでいうと山口百恵さんです。それとシティポップは山下達郎さん、ロックは矢沢永吉さんをおすすめしたいです。

それぞれおすすめの理由も教えてもらえますか?

まず、山口百恵さんは、とにかく生き様がかっこいいんです。歌ももちろんなんですけど、キャリアの絶頂期に「結婚と子育てに専念します」と言ってコンサートで白いマイクを置き、そこから一切メディアに姿を出さなくなった。あの潔さはなかなかできることじゃないと思っています。それにその覚悟が歌声にも表れているんですよね。哀愁のある曲ではしっとりと、「ロックンロール・ウィドウ」のような曲では目つきまでまるで俳優のようになる。本当に大好きなアーティストです。

そして、山下達郎さんは、私にとって神様のような存在です。天才すぎて、実在している方だと信じられなかったぐらい(笑)。2〜3年前にやっとコンサートに当選して、初めて観ることができました。その時はご本人が「スパークル」のイントロで登場された瞬間に号泣してしまいました。そもそも山下達郎さんを好きになったのは、小学生の頃からお父さんが家族で銭湯に行く車のなかでずっと流していたのがきっかけですね。

阪田さんの昭和愛はお父様からの影響も大きかったんですね。最後の、矢沢永吉さんについてはいかがでしょうか?

矢沢永吉さんを好きになったのは、中学3年生の頃にレコードショップで『ゴールドラッシュ』というLPアルバムをジャケ買いしたのがきっかけでした。まだ昭和の音楽をよく知らなかった時期でしたが、口から星をバーッと吐いているようなデザインがかっこいいなと思って手に取ったら、それが矢沢永吉さんだったんです。そこからライブも観に行きましたが、会場が白スーツのおじさんたちであふれていたのも衝撃でしたね。一番好きな曲は「東京」です。ぜひ聴いてみてください。

「ネオ昭和」のこれまでとこれから

4月29日にリリースされるソロ1stアルバム『なみだ色のハイウェイ』。アナログレコードでのリリースとなり、50〜80年代の昭和感と彼女ならではの感性が溶け合った全11曲を収録する。

2025年は「昭和100年」という節目であり、ソロ活動の本格始動など大きな区切りのタイミングになりました。ここまでの活動を振り返っていかがですか?

感謝しかないです。応援してくださっている皆さん、支えてくださっている事務所の方たち、そして両親。自由にやらせてもらえる環境があったからこそ、ここまでこられたんだと思っています。最初はただの「昭和が好きな女子高校生」で、こんな未来が待っているとは思ってもいませんでした。高校生の頃から昭和アイドルに憧れがあって、それがまさか令和の今に実現しているわけですから。夢がひとつひとつ叶っていくのを感じていますし、生まれ変わっても自分になりたいと思いますね。

新たなスタートとなる「昭和101年」の目標や今後の展望を教えてください。

「昭和101年」からはアーティスト活動に力を入れて、阪田マリンとしてがんばりたいです。ライブをたくさんやって、より多くの方に観ていただけるような歌い方や表現力を身につけていきたいですね。

そして、今年中の目標としては、銀座 博品館でライブをすること。初めて足を運んだときにすごく雰囲気のある場所だなと感じて、絶対ここでやりたいと思った場所なんです。ネオ昭和としての活動は、もちろん昭和200年までいきますよ!

阪田マリン

2000年12月22日生まれ 。昭和カルチャーが大好きで“ネオ昭和”と自ら命名し、ファッションやカルチャーを発信するZ世代のアーティスト兼インフルエンサー。数々のメディアや企業からの出演オファーが殺到中! SNSでの総フォロワー数は約34万人。ネオ昭和歌謡を発信するアーティストとしても活動を活発化し、全編フィルムカメラで撮影したファースト写真集「今って昭和99年ですよね?」が好評発売中。2026年4月に待望のソロ1stアルバム『なみだ色のハイウェイ』をリリース。

HP

X

Instagram

Words:Jun Fukuanga
Photos:Koji Shimamura
Edit:Takahiro Fujikawa

SNS SHARE