シンガーソングライターの浮(Buoy/ブイ)は、実は音楽を聴くことが苦手だ。おそらく誰しもが感じている都市の喧騒と情報過多。そのなかで音楽で耳を塞ぐことは、本来、音楽を純粋に楽しもうとする行為からは半ば逸脱しているようにも思える。一番の対策は都市との距離を置くことではあるが、そこで暮らしている人にとってはハードルが高い策だろう。
静かに耳を澄ます。本来は日常的に必要な、気が休まる状況・環境を生むために浮は歌っている。話を聞くとその意思が伝わってくるのだが、そんな彼女にオーディオテクニカの新型ワイヤレスイヤホン『ATH-SQ1TW2NC』をしばらくの間、使ってみてもらうことで、機能性を超えた価値や役目がわかってきた。
ATH-SQ1TW2NCは、周囲の雑音を抑えるアクティブノイズキャンセリング機能に加え、集中やタイムマネジメントに利用できる最新のショートカット機能を有している。それを彼女が使うとどうなるか。不思議と、彼女が普段大切にしている生活感とATH-SQ1TW2NCの機能性は調和しているようだった。
音楽は生活の営みのひとつ、無理にデザインするものではない。
まず普段についてお聞きしたいのですが、浮さんは日常でどのように音楽と接していらっしゃるのでしょう?
実は私、普段は音楽が聴けないことが多いんです。東京にいると情報がそこかしこで溢れていて、頭のなかが情報で埋もれてると音楽を聴けなくなってしまうことがあって……。
普段はあまり音楽を聴かないということですか?
特に音楽制作をしているときは、音楽を録音されたものとして聴いてしまうので、どうしても自分の音楽と相対的に捉えて聴いてしまったりして、すごく疲弊するんです。
でも、一度東京を離れると入ってくる情報量が減るので、スッと音楽を聴けるようになります。音楽を楽しむためには自分の気持ちに余裕がないといけないんですが、いつも東京を離れているわけにもいかないので、そういうときは自然のなかや電波の届かないところに身を置いて、耳を澄ますことで気持ちの居場所を探すようにしています。
今日は吉祥寺を待ち合わせ場所に指定いただきましたが、確かに井の頭公園には自然がありますし、東京でも落ち着ける場所ですよね。
ところで、2026年5月13日に3rdアルバムのリリースを控えているそうですが、普段はどのように楽曲制作を行っているのでしょう?
今回リリースするアルバム『私』は、一番古いものだと2019年くらいから録り溜めてきた13曲で構成されています。
歌詞と楽曲はまったく別の方法で制作していて、歌詞は外を歩いているときなど、移動中に突然浮かぶことが多いので、それを日記のように書き溜めたりしています。対照的に楽曲をつくるときは、必ずと言っていいほど家のなかでひとりギターを抱えていることが多いですね。
楽曲制作は、無造作にインプットしたものを整理する感覚に近いというか、考えがまとまって整理されることで表現に向かえるんだと思っています。アルバムというかたちを経て、やっと次に進める、そんな感覚です。
ここ数年はライブを中心に活動されている印象がありますが、話を少し遡り、2018年ごろより浮として活動を開始されたきっかけは何だったのでしょうか?
弾き語りの活動に本腰を入れたきっかけは、民謡をはじめとする土着的な音楽に興味を持ったことからです。あとは、今使っているガットギターを手に入れたことも大きいです。当時働いていた表参道のCOMMUNEというコミュニティスペースでライブをしてくれていた方に、「このギターが似合うと思う」と譲ってもらったものなんです。
活動をはじめてから数々のライブも経て、段々と自分自身が何をやっている人なのか明確になってきたこともあり、見える景色や出会う人が変化してきた気もしています。ずっと働く場所を転々と変えながら暮らしてきたので、常に面白そうな場所を求めていくのが自分らしいとも思っていて。人がたくさんいるところに入っていきたい、表現をしたいというのは昔から変わらないのかもしれません。
浮さんの楽曲は静的な印象があるのですが、賑やかな場所に身を置いているって不思議ですね。
確かにそうですね、何でだろう(笑)。もしかすると、音楽をやっているという意識があまりないのかもしれません。祭りの音頭や、ついつい踊りたくなってしまうような民謡は大好きなんですけど、自分がやっているのはそういった一時的なものより、生活の営みのなかのひとつの行為として歌をつくっている感覚なんです。
無理にデザインするものではないはずですし、日常の延長にそっと寄り添うようなものというか。日常を紡いだ結果をかたちにしたもの、それを共有する時間がライブだったりするんですかね。
利便性にとどまらない、浮さんらしいイヤホンの心地良い楽しみ方。
今回しばらくの間、ATH-SQ1TW2NCを使ってみていただきました。そこで、いまお話いただいた「気持ちの居場所」「日常の延長」といった普段、大切にされている事柄を踏まえて、ATH-SQ1TW2NCの感想をいただけたらと思っています。
ATH-SQ1TW2NCは自身の楽曲のデモ音源チェックだったり、ラジオを聴いたり、人混みのなかやライブ前に音楽を聴くときに使っていたのですが、そのなかで一番役立った機能が「アクティブノイズキャンセリング(ANC)」。ライブのために飛行機や車に乗ることも多いので、移動時間にも役立ちました。
よくノイズキャンセリングの効きが強すぎて耳がギュっと圧迫される感覚があると思うんですが、それもあまり感じませんでした。これは感覚的に感じたことですが、ノイズが消えても奥行きが残ってくれるところも気に入っているポイントです。
あと、ワイヤレス特有の遅延を解消する低遅延モードというスイッチも重宝しそう。最近は自身のムービーも撮影していたので、その映像を確認するときに歌詞と映像の動きがシンクロしているかをしっかり確認できますし、タイムラグがなくなるので、ドラマや映画を観たりするときにも活躍してくれます。
その次はヒアスルー機能ですね。ちょっとした買い物にも便利なんですが、私は公園や自然のなか、または遠くの音を聴きたくなったときに使ったりしていました。車通りが少ない知らない街を訪れると、遠くの音が聴こえるので、つい耳を澄ましてしまうんですが、そんな感覚に近いですね。
雨の音や鳥の囀り、木々の擦れる葉の音などもよく聴いたりするので、自分の楽曲とそういった環境音を混ぜて聴いてみて、楽曲の新たな表情を見つけるような楽しみ方もしています。
ヒアスルー機能とプライベートタイマーをショートカットとして設定しておけば、自然のなかに没頭しすぎてしまうこともないので、ついつい長居してしまいがちな私にとっては嬉しい機能なんです。
面白いですね。便利とされている機能が浮さんにとっては、日常の彩に変わる。
このATH-SQ1TW2NCには「焚火の音」「波の音」「ホワイトノイズ」などの自然音がデフォルトで入っているので、まわりに自然がなく、情報量が多い環境下でも、アクティブノイズキャンセリング機能と併用すれば、自分で落ち着く環境をつくることもできる。
ショートカット機能を使用すれば、即座にノイズキャンセリング機能とサウンドスケープの組み合わせを立ち上げることができるので、都内の移動中はあまり音楽を聴けないですけど、ショートカットにノイズキャンセリングと波の音を設定して、自然の音を聴くことで落ち着いた環境をつくるようにしています。
また、家ではギターで楽曲制作をするので、制作に行き詰まったときにタイマーを設定して環境音を聴いたりもしています。一区切りつけることでリラックスできますし、耳を休めることで、また集中した状態で制作に臨むことができるんです。
今後も全国をツアーでまわる予定なので、このショートカット機能を上手に使用して、自分なりの便利で気持ちのいい組み合わせを見つけていきたいと思っています。
音質面に関しても率直な感想をいただけますでしょうか?
楽曲制作をするときはいつもイヤホンで自分の音源を確認しているのですが、今後の楽曲制作では、このATH-SQ1TW2NCを使用させていただくことになると思っています。と言うのも、最近は音のバランスにそれぞれ特性のあるイヤホンが多いと感じていて、録音した音源をニュートラルに聴けるものをずっと探していたんです。ATH-SQ1TW2NCはいい意味でフラット。そこも気に入っているポイントです。
スピーカーや車のオーディオなどでも音源を聴いてはみるんですけど、やはり一番距離感が近いのがイヤホンなんですよね。楽曲制作の過程では一つひとつの音をクリアにしていくというより、曲全体の印象を聴いて、そこから飛び出て気になる音を消していくようなやり方をしています。ちょっと高音が耳障りだなと思ったときは、その音を削っていく。今後はATH-SQ1TW2NCを基準にしながらそれをやっていくつもりです。
これも先ほどお話しいただいた、「無理にデザインしない」という価値観と繋がってきそうですね。浮さんにとって、音楽を聴くための理想的な状況・環境とは?
みんなで同じものを囲んで聴けたら嬉しいのにな、とは常々思っています。音楽って本来はもっと身近な存在のはず。それぞれの楽しみ方はもちろんあると思いますけど、例えば公園でギターを弾けば、そこにいる色んな人たちの耳にも音が届く。
それは必ずしも、その人たちの会話や足を止めることにはならないと思うんですけど、ふとした瞬間に歌詞が届いて、その人の心に言葉が残ったりしたらいいな、と。音楽が人々の景色になれるような関係性が理想的ですよね。
みんな音楽を自由に表現していいはずだし、もっとシンプルに楽しめたらいいですよね。音楽は決して特別な才能をもっている人が独占するためのものではないですし、日々のなかでふと立ち止まり、音に耳を澄ませる時間があることって素敵じゃないですか。都市は情報量が多いから、その時間を自然につくれるツールも必要だと思うんです。例えるなら、鳥が休息するための “止まり木” のような。
私にとっても、どこかに設えられた止まり木に身を預けるようなひとときが必要ですし、もしかしたら自分が歌い続けることで、誰かにとってのそういうひとときを生み出せるかもしれない。私のアーティスト名も浮(=ブイ)なので、泳ぎ疲れた時の目印に、見かけた時には一休みしていってもらえたら嬉しいです。
浮(Buoy)
2018年よりスタートした、米山ミサのソロプロジェクト。弾き語りによって紡ぎ出される日常のポートレートのような楽曲は自然と耳に馴染み、生活のなかに静かに佇む。2020年に1stアルバム『三度見る』を、2022年には2ndアルバム『あかるいくらい』をリリース。2026年5月13日に3rdアルバムとなる『私』をリリース予定。国内でのライブを中心に精力的に活動を続けている。
ATH-SQ1TW2NC
ワイヤレスイヤホン
Photos:Hinano Kimoto
Words & Edit:Jun Kuramoto(WATARIGARASU)