CD登場時、そのくっきりした迫力ある音質に誰もが魅了されたデジタル音源。レコードに比べ小型軽量でもあるCDは急速にレコードを駆逐していきました。
ところが、ほどなくアナログレコードへの回帰が静かに始まっていました。アナログレコードのもつ暖かさ。それは単なるノスタルジアではなく、本来の「音」の持つリアリティであることに気がついた人たちが、死滅寸前のアナログレコードを救いました。

彼らが次に望んだこと。それは、アナログ音源が持つリアリティを残しながら、その音をデジタル化すること。オーディオファンのあくなき追求がアナログレコードの「ハイレゾデジタル変換」という手法を生んだのです。

デジタル化の際に音はどう変わる?

CDやダウロード音楽などのデジタル音源は自然音を数値化したもの。デジタル情報は言わば「数字」。再生時は数字を読み取るので、理論的には劣化がない音を再生できるのです。
ただし、そもそも自然音をデジタル化する際には原理的に間引きが発生します。
例えば1と2の間には切れ目ない連続した変化があるのですが、デジタルでは1か2という情報になります。元々は際限なくなめらかな音の波形が、デジタルでは階段状になっています。
その階段の変化が細ければ細かいほど、間引きが少なくなり、情報量が増えます。元の音に近いということを意味します。

「サンプリングレート」と「量子化ビット数」

デジタル音質とビット

デジタル音源の情報量は、「サンプリングレート」と「量子化ビット数」で表されます。

サンプリングレートは分割の細かさ、量子化ビット数は音の大小の段階の細かさといえます。CD音源のサンプリングレートは44.1kHz、量子化ビット数は16ビットです。これは音を1秒間に44100分の1に分割して、その一つ一つの音の大小は65,536段階に分けられているということです。
この2つの数字を大きくすることによって、よりきめ細かな分割となり、自然音に近づけることができます。

サンプリングレートは、44.1kHz / 48kHz / 88.2kHz / 96kHz / 176.4kHz / 192kHz / 352.8kHz / 384kHz48kHzがあり、ビット数は、16ビット、24ビット、32ビットがあります。
数値が大きくなるに従って、情報量が増え、ファイルサイズも大きくなります。CDを超えるサンプリングレート・量子化ビット数を持つデジタル音源を、「ハイレゾ(High-Resolution Audio)」と言います。ハイレゾ音源の主流は96kHz/24bitや192kHz/24bit。192kHz/24bitの情報量は、CDの実に約6.5倍にもなります。

高周波数帯域の再生能力の違い

サンプリングレートが上がると、より高周波数帯域の音の分解能(音の解像度)がよくなります。
人間の耳に聞こえない高周波の音でも、それを再現した音源だと、より空気感や滑らかさなどのリアリティを感じると言われます。これは、倍音として発生した高周波の音が可聴帯域の音にも聴感上、影響をあたえていることも理由の一つです。

倍音とは、ある音の整数倍の周波数の音のこと。音が発生した時には原理的に必ず付随して起こる物理現象です。例えば、100Hzの音には200Hz、300Hz、400Hzの音も発生しています。元々の音はすべて倍音とともに私たちの耳に届いているのです。
CD音源では22.05kHz以上の超高域の音はカットされるため、高域の倍音成分も失われます。アナログレコード再生では、そうしたカットは行われず、高低の限界付近の音の大きさはなだらかに減衰をしていきます。これがアナログレコードの「自然な暖かさ」を醸し出す一つの要因です。

アナログレコードが持つこの広い帯域をそのまま残そうとするのが、ハイレゾ。例えば、サンプリングレート96kHzだと、高周波数帯域は48kHzまで記録可能。CDの2倍以上の高周波数まで再生できるのです。

ハイレゾ変換の方法

レコードのアナログ音源をパソコンに取り込んでデジタルファイルにします。そのために必要な機材が様々発売されています。
良い機材を使うことの重要性はアナログでもデジタルでも全く同じです。
アナログレコードの音をデジタル化する方法はこのリンク先を参照してください。

アナログレコードをハイレゾ(デジタル)化。手順や必要な機材を解説

あくまで音楽が主体

アナログに近づけるハイレゾ。でも、高レート、高ビットにすればより満足度が高まるとは一概に言えないのが面白いところです。
例えば、数値が高くなるに従って、音は聴感上、滑らかさを増す傾向があります。キレが求められるジャンルの音楽では、最高レート・ビットを選択しないほうが好みの結果を得ることがあります。
音質追求は音楽の感動を味わうための手段。奏でられるのは音ではなく音楽。それを受け止めるのは耳ではなく心。ハイレゾの優位な原理を理解した上で、数値だけに心を奪われないこと。これが音楽を楽しむ秘訣です。

Words:Kikuchiyo KG