レコードやアナログって、流行ってるけど実際どうなの?そんな興味はあれども手が伸びない方々へ。 「円盤好子のアナログジャーニー」では、レコードの魅力をビギナー目線でお伝えしていきます。

第26回のテーマは「なんでわざわざレコード?CDや配信音源との違いは?」です。 スマホが1台あれば音楽を楽しむのには事欠かない現代において、わざわざ手間のかかるレコードで音楽を聴くのはなぜなのか?流行だけではない、音楽としてのレコードの魅力をご紹介します。

円盤好子とさぶろう先生のプロフィール

こんにちは、円盤好子です。 最近は映画を観るにしても、音楽を聴くにしてもサブスクをフル活用しています。 気になる作品だけをチェックしたいとき、好きなタイミングでいつでも観て聴けるサブスクはいつの間にか生活に欠かせない存在になりました。

そんな時代に、なんでわざわざレコードで音楽を聴くのか。 CDやSpotifyやApple Musicなどといった配信音源との違いも踏まえて、さぶろう先生にお話を聞いてみました!

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さぶろう先生:円盤さん、こんにちは。 ところで、今はサブスクが全盛ですよね。 そして、円盤さんは世代的にもCDやMDといったデジタルな円盤を聴いて育った世代かと思いますが、やはり、アナログレコードの円盤は、そことも違う魅力がたくさんありますね。

円盤:そうなんです、色々ありますが、やっぱりなんといっても再生したときに感じる音の暖かみが私は好きですね。 あとはジャケットのサイズ感!

さぶろう先生:私は、生まれた頃にちょうどCDが登場したあたりで、物心ついたときには、CDやそれを録音したカセットなどで音楽を聴いてきたので、既にレコードは下火になった後でした。
はじめてレコードに触れたのは、父親が持っていた古いジャズのレコードです。 手に取った時に、ジャケットに印刷された大きなアートワークが目に飛び込んできて、その印象は今でも強く記憶に残っています。 中のライナーノートには英語でぎっしりと文字が書かれていて、このレコードにはどんな音や音楽が入っているのだろう? と期待が膨らみました。

レコードとカセットテープとCDのイメージ

レコードで音楽を聴くのは、素敵なお店に入って料理やお酒を楽しむのに似ている気がします。 お店で食べると、そのお店のインテリアとかスタッフの方たちが生み出す雰囲気、そして、どのような器で提供されるのか、そういったことも込みで料理を楽しみますよね。 レコードもそのように、お皿の中の料理、つまり音楽そのものだけでなく、それが盛られている器、この場合、ジャケットのアートワークやレーベル部分のデザイン、カラーレコードではその色味、ピクチャーレコードでは盤面までにもデザインが及びますが、それらに加えて、情報量の多いライナーノーツなど、音楽以外の要素もひっくるめて楽しむという要素が融合して、音楽を聴く時間、つまりは「音楽と向き合う特別な時間」を提供し得るのだと思います。 勿論CDもジャケットやライナーノーツがありますが、レコードの場合は圧倒的に大きいので、そこから受けるインパクトや物としての存在感は桁違いです。

円盤:円盤と言ってもたくさんありますが、なかでもアナログレコードは特別なんですね。 それから、これこそが、サブスクでは得ることができない部分ですね!

さぶろう先生:そうなんです。 当たり前ですが、この ”物としての存在感” やそれに伴う音楽との向き合い方が、配信音源、そして、CDとの最大の違いですよね。

もうひとつは、音に関することでしょう。 よくアナログレコードは温かみがあって聴き心地が良い、と言われます。 これは、レコード自体に記録された音や、その再生の仕方にもよるので必ずしもそうではないのですが、一般的には概ねそのような音傾向が得られると思います。 これには、音色としての質感の良さ、耳触りのよさ、ということもありますが、私はこういった人々に好まれる大事な要素は、音の「曖昧さ」が大きいのではないかと思っています。

レコードに記録された音やそれを再生した音は、音響特性的に分析すると、音の大小の表現幅がデジタルに比べて狭く、低い音から高い音の高低幅も狭くなる傾向があります。 また、ステレオの場合は、左と右の音もデジタルほどはっきりと分かれていません。 こういった様々な曖昧な要素が、耳への聴き易さを形成すると同時に、これがもっとも大事だと思うのですが、「聴き手の想像力を掻き立てる」のだと思うんです。
写真などもそうですが、画角の中に敢えて全てを写さないことによって、実際の空間よりも広がりを感じたり、その先にあるものを想像したりしますよね。 また、切れ味の良い精細なフォーカスもいいですが、ときに、幾分曖昧な輪郭表現がとても心地よかったりします。 それと同じで、現実で音を聴くようなリアリティよりも、そこから敢えて制限された範囲の音を聴くことによって、より音楽への想像力が掻き立てられるのでは、と思います。

円盤:逆に曖昧だからこその魅力、そういった視点もあるんですね。 確かにレトロな音に魅力を感じる時もありますよね。

さぶろう先生:これはオーディオ全体に感じることでもあります。 私は仕事柄、最新のものからヴィンテージモノまで、そして手頃なものから超絶に高価なものまで多くのオーディオ装置に触れますが、現実と錯覚するほどのリアルな再現を楽しませる現代的な音にも痺れますが、それとは真逆の、大きなノイズととも音楽が記録された、実にナローな音響による古いレコードの再生から、ゾクゾクするような感動的な音楽体験をすることもたくさんあります。

円盤:そういえば、オーディオテクニカにある蓄音機のコレクションも味わい深い音がしていた気がします。 音を聴くときの想像力やその音から刺激される想像力が大事、という考え方ですね。

オーディオテクニカにある蓄音機のコレクション

さぶろう先生:はい、そのような「聴き方」という意味でも、レコードの音は特別だと思います。 音楽の中身を、いかにして聴き手に伝えてくれるのか、という部分ですね。 ちょっと例えは違うかもしれませんが、たとえば彫刻などの造形作品でも、機械によっていくらでも正確な再現や表現が可能ですが、人間の目や手を通すことで実現する微細な歪(いびつ)さこそが、逆にリアリティや感動に繋がったりすると思うんです。 そのように、不完全だからこそ、逆に伝わるものもあるのではないでしょうか。

加えて、これは他の記事でも多数出てきますが、聴き手のアレンジ次第で、いかようにも音を変えて遊べるところもレコードならではですよね。

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私はCDをよく聴いていましたが、サブスクが出てきたときは驚いたのを覚えています。 ストーリーを組み立て、曲順やジャケットを決め…と、アーティストが心を込めて作るCDを買わず、好きな曲だけを聴ける配信音源を使用することに最初は抵抗がありましたが、今となっては毎日利用しています。
ただ、同じ「音楽を聴く」という行動も、音楽が耳に届くまでのひとつひとつの動作が何重にもあるレコ―ドは、より体で感じる音の数が多いように私は思います。 再生するために使う機器やパーツも多いですよね。 そのひとつひとつが紡ぐ音はより温かさを感じます。

あと、個人的にはレコードのジャケットが好きです。 部屋に置いているとインテリアになって雰囲気が出るし、気分で飾るレコードを変えるのもまた楽しみのひとつになります。 皆さんもぜひレコードの音を体感してみてください。

では!

Supervision:Saburo Ubukata
Words:SUKIKO.E
Illustrator:Tatsuya Hirayama
Direction:May Mochizuki