第1回:新井音響/新井健太(サウンドエンジニア)

新機軸のボーカルマイク「ATS99」の実力と魅力を、第一線で活躍するライブエンジニア達が紐解く連載企画。

「ATS99」は2022年11月に発売されたプロ仕様のダイナミックハンドヘルドマイク。 「ボーカリスト本人が歌いやすく、表現の幅を広げるマイクロホン」というコンセプトのもと、細部に至る設計までこだわり抜き、ライブや配信、自宅でのレコーディングなどさまざまな収音シーンにおいて、従来機とは一線を画す使い心地やサウンドを実現した1本となっている。 本連載では、第一線で活躍するライブエンジニアの声を通し、ライブステージの場における同機の実力と魅力に迫っていく。

第1回に登場するのは「新井音響」こと新井健太氏。 東放学園⾳響専⾨学校を卒業後、 渋⾕・下北沢を拠点とするライブハウス「LUSH」「HOME」にてチーフエンジニアとして従事し、2017年に独立。 その後はTENDREやSIRUP、showmore、KingGnuらを担当し、ステージパフォーマンスの⾼みを追求し続ける気鋭のライブエンジニアだ。 試作機の段階からATS99を使用し、現在は同機のヘビーユーザーである新井氏に、そのポテンシャルや魅力について語ってもらった。

「ATS99」のどこに惹かれたのか

新井さんがATS99を使うことになったきっかけを教えてください。

5年位前、ちょうど新しいボーカルマイクを探していた頃に、オーディオテクニカさんにATS99の試作機を貸していただいたのが最初の出会いですね。 僕の他にも何名か試作機を使用していたエンジニアさんがいて、みんなそれぞれ、実際に使った感想やアーティストからの意見を(オーディオテクニカに)フィードバックしていったんです。 それを受けて試作機が何度もアップデートされ、その度に音質も使い勝手もどんどん良くなっていって。 初期の段階からとても気に入っていましたが、今や僕の現場では欠かすことのできないマイクになりました。

ATS99
ATS99
低域から高域までしっかり聴かせる周波数応答を持つATS99は、 ボーカリスト本人が歌いやすく、表現の幅を広げるマイクロホン。 さまざまなボーカリストの声や意見をもとに、細部に至る設計までこだわり、歌うときの心地良さや握りやすいグリップ感など、より自由に表現できることを追求している。

ATS99のデザインや外観ではどんなところが気に入っていますか?

まず挙げられるのは、グリップの良さですね。 ボディがマットで、手で持っていてもツルツルしない。 かといって、くっつき過ぎずちょうどいい質感で、とても扱いやすいんです。

また、これは試作機を使用している時に僕から(握り心地について)意見をお伝えしていたところ、ボディのエンドからヘッドケースに向かうところのカーブの具合も、すごく良くて。 マイクを持つ手がヘッドケースを覆い過ぎてしまうとボーカルの音質が変わってしまいがちですが、ATS99はここのカーブで手がほどよく引っかかってくれる。 これは、アーティストにとっても僕らにとっても、すごくありがたいですね。

あとはやっぱり、軽さですね。 長時間に渡りマイクを持っていても疲れにくいというのは、ステージでパフォーマンスを行う上で大きなメリットになります。

新井健太氏

音質についてはいかがでしょうか?

一番魅力を感じるのは、レンジの広さですね。 僕が担当しているアーティストは、R&B寄りだったり、曲のスタイルが多彩だったりして、楽曲におけるボーカルの音域が広いですけど、ATS99は低いところから高いところまで、本人が歌ってる通りに忠実に音を出してくれる。 その「再生力」の高さは、ボーカリストにとって強力な武器になります。

それに、音の質感がいいですね。 ハイは抜けが良くて、ローはたまり過ぎない。 音がきめ細やかだから、リバーブなどエフェクトがとても綺麗に乗っかります。

新井健太氏

ライブステージにおける実力とは

新井さんはKing GnuやSIRUP、TENDREを始め、様々なアーティストのライブエンジニアを務められています。 ATS99のライブの場における使用感はいかがでしょうか?

レンジが広くて、コンデンサーマイク寄りの繊細な収音ができますが、ドラムなどボーカル以外の音を拾い過ぎないという印象がありますね。 ボーカルを前に出したくてフェーダーを上げた時に、他の音も一緒に上がらないので、現場的に非常に扱いやすいです。

あと、ATS99はPA側で処理しなくても綺麗に音が出るという安心感があります。 ライブの現場は時間との勝負なので、一手間省けるのは本当に助かりますね。

新井さんが考える、ライブの場におけるよいボーカルとはどのようなサウンドでしょうか?

「しっかりと音量が出ていても、耳が痛くない音」ですね。 ミッド(中域)が、変に出過ぎていると、鼓膜にくるというか、きつく感じるところがあって、ATS99の前にメインで使っていたマイクではその辺りの音質に不満がありました。 ATS99は、ミッドのきついところをほどよく軽減しつつ、ローからハイまでしっかり出してくれるところが気に入っています。

ATS99

ライブでATS99を使用したボーカリストからの評判やフィードバックを聞いたことがあれば教えてください。

僕が担当しているアーティストは、ステージでイヤーモニターを使用することが頻繁ですけど、(イヤーモニターから)返ってくる音の「耳ざわりがいい」という感想をよく聞きます。 また、フェイクを入れてボーカルを上下させたり、バラードで低い声で歌ったりする時に、ローからハイまできれいに返してくれるからピッチを取りやすい、とも言ってますね。

ボーカルやコーラス以外でATS99を使用することはありますか?

基本的にボーカルで使用してますが、ギターの収音にも使えそうだと思っていて、今後、試していきたいですね。 あと、ヒューマンビートボックスとか、ボイスパフォーマンスをやっている人にも向いていると思います。 バスドラムからハイハットにあたるところの音までしっかり出るし、スネアのところの音も痛くならないので。

新井健太氏

配信ライブでも存在感のあるボーカルを届けられる

ATS99はダイナミックマイクでありながらも繊細な収音を実現し、ライブのみならず、配信や自宅でのレコーディングでも活用できるように設計されています。 新井さんはライブ以外のシーンでATS99を使用されたことはありますか?

コロナ禍になった後に配信ライブが増えてきて、その時もATS99の試作機を使っていたんですけど、そこでの使用感やサウンドもすごく良かったですね。

配信ライブって、AirPodsなどのイヤホンで聴かれる方も結構多いじゃないですか。 先ほど、イヤモニの返しの音について「耳ざわりがいい」というお話をしましたが、それはリスナーの方がイヤホンで聴く時にも同じことが言えて。 ATS99を使ったことで、配信ライブでも聴き心地のいいボーカルを届けることができたと思っています。

あと、少し細かい話になってしまいますが、配信の映像に乗ると、現場で作っている音からハイがいなくなるというか、削られてしまいます。 だけど、ATS99はハイの抜けもよく、他のマイクに比べてボーカルの存在感がそのまま維持できている感じがあって、すごく重宝しましたね。

ATS99の購入を検討している方にアドバイスをお願いします

今使っているマイクとは違う音質を求めていたり、配信や自宅レコーディングなど新しいことにチャレンジしようとしたりしている場合、ぜひ試してみてもらいたいマイクです。 その際には、今使っているマイクを販売店に持っていって聞き比べてみることをお勧めします。 そうすると、このマイクのストロングポイントが良くわかると思いますので!!

ATS99

ハイパーカーディオイドダイナミックマイクロホン

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Words: Takahiro Fujikawa
Photos: Wataru Kitamura
Cooperation: Solid State Logic Japan