第2回:浅井義行 ライブPAエンジニア

新機軸のボーカルマイク「ATS99」の実力と魅力を、第一線で活躍するライブエンジニア達が紐解く連載企画。

「ATS99」は2022年11月に発売されたプロ仕様のダイナミックハンドヘルドマイク。 「ボーカリスト本人が歌いやすく、表現の幅を広げるマイクロホン」というコンセプトのもと、細部に至る設計までこだわり抜き、ライブや配信、自宅でのレコーディングなどさまざまな収音シーンにおいて、従来機とは一線を画す使い心地やサウンドを実現した1本となっている。 本連載では、第一線で活躍するライブエンジニアの声を通し、ライブステージの場における同機の実力と魅力に迫っていく。

第2回に登場するのは浅井義行氏。 1996年に大阪スクールオブミュージック専門学校を卒業後、株式会社ムーヴに所属し、主にレミオロメンのライブPAエンジニアとして従事。 現在は株式会社スターテックに所属し、米津玄師、milet、Superflyらを担当している。 ベテランのライブPAエンジニアである浅井氏は、ATS99にどのような魅力、ポテンシャルを見出したのか?その出会いから使用感について語ってもらった。

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第1回:新井音響/新井健太(サウンドエンジニア)

「ATS99」に出会い、感じたこと

浅井さんがATS99を使うことになったきっかけを教えてください。

「新井音響」こと新井くんや(株式会社)マイルストーンの栗原(利典)くんがATS99の試作機を使っているという話は聞いていて、機会があればぜひ使ってみたいなと思っていたんです。 そんな時、栗原くんの代わりに入った現場でボーカルがちょうどATS99を使っていて、その時に初めて実際に使わせてもらいました。 とはいえ、代役で入った現場ということもあり、いじり倒すことはできなかったんですけど(笑)。

そこから実際に使い出すまでには少し時間が空いたんでしょうか?

そうですね。 初めて使ったのはコロナ禍前だったので。 コロナ禍以降の方が使っている回数は多いと思います。

実際に使い始めてみての感触はいかがでしたか?

すごく良かったです。 頑張っていい音を作ろうとしてなくても、すんなりと理想に近い音を出すことが出来たので、これは楽だし、いいなと。

ATS99
ATS99
低域から高域までしっかり聴かせる周波数応答を持つATS99は、 ボーカリスト本人が歌いやすく、表現の幅を広げるマイクロホン。 さまざまなボーカリストの声や意見をもとに、細部に至る設計までこだわり、歌うときの心地良さや握りやすいグリップ感など、より自由に表現できることを追求している。

ATS99のデザインや外観などの面については、どのようなことを感じましたか?

最近のダイナミックマイクは少し重ためのものが多かった印象なのですが、ATS99は結構軽い方だと思うので、女性にも優しいマイクなのかなと感じました。 女性アーティストの方に「マイクが重たい」と現場で言われることがたまにあるんですよ。

なるほど。 長丁場のライブでは、マイクの重量はかなり重要かもしれないですね。

そうですね。 ワイヤレスマイクは別として、ステージ上を有線マイクで動き回るアーティストがいらっしゃる中で、「少しマイクが重たい」という話がたまに出てくることがあるんですが、ATS99は軽いし、グリップも良く握りやすい。 女性が握っている姿を見ても違和感はありません。 音質もそうですが、見た目もすごくナチュラルな感じがします。

音質についてはいかがでしょうか?

「コンデンサーマイクに近い音だな」と感じました。 ローもハイも結構伸びがあります。 一般的なダイナミックマイクだと苦労するようなポイントを、特に何もすることなく出すことができるのですごくありがたい。 ハイが伸びるのは、扱いやすくて本当に助かるんですよ。 その伸び方も、ギラギラせずスッと伸びていて、いい感じなんです。

また、普通のダイナミックマイクだと中域の音が多く感じることがよくあるので、そこそこの大音量を出そうと思うとその中域が少し邪魔になってしまうこともあるんですよね。 でもATS99はそのストレスがなく音を出せますし、中域が足りないかと言われたらそうでもない。 そのバランス感がとても優れていると感じます。

ATS99

ライブの現場でとにかく「楽」な1本

浅井さんはさまざまなアーティストのライブでライブPAエンジニアを務められています。 ATS99のライブの場における使用感について教えてください。

ATS99の側面の音を拾いにくい特性やハウリング・マージンの高さを感じた現場がありました。 今はステージでイヤーモニターを使用するアーティストが多いのですが、以前、イヤーモニターをせず、バンドメンバーみんながモニタースピーカーでモニターをしてライブをするという現場があって。 その時に「これはATS99を試すいい機会だ」と思い、ボーカルに使わせてもらったんです。 そのライブが、通常のバンド編成に加えてブラスバンドやコーラスがいたりと、そこそこの大編成で。 生音もたくさん鳴っているし大丈夫かな?と心配したのですが、マージンを取る作業をそこまでしなくても、しっかりとボーカルにフォーカスして音を出すことが出来たんです。 そういう意味でもすごく楽なマイクだなと感じました。

ATS99の「楽さ」については最初にもお話しされていましたね。

そうですね。 「余計な帯域を切る」という作業をしなくてもいいですから。 現場ではミッドやローミッドが強いから切るという作業が発生しがちなんですけど、ATS99関しては、ハイパスだけ少し入れたらそのままでもいいくらいです。

浅井義行氏

前回で新井さんもお話しされていましたが、時間が限られている現場において、その「楽さ」は大きなメリットになりそうですね。 ところで、浅井さんの考えるライブの場における良いボーカルとはどのようなサウンドでしょうか?

ライブは、お客さんがCDを聴いたり、さまざまな場所で原曲を聴いたりしてから来られることが多いので、まずは原曲に近い音質を出すというのを意識しています。 しかも、それを大音量で出すので、ハイがギラついているボーカルだとずっと聴いてられないでしょうし、よりナチュラルに聴こえるボーカルを目指していますね。

ライブでATS99を使用したボーカリストからの評判やフィードバックを聞いたことがあれば教えてください。

あるバンドが、私が担当する前からボーカルの音色がなかなか決まらないという悩みを抱えていたんですけど、ちょうど配信ライブをする際に「もしかしたら合うんじゃないか」とATS99を提案したのですが、見事に一発OKで。 そのボーカルの方からは「めちゃくちゃ歌いやすい」という言葉をいただいたのと、バンドメンバーからも「ボーカルがめちゃくちゃ聴きやすくて、すごい、何このマイク」と太鼓判を押されましたね。

ボーカルやコーラス以外でATS99を使用することはありますか?

実は、マルチに使えるマイクなのではないかと思っていて。 以前、オーディオテクニカの方にもご提案したことがあるんですけど、それこそドラム周りのマイクとしても使えるのではないかなと。 ローも結構下の方まで拾えているので可能性を感じているんですよね。 ATS99を元にしたドラム専用のマイクが作れるのではないかと思っていたり……。 とはいえ、これは自分で出来ないので、オーディオテクニカさんに全てお任せすることになりますけど(笑)。

浅井義行氏

ボーカルの音作りに困っている人にはぜひ試してほしい

ATS99はダイナミックマイクでありながらも繊細な収音を実現し、ライブのみならず、配信や自宅でのレコーディングでも活用できるように設計されています。 先ほど配信ライブのお話をされていましたが、生のライブと異なる点や気を遣う点などはあったりしますか?

基本的には同じですね。 生のライブだとスピーカーから出る音が基準になり、実際にその出音で判断もしますが、その際にもヘッドホンで作った内容がスピーカーから出るようにセッティングを調整していますし、配信ライブでもそれは変わりません。 違いがあるとすれば、映像と合わないからディレイをかけるとか、音作りとは関係のないことですかね。

配信ライブだからといって特別なことはされないということですね。

そうですね。 ただ、ハウリングを起こさないようには特に気を遣いますね。 生のライブならちょっと盛り上がってくると「ハウリングしてもいいや、やっちゃえ!」ってなることもあるんですけど、配信の時には自分にリミッターをかける感じですね(笑)。 ともあれ、ATS99は配信でも変わらず力を発揮してくれました。

最後に、新しいマイクの購入を検討している方にアドバイスをお願いします。

コンデンサーマイクを買おうかなと思っている方には、ぜひATS99を一度使ってみて欲しいなと思います。 また、低域がどうしても上手く処理できないとか、ボーカルの音作りの帯域処理に困っている方にも試してもらいたいマイクですね。

ATS99

ハイパーカーディオイドダイナミックマイクロホン

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Words: Takahiro Fujikawa
Photos: Aya Tarumi