フロアが盛り上がれば盛り上がるほど、サステナブルに。そんな2020年代においての理想のクラブが、スコットランドにできるという…!

盛り上がるクラバー生み出す再生可能エネルギー

鍵となるのは、ダンスフロアで踊る人々の「体温」。クラバーたちを熱源としてサステナブルを実現する、そんな熱っぽいプロジェクトが始動する。
舞台は、ユネスコ音楽都市に選出されたこともある英国屈指の音楽都市、スコットランドのグラスゴー。ケルト音楽をはじめ、フォーク、ロックシーンやアンダーグラウンドミュージックまであらゆる音楽がこの地で育ち、海外へと飛びたっていく。

そんなグラスゴーはいま、「環境への取り組み」でも注目が集まる。昨年秋の、世界各国がともに気候変動対策について議論するCOP26の開催地であり、開催期間中には活動家グレタ・トゥーンベリも参加したデモも起きた。そしてこの期間、裏ではもう一つのプロジェクトが動いていた。2,000人キャパのフロアを保有する大箱ナイトクラブ「SWG3」で、クラブとサステナブルを掛け合わせたプロジェクトのローンチパーティーを実施。

プロジェクト名は「BODYHEAT」。フロアで踊る人々の「体温」を熱エネルギーとして蓄え、その熱を冷暖房に使用するというものだ。これまでBillie EilishやThe xx、Haimなどのビッグネームがプレイしてきた同クラブでは、以前からエネルギー効率を高めるためのシステムなどを導入していたが、今回の「人の体温のエネルギー化」*は、レベルが一段違う。

踊れば踊っただけハッピーなプロジェクトについて、発起人で、地熱エネルギー企業TownRock Energyの創立者、David Townsend氏に話を聞く。ちなみに、彼も熱心なグラスゴーのクラバーだ。

*従来から存在するヒートポンプシステム**を使用し、ダンスフロアの熱を集め、地下へと続く掘削孔によって地下へと送りこみ、蓄え、冷暖房システムに利用する。
**空気中に存在する熱を集め、より大きな熱エネルギーとして利用する技術

クラブにこもる熱を冷暖房システムに使おうというBODYHEAT。画期的なアイデアはどこから生まれたの?

自分が情熱を注いでいる二つのものから生まれたんだ。一つは、「クラブで踊ること」。そしてもう一つは「再生可能エネルギー」。

街の中のSWG3

再生可能エネルギーは、今回でいうと「熱」ですね。

めちゃくちゃ暑いクラブでこのアイデアが浮かんだんだ。フロアにいるクラバーが踊れば熱を生みだし、フロアに大量の熱が発生する。そこで浮上するのが「クラブがとても暑くて不快になること」。そして「その熱が大気中に放出されてしまうこと」。

僕は、地熱エネルギーの会社を経営していることから、ずっと地熱をどのように利用できるか、どのようにシステムを設計できるかなど、さまざまなことを考えてきた。

すごい循環です、踊る→熱い→(出した熱をエネルギーにして)快適→踊り続ける。体温を蓄えるシステムは、どのような仕組みになっている?

熱を蓄える仕組みは、従来からあるヒートポンプシステムを使用しているんだ。熱源システム、制御システム、センサーなどが組みこまれている。革新的な部分は、日単位、週単位、月単位で冷暖房をおこなうシステムを導入しているところ。

ちなみに、蓄えられた熱はどのくらいの期間使えるのでしょう。

いくらでも! でも、普通は1年以内に使うことになるかな。1年のあいだに、冬は暖房を、夏は冷房を多く利用するからシステムのバランスが取れるんだ。1週間で見てみると、クラブが混む金曜と土曜の夜に冷暖房の使用はピークを迎えて150から190キロワットになるけど、平日はピーク時でも60から80キロワットくらいしか使わない。こんな感じで、1週間である程度バランスが取れて、1年間ではもっとバランスが取れるようになる。

SWG3外観

フロアにいる人が多ければ多いほど、やはり得られる熱エネルギーは大きくなる?

人数だけではなくて、エネルギッシュに踊っているかどうかにもよる。たとえば、一人の人間がソファに座ってポテトチップスを食べながらテレビを見ているとき、100から150ワットの熱を発生させている。でもその人がフロアの群衆の先頭で汗だくになって踊っている場合は、600ワットの熱を発する。つまり、激しく踊っているときには、熱は3倍から4倍変わるんだ。

クラブにいても隅で座ってお酒を飲んでいるだけでは、BODYHEATに貢献できないんですね。フロアにいるお客さんにより踊ってもらうためになにか工夫していることはある?

ただね、オーバーヒートや脱水症状を起こしてしまう危険性があるから、あまり無理はさせたくなくて、まだなにもしていない。今後やってみようかなと思っているのは、壁に大きな温度計のようなものを設置して、どれだけエネルギーを発生させられたか、そしてそのエネルギーで何軒分のエネルギーがまかなえるか表示するというもの。

フロアの盛りあがりが数値で見えるようになるのは、おもしろいアイデア。

あとは、実現可能かはわからないけど、サーモグラフィカメラを設置して、クラバー全員の体温が見えるようにしたりね。1分間で、どのグループがもっとも激しくパーティーをしているかを競ったり。

アイデアは尽きないですね。このシステムを導入すると、エネルギー削減効果がどのくらい出るものなんでしょう?

クラブ全体のCO2排出量が、およそ70パーセント削減できる計算。完成したら、大きな変化になるよ。

すごい。個人的に気になったんですが、これまでのクラブ経験を通して、この曲は熱をたくさん集められそう!と思う曲はあったりする?(笑)

COP26期間中に開催したローンチイベントでプレイしてくれたDJのHoney Dijonが最後のほうでプレイした曲。どれだったかは忘れちゃったけど、最高に盛りあがっていた。ジャンルでいうと、ドラムンベースかな。Sub Focusとか、Dimensionあたりは大きな熱量を生みだしそう。ダブステップではSkrillexかな。僕の父だったら、Led ZeppelinやGrateful Deadを踊っているときの方がもっと熱量を生みだすとか言いだしそうだけど(笑)

クラブ営業中のSWG3店内

(笑)。どんな音楽で踊れるかは、人それぞれだね。

ローンチイベントでは参加者が「BODYHEATはダンスの力を利用していて素晴らしい」と言ってくれたよ。ほとんどがポジティブな意見だった。

ネガティブな意見もあった?

唯一あったのは、人々からエネルギーを採取している点から「これはマトリックスのようだ」というもの(笑)。ネガティブというか、面白い意見だね。マトリックスでの人々のエネルギーの使われ方よりは、BODYHEATで使われる方がずっと楽しいと思うけど。

クラブって、マナーや騒音問題などちょっとバッドなイメージもあるけど、このプロジェクトによって、イメージがひとつ良い方向にも変わりそうですね。

そうなって欲しい! 70年代、80年代とクラブが世界中で飛躍的に成長してから、そのまわりにはいつも否定的な意見がある。でも本来クラブは、コミュニティのハブ。人々が出会い、ネットワークを作り、互いに学びあい、大きな体験の一部となる場所だと思うんだ。クラブに行く人はみんなそれを理解しているけど、歳を重ねてクラブに行かなくなった人たちは、クラブに対して「人生を無駄にしたり、体を壊したりしている人たちの集まり」だと思うようになる。

確かにそういう意見もある。

クラブやクラバーがサステナビリティに積極的に取りくむことで、「この人たち(クラバー)はただパーティーをしているだけではなくて、この地球の未来を本当に心配している人たちなんだ」ということを知ってもらうことができるかもしれない。そうすれば、ナイトクラブ関係者やクラバーのイメージが、よりポジティブなものになると思う。

クラブ営業中のSWG3店内

最近では、使い捨てプラスチックを排除したクラブナイトを提供する取り組みや、クラブのフロアにパネルを設置し、パネルの上で人が踊った運動エネルギーを電力に変換するプロダクトなど、クラブカルチャーのなかでサステナブルな動きが見られるようになってきました。クラバーとサステナビリティって相性がいい感じですね。

クラブに来るお客さんの層が関係していると思うよ。一般的にクラブに行くのは若い人たちで、20代から30代前半。若い世代は、これまでの世代よりもずっと環境に対する意識が高いから。

今後、クラブをもっと環境に配慮したサステナブルな場所にするためのアイデアがたくさん出てきそう。

そう思う。「SWG3」では、BODYHEATで蓄えた熱を冷暖房システム以外にも活用しようと考えているんだ。例えば、トイレの手洗い場のお湯とかね。
もしロックダウンがされずにみんながクラブに通いつづけることができたら、2022年の夏くらいには、BODYHEATが多くのクラバーを呼びこんでいると思うよ。

Photo: Michael Hunter
Words: Ayumi Sugiura(HEAPS)