世の中には、さまざまな生活スタイルがある。住居に関していうと、一戸建てやアパートメントに住む人たちはもちろんのこと、ツリーハウスに住んでいる人、港に船舶している船や、飛ぶことがなくなった飛行機に住んでいる人もいる。中でも車(特にバン)を改造し、リビングやベッドなどの部屋を作って車で寝泊まりする生活をしている人たちがいる。旅人や、ヒッピーライクな人たちが好む生活スタイル(バンライフ)としても知られているが、近年はエコやサステナブルな生活スタイルとしても注目を浴びている。

そんなバンライフを独自の解釈で楽しんでいるのが、アパレルコンサルタントとして活躍をしているクリストファー・オステアー(以下、クリス)さんだ。

まずは彼のバンを見てほしい。

Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
2006年ものの「NISSAN VANETTE(日産バネット)」
クリスさんが選んだバンは、2006年ものの「NISSAN VANETTE(日産バネット)」

「2020年の初めにオーストラリアへ1カ月有給をとって行ったときに、レストランで働いて、サーフィンをしながらバンで暮らしている親友と1カ月間一緒に過ごしたんです。僕はそれまでバン・ライフという言葉があることも知らなかったんですけど、それがすごく楽しかった。それで日本に帰って調べたら、いろいろな人が思い思いにバンを改造して楽しんでいることを知って自分でもやってみることにしたんです」(クリス)。

ここでクリスさんが作ろうと考えた空間は他とは大きく違っていた。

「キャンピングカーやカスタム・バンなどでよく見かける内装は機能性、居心地などに長けているものが多い。しかし今回Shuttle Hotelを構想する中で居心地が良いこと=機能性を重視することでもないと定義しました。見たことのない空間を作ることで、行動、出会い、繋がりの範囲が広がることを願ったんです。ハイエンドなアパレル店舗デザインやモダンな個人宅を手がけるようなデザイナーが店舗デザインや新築をデザインするかのように車の中をキャンバスとして、新しい「移動する居住空間」に仕上げたら面白そうと思い始めました。
そこで建築家であり友人の西永竜也さんと空想を広げ始めたんです。メンバーには前職でお世話になっていた施工業者の株式会社SETUPさんを加え現実的なプロジェクトになり始めた。僕にとってこの試みは今後の住み方や旅の概念を変えることができるきっかけになると思ったんです。それこそ人が住む家を建てるプロたちが作る「移」住空間は面白いはず!って。」(クリス)

クリスさんがイメージしたのは、移動式のホテル、通称「Shuttle hotel」。個人の部屋というよりは、いつでも客人を迎えることができるホテルのような空間があれば良いなと思ったそうだ。

「僕はバンで生活すると言うよりも、別荘、別宅、基地を持って人生を楽しむという捉え方をしています。第二次世界大戦後復興期以降、しばらくの間、家を失った者に対して政府が廃車を住宅として提供するという政策がとられていたらしく、これらで生活をしていた人々のことを車上生活者と呼んでいた。今では車中泊というかなりリラックスした概念に切り替わったものの、日本では法律や潜在的な意識にはしっかり残っていると思う。このようなルーツを持つ車中泊という言葉の原点を踏まえた上で、このカルチャーの底上げになるような一手になる事が出来たら何よりだなと。具体的には、車中泊自体の認知をあげること、そのインフラを整えること、地方都市群を点と点でつなぐような活動や、観光インフラとしての提案など。「移」住空間を作ることは、その先にある新しい何かと出会うこと。そこから全く新しい概念の提案にも繋がるのかなと思っています。」(クリス)。

「オフィスでは効率良く仕事を、車では快適な移動を、ホテルでは日常離れした体験を、 そんな既成概念を超える多様性が、これからより一層求められると感じています。 用途を限定し過ぎない事が、利用する人によって様々な居場所へと変化していく。 その最低限必要な要素だけ、丁寧に組み上げました。」 (西永 竜也)

「クリスくんがやろうとしていることは、他とは違くてパーツがシンプルで面白いんです。僕たちが施工したのは、下地として床と壁に木を貼って、壁の表面にはステンレスを貼ること。それと運転席の後ろに敷居を作ったんですけど、この部分は難しかったですね。スピーカーボックスがあって、何回やっても頭がぶつかってしまうので、調整をするために何度も座ってもらったし、寸法留めが一番大変でした。でないと近所にしかいけなくなってしまうし、やっぱり長距離行ってもらいたいですから。それと車っていびつじゃないですか。洞窟に建物を建てるみたいな感覚に近いので、その空間をどう作るかは考えました」(豊岡博志)。

左から デザイナー西永 竜也さん、Setup代表 豊岡博志さん、クリスさん、Setup三浦泰史さん、Setup稲岡弘明さん
左から デザイナー西永 竜也さん、Setup代表 豊岡博志さん、クリスさん、Setup三浦泰史さん、Setup稲岡弘明さん
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel
Shuttle Hotel

ベッドにもなるベンチ、キッチンとして使用できるシンク、アーバンで洗練された空間は、まるでプチラグジュアリーホテルのように仕上がった。

©️Will Goodan
©️Will Goodan

ただ、クリスさんの構想は、それだけではなかった。

「好きな空間で好きな音楽を楽しみたい!」

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西永竜也

1988年4月2日 広島市生まれ
2011年3月 広島大学工学部卒業
2011年4月-2021年7月 SUPPOSE DESIGN OFFICE 勤務
2021年9月 TEKI DESIGN 設立

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株式会社セットアップ

東京都江東区南砂1-9-21
TEL 03-6666-8388

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Cover Photo: ©️Will Goodan
Words: Kana Yoshioka