今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

高橋アフィが考える「アナログ・レコードの魅力」

アナログレコードにはじめて触れた時、レコード本体からも小さな音が鳴っているのに感動しました。 「レコードと針が触れ合っている音があって、それが増幅されたものを聞いているんだ」という、「モノ」そのものを聴いている感覚が最大の魅力だと思います。 そう思って聴くと、ボロボロになってしまってノイズが増えてしまったレコードも楽しいです。 レコードという「モノ」が辿ってきた歴史に触れているような気持ちになっています。

BADBADNOTGOOD「Talk To Memory」

BADBADNOTGOOD「Talk To Memory」

デビュー当時からずっと追い続けているバンドの2021年作。 デビュー時はネット発のバンドというイメージで、演奏も録音もDIY感たっぷり、BandcampやYouTubeで聴くデジタルデータが一番しっくりくるような音像でした。 そこから時を経て、本作のクレジットを見ると、なんとミックスはディアンジェロ(D’Angelo)『Voodoo』や RHファクター(The RH Factor)の作品に携わったエンジニア、ラッセル・エレヴァード(Russell Elevado)が担当!CDや配信でも音は良いんですが、アナログへの強いこだわりがある彼だからこそ実現したであろう、レコードで聴く素晴らしさに溢れた音になっています。 迫力と滑らかさが共にある音像で、聴くたびに音が良過ぎてびっくりします。 音の嫌味のなくもちょっと歪んだ感じが、アナログだとより魅惑的に鳴るんですよね。

そして本作は2枚組で45回転仕様!これでもかとアナログの魅力とこだわりが全開です。 アナログでしか聞けない曲が収録されているのも嬉しい!

田代ユリ「エレクトーンの魅力」

田代ユリ「エレクトーンの魅力」

「クレジットで手に取る」というと、音楽知識が必要な場合もありますが、逆に全くわからないから手にとってみるのもおすすめです。 これは演奏の「田代ユリ」もリリースの「ティエム工業」もわからないからこそ買った1枚。 しかし再生してみると内容が本当に素晴らしく、イージーリスニングを通り越してアンビエントまで到達したような、メロウでチルアウトなカバーアルバムでした。 エレクトーンと言ってもリズムは無く、オルガンの独奏に近いというとイメージしやすいかもしれません。 柔らかな音色で名曲の数々を演奏しており、小洒落た和音の使い方が心地良いです。

このアルバムを聞いた後、とりあえず「田代ユリ」「ティエム工業」と書かれたレコードは出来る限り手に入れるようにしています。 その後入手した田代ユリのエレクトーン+東京キューバンボーイズのパーカッションがリズムを担当している「魅惑のエレクトーン Vol. 5 – リズムのすべて 2 ラテンリズム」も良かったです。

Herbie Hancock「Future Shock」

Herbie Hancock「Future Shock」

僕が音楽に深く熱中し始めた高校3年生のとき、周りでビル・ラズウェル(Bill Laswell)が大ブームになりました。 そのタイミングで何か新作が出たわけでは無かったんですが、ジョン・ゾーン(John Zorn)とのユニットのペイン・キラー(Pain Killer)だったり、ドラムン×タブラのタブラ・ビート・サイエンス(Tabla Beat Science)だったり、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のRemix版でのアンビエントだったり、ダブ色の強いセッション作だったり、とにかくビル・ラズウェル関連作をみんなで集めていこう、と頑張っていました。 今思うと、どの作品にも「新しい音楽」の輝きがあったんですよね。

そのビル・ラズウェルの出世作といえば本作でしょう。 今改めてクレジットを見たら、ベースはもちろん、マテリアル(Material)として、しかもハービー・ハンコック(Herbie Hancock)より前に書かれる形で(Produced By Material and Herbie Hancock)プロデュースで関わっているんですね。 そしてスライ・ダンバー(Sly Dunber)もドラムで参加しています。 音づかいはまさに80年代でもありますが、同時に当時の「最先端」の音だということ、音色の輝きと驚きが今聞いても伝わってくるのが素晴らしいですね。 この尖った感触こそビル・ラズウェルらしさではないでしょうか。

そして、レコードで聴くと80sなエレクトロ音が少しまろやかになっている気も。 これがどこまで意図されたものかはわかりませんが、レコードで聞く電子音の質感というのは、それはそれで結構重要な要素かもしれないなと思っています。

Gary Burton Quartet with Orchestra「A Genuine Tong Funeral」

Gary Burton Quartet with Orchestra「A Genuine Tong Funeral」

裏表紙のクレジットを見たところ、ヴィブラフォン奏者ゲイリー・バートン(Gary Burton)と共に、フリー・ジャズでの活動が多いサックス奏者スティーヴ・レイシー(Steve Lacy)の名前を見つけ、思わず手にとった1枚。 本作はゲイリー・バートン名義でありつつ、作曲/指揮/鍵盤で参加しているカーラー・ブレイ(Carla Bley)の作品性が強いアルバムで、サブタイトルに「Dark Opera Without Word」と名付けられたドラマチックでシリアスな作品でした。

クロスオーバー/フリージャズなどがはっきり分かれる前だった時代の音楽という感じで、ゲイリー・バートンとスティーヴ・レイシーが共に参加していることがしっくりくるアルバムです。 ある意味では混沌としつつある意味では「何か」を目指して進んでいるような演奏が今聞いても刺激的。 現代だと「ジャズとエクスペリメンタルの融合」みたいな文脈にも聞こえ、しっかりとした作曲とパンキッシュなエネルギーのぶつかり合いが良いですね(1968年作なのでパンク以前ですが)。 組曲形式ということもあってレコードプレイヤーでじっくり聞くのがちょうど良く、考え事や作業するときに愛聴してます。

横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校「ともだちがいる」

横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校「ともだちがいる」

レコードの魅力の一つに「配信やCDには無い音源がレコードだと聴ける」というのはあるでしょう。 本作はその極北とも言える超プライベート版。 中学校の合唱コンクールの録音です。 クレジットを見てみると、当時の学生たちの合唱コンクールに向けた思いが書いてあるのもポイント。

流通している作品では触れることが難しいパンチのあるコーラスや、学年が上がるごとに徐々に上手くなっていく様子、また3年生による課題曲のクラスごとの違いなど、色々な聞き方で楽しんでます。 「とあるタイミングでその場所の音が収録され、それを後から聴いている」という感覚が強い音源でもあり、レコードのぼろぼろさ含めて、時代の空気を追体験している気持ちになります。

高橋アフィ

TAMTAM

バンド「TAMTAM」のドラマー。 音楽関係の文筆、DJ、エンジニアとしての活動も行う。 好きな音楽は新譜、趣味はYouTube巡り。

Edit:原 雅明 / Masaaki Hara