DJたちの気候変動へのアクション。バンドではなくとも、個人が広く連携してできること。
気候変動という言葉が普及するずっと前から、世界各国のDJたちが協働してサステナブルを進めるコレクティブがある。

エレクトロニックミュージックシーンの本質とは「現状に疑問を呈する」点だという。メインストリームの音楽から離れ、抑圧された環境下で生きる人に向けてオルタナティブなサウンドをつくってきた。カウンターカルチャーを生みだし、醸成される土壌を作っていたのだと考えれば、いま、エレクトロミュージックシーンが気候や社会的なムーブメントで中心的な役割を果たすことは、その延長線上のことだという。

グローバルなサステナブルDJコレクティブ

2011年。「エコロジー」や「エシカル」「サステナブル」などのワードはいまのように普及しておらず、環境保護に関する意識も社会全体に芽生えていなかった頃。そんな時に、一足もふた足も早く生まれたコレクティブが「DJs for Climate Action(以下、DJs4CA)」だ。ダンスミュージックとDJカルチャーの持つパワーを原動力に、気候危機へのアクションを生み出すことを目的に活動を開始した。

アメリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカなど、大陸を超えた地域を拠点にするDJたちが参加するグローバルな団体。これまでに、気候アクションを呼びかけるイベント「EARTH NIGHT」の開催や、気候危機に瀕している国や地域で録音された自然界の音をDJたちがサンプリングとして使い曲作りをする「CLIMATE SOUNDTRACK」、エレクトロ音楽業界が2030年までに持続可能で環境に配慮した業界へとなることを宣言したレポート「FUTURE VISION」の発表などを行なってきた。

DJs4CAに参加するあるフランスのDJはこう話す。「私たちDJは、アーティストとして持つカルチャー的な影響を通して、よりアクションを呼びかけることができる。環境問題において、イノベーションをもたらすようなコミュニティになれる」。

今回は、個々のDJたちが世界規模で連帯し行なうアクションに注目してみよう。取材に応じてくれたのは、DJとして活動し、現在はDJs4CAでクリエイティブと戦略を担当するLola Villaだ。


DJs4CA結成時の11年前というと、2011年。世間の環境問題に対する意識はそこまで高くなかったと思います。創立の理由や背景は?

すでに、気候危機に対して音楽表現やパフォーマンスを通じてアクションを起こしたいと考えるアーティストたちと知り合う機会がたくさんあったといいます。 しかしながら、そういったアーティストたちの多くは、実際にどうアクションを起こすべきかわからないという悩みを抱えていたんですね。

現在の主要メンバーはミレニアルズが多いと聞きました。

メインチームは、ニューヨーク、パリ、メキシコシティなど、世界中から集まった8人のDJで構成されています。私たちのほとんどはミレニアル世代ですが、ありとあらゆる年代の人々がウェルカムです。参加の条件も特に設けていません。

Lolaさん自身は、現在の拠点はメキシコだと聞きました。DJs4CAに参加したのはいつですか?

2020年の終わりに、CLIMATE SOUNDTRACKに招待された時です。そこで初めて、DJs4CAのことを知りました。その後、世界中のDJが集まってエレクトロ業界の未来を考えるイベントに参加したのですが、これをきっかけに「FUTURE VISION」をつくりました。社会問題および気候危機に対して、私たちエレクトロ音楽業界を2030年までに持続可能で環境に配慮した業界にしていくことを宣言したレポートです。口先だけではなく行動で証明しよう、と宣言したマニフェストになっています。

FUTURE VISIONには、DJs4CAに参加する世界各国のDJたちの声が集結しています。例えば…。

変化を起こしエンパワメントしていくための一番の方法、コミュニティを創出すること。
ーJinku(ケニアのナイロビを拠点にするDJ)

ちょっとずつ進んでいる時間の余裕はないと思います。ネットワークの力を活用して、グッドなアイデアを採用し、速いペースで活動を広めていく必要がある。
ー Bosq(コロンビアを拠点に活動するDJ)

また、
・飛行機による移動を極力減らすこと
・ツアー先での滞在期間を延ばしローカルに根付いた活動をすること
・“グリーン”なイベントを開催するように努めること

など、DJたちができることを提案しています。その他にありますか。

プラスチックフリーへの心掛けや、再生可能エネルギー、ベジタリアンメニューの導入などです。またDJたちには、収入源をツアーではなく、音楽制作そのもので得られるようになってもらいたいと考えています。


過去に開催したEARTH NIGHTの様子。

サステナブルなイベントにするためのツールキットも、提供していますね。「DJ向けガイダンス」には、

・グリーンなオプションに焦点を当てたライダー(ツアーやイベント開催に際しアーティストが挙げる様々なリクエストを記載したリスト)を採用する。
・地元でのギグを増やす。
・気候アクションを呼びかけるイベント「EARTH NIGHT」で得たDJとしての売り上げを、DJs4CAの活動へ寄付する。

とのアドバイスをしている。

昨年のEARTH NIGHTでは、アフリカ系でドイツ在住のDJやフランス拠点の英国人DJ、インドネシア人DJなど多国籍なDJたちがオンライン上で集まり、DJとしてどんな環境アクションができるかパネルディスカッションをしたそうですね。
イベント時だけではなく、世界各地にいるDJs4CAのDJ同士で、どのようにDJとしてアクションができるかを日常的に話し合うプラットフォームや情報共有の場というのはあるのですか?

はい、毎月、DJs4CAのコミュニティが参加するディスカッションの場をDiscord(コミュニケーションツール)を通して設けています。サステナブルを目指すためのイニシアチブについて話し合うんです。

DJだからこそできるアクションとは、なんでしょうか。

エレクトロニックミュージックシーンの本質は「現状」に疑問を呈するところにあります。トップ40やメインストリームの音楽から離れ、抑圧された環境下で生きる人々のために、オルタナティブなサウンドを作る。これによりカウンターカルチャーは生まれ、醸成され、発展していきますよね。その結果、現代においては、DJたち、そしてアーティスト、プロデューサーたちが、気候や社会的なムーブメントで中心的な役割を果たすことになるのだと考えています。

DJたちのみならず、エレクトロニックミュージック業界に携わる誰しもに繋がることですね。

そしてなんといってもクラブはこれらの社会問題を探求するのにパーフェクトな場所だと思いますよ。

創立時の2011年と現在、エレクトロニックミュージック業界が抱える問題にはどういった変化があり、いまDJたちは、どのような意識を持っていますか?

昔に比べて、私たち(DJ、エレクトロニックミュージック業界人)が文化的に変革を起こす役割を持っているということが広く理解されていると感じます。エレクトロニックミュージックは常に社会の状況と呼応してきました。いつも何らかの形でポリティカルであったので、2022年になったいま、環境問題に意識的であることは、考えるまでもないことです。

今後、DJs4CAはどうDJたちの環境意識を変えていき、さらに10年後どんなコレクティブでありたいと願いますか?

理想ですが、可能な限りすべてのイベントで、社会的および気候正義に関する話し合いの場を設けたいと考えています。 10年後、DJs4CAのDJとプロモーターのコミュニティはより結束が強いものとなり、互いに情報を共有することで、常に刺激し合うような関係性になれたらいいなと考えています。

DJs for Climate Action

2011年に創立された、DJたちのコレクティブ。ゴールは、ダンスミュージックとDJカルチャーの持つパワーを原動力に、気候危機へのアクションを生み出すこと。これまでに、環境問題への意識を向上させるためのイベントやキャンペーンを行なってきた他、DJたちに環境アクションを促すようなツールやガイダンス、ディスカッションの場なども提供している。

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All Images via DJs for Climate Action
Words: Jun Kobayashi (HEAPS)