この広い地球には、 旅好きしか知らない、 ならぬ、 音好きしか知らないローカルな場所がある。 そこからは、 その都市や街の有り様と現在地が独特なビートとともに見えてくる。

音好きたちの仕事、 生活、 ライフスタイルに根ざす地元スポットから、 地球のもうひとつのリアルないまと歩き方を探っていこう。 今回は、 スペイン、 マドリードへ。

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スペインはマドリードで活動するChica Gang(チカ・ギャング)は、 Rocío(ロシオ)とAlbal(アルバル)からなるDJデュオ。 マドリードのダンスフロアを新しく熱くしている、 と話題の2人。 それは「マドリードの音楽シーンで、 女性たちが居心地よく楽しめる環境をつくる」という目的のもと、 自分たちらしいパーティーのあり方を模索してきたから。 パーティーの評判だけでなく、 有名テクノ系DJイベントBoiler Roomにも出演をするなど、 DJの腕前も確かだ。

音楽活動をはじめたのも「マドリードの音楽シーンにおけるミソジニー(女性への蔑視・蔑視)に立ち向かいたかったから」と話す。 女性たちが感じるパーティーでの居心地の悪さを吹っ飛ばして、 ジェンダーに関わらずに思い切り楽しめるパーティーシーンをつくろうと2017年からシーンづくりをしてきた。

生まれも育ちもマドリード。 エレクトロニックビートにのせてシーンに変化をもたらし、 地元の音楽シーンで一役買う2人のミュージックライフを探りながら、 マドリードのリアルな歩き方を覗いてみよう。 今回はRocíoが取材に応じてくれた。

左からRocío、 Albal
左からRocío、 Albal。

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こんにちは。 そちらはマドリード?

Rocío:実はね、 半年ほど前に受けたい仕事があって、 いまは別の国にでている状態なんだ。 でも、 生まれも育ちもマドリードで、 マドリード歴25年。 音楽シーンをふくめて、 いろんな変化を見てきたよ。

マドリード歴25年、 頼もしいです。 音楽活動も、 地元マドリードでスタートしていますもんね。

うん、 5年ほど前に音楽活動を開始。 と言っても、 最初はDJのやり方を知らなかったから、 まずは「自分たちのパーティーをつくる」ことからはじめたんだ。

はじめはパーティーのオーガナイザーとしての活動から。

DJは、 パーティーをはじめてから、 やりながら勉強してみたらいいんじゃないかと思って。 DJを習いはじめたら、 今度はまわりのみんなが自分たちをブッキングしてくれるようになって。 それでいまに至るという感じ。

そもそも目的は「ジェンダーに関わらずに楽しめるパーティーをつくる」でしたもんね。

そうそう。 パーティーに行ったりお金を払ってコンサートに行っていたけど、 どこか対等じゃないって感じていて。 「ここは(自分たちにとって)安全な場所」とは、 思えなかったんだよね。

その話、 もう少し詳しく知りたいな。

音楽を聴く場で、 ミソジニー*を持つ男性に出会ったり、 嫌な思いをすることがたくさんあった。 そういう女性に対しての蔑視、 軽視が態度にでていたりね。

特にパーティーとなると、 女性にとって安全な場所だとは思えなかった。 マドリードの音楽シーンには、 女性が安心して遊びに来られるパーティーがちゃんとあるべきだって。

*女性や女性らしさに対してもつ、 嫌悪や蔑視、 軽蔑のこと。 ミソジニーは性別を問わずにもつもので、 意識的・無意識的なものがある。

それで自分たちではじめたい、 と。

うん、 パーティーもそうだけど、 「女性が安心して遊びにこられるパーティーを主催する女性の存在」が必要だと思ったんだ。

確かに。 “誰が主催か”は、 安心感に最も関わる。 かなり最近まで、 マドリードでは女性が心から音楽を楽しめる場が少なかったんですね。

活動をはじめてからも、 ずっといろいろあるよ。 特に始めた当初は、 悪口を面と向かって言われるとか、 あからさまな嫌悪をむけられる状況に直面したり。 音響担当の人にも「なんのためにこのパーティーやってんの?」とか言われちゃったり。

音響などのテック側も男性の方が多いですからね。

そういった、 そもそもが平等ではないシチュエーションにたくさん遭遇してきたから、 Chica Gangはコレクティブとして、 女性やLGBTQ+の人にとって、 安全な場所をつくっていこうって決めたんだ。

時間がかかっても。 Chica Gangのパーティーについて教えて。 どういうところにこだわっている?

まず、 ブッキング。 アンダーグラウンドな音楽が大好きだから、 常に最新のサウンドや実験的なサウンドを提供できるように、 かつインクルーシブな場にするためにさまざまなジェンダーアイデンティティを持ったアーティストに声をかけてる。

インクルーシブで安全な場づくりって難しいですよね、 ジェンダーアイデンティティがマイノリティ=パーティーへの価値観がはまる、 というわけではない。

アーティスト本人にわざわざ「あなたはゲイですか?」とは聞くべきことではないし、 かつ「安全な空間をつくりたいと考える自分たちと、 同じ価値観を持っている」っていうところかな。 そこを共有できるアーティストに出演してもらってる。

Chica Gangの2人はどういうスタンス?

私たちは、 インターセクショナル*なフェミニストだという自認。 だから、 パーティーもそれが反映されているべきだと思っている。
なので、 必然的に、 アーティストのキュレーションは、 あらゆるコミュニティ、 あらゆる人種、 あらゆる性別を代表する人たちであるべきと考えてすすめています。

*アイデンティティにおける複数の要因が組み合わさることによって、 人が体験する差別や抑圧はそれぞれ独自のものであることを理解し、 認めること。 要因には、 人種、 階級、 宗教、 性別、 性自認、 性的志向、 身体能力、 身体的外観、 などが含まれる。 近年はマイノリティにおいても特に焦点の当たらない差別・抑圧をうける当事者を可視化するために用いられる概念。

なるほど。 そんな2人がおすすめするクラブって、 マドリードでありますか?

クラブではないんだけど、 チェックして欲しいのは、 マドリードの「CULPA」、 「MARICXS」あたりのパーティー。

ちなみに、 スペインにも「シエスタ」と呼ばれる昼寝の文化があるけど、 シエスタしてから夜遊びすると、 やっぱり朝まで元気でいられるもの?

実は私、 シエスタをほとんどしたことなくて。

あら!

職業柄日中に寝るから、 起きたらもうシエスタの時間は終わってるという…(笑)。 でも、 シエスタをしてから遊びに行くと、 夜も元気に遊べると思うよ!

前にスペインに行ったときに、 地元の高校生らは友だちと空き家でDJパーティーをしているって聞いたんだけど、 本当?

うん、 まさにスペインだね。 皆、 若いころからパーティーに行きはじめて、 14歳くらいから1年に1回くらいはパーティーを主催するようになる。

14歳!

16歳のころに初めてナイトクラブに行ったのを覚えてる。 クラブとかバーには15、 16歳で出入りするのがわりと普通かも。 お酒を飲んで踊ったりするし…。 親には友だちの家に遊びに行く、 って嘘つくんだけどね、 もちろん(笑)

親への言い訳は世界共通だ(笑)

あとは、 夏には伝統的な街のお祭りも開かれて、 みんなで路上で歌って踊ってお酒を飲んでお祝いする1週間があるんだよね。 そういうのもあって、 “お祝いの精神”みたいなのは小さい頃から備わっていくのかも。

歌って踊れば腹が減る、 ということで、 おすすめのクラブ飯なんかがあれば教えて欲しい。 えーと、 クラブ行く前・行った後に食べるご飯ね。

クラブに行くときは、 何時間も前に集合してお酒を飲んで、 ディナーをしてから行くことが多いよ。 マドリードには美味しいアジア料理レストランがたくさんあるから、 アジア料理を食べることが多いかも。
あ、 あと「アントン・マルティン市場」。 マドリードでは、 メルカドと呼ばれる市場の中にレストランがあるんだけど、 そこのイタリアンはほんっとに美味しいから、 100パーセントでおすすめしちゃう!

いいねえ、 イタリアン大好き。 休みの日はなにしてる?

友だちとご飯に行ったり、 飲みに行ったり、 街をブラブラしてることも多いかな。 映画館やクラブ、 音楽イベントやファッションイベントに行くこともあるし。

Chica Gangの2人やパーティー仲間が行くカルチャースポット、 知りたい。

「Casa Antillon」と「LA MOSCA」。 ギャラリースペースはいいよ。 あとは「La Casa Encendida」。 ここはいろんなイベントをやっていておもしろいスポット。

ありがとう!そういえばさ、 Chica Gangは、 パーティーのほかにも、 若い女の子たちに音楽に親しみを持ってもらうために「BAMBAM」というラジオ番組もやっているよね。

BAMBAMは、 さっきのスポット「La Casa Encendida」と、 アーティストのSilvia Bianchi(シルヴィア・ビアンキ)と一緒にやっているプロジェクトなんだ。 ラジオ番組では、 マドリード周辺で活動するアーティストに自身の経験についてインタビューしたり。

へえー!マドリードのガールズたちが音楽をはじめやすい、 より続けていける環境をつくっているんだね。

マドリードの音楽シーンをもっとインクルーシブで、 かつ女の子が音楽でお金を稼ぐことができるようにしたい。 500人の観客に自分の音楽やDJプレイを見てもらうのは、 本当に大変なことだよね。 Chica Gangは5年間音楽活動をしてきて、 それでもまだ生活できない時だってあるんだけど、 多くの男性DJはそれで生活している。 それはなんで?って。

パーティーシーンがインクルーシブになる流れでも、 マネタイズの部分はまだまだだと聞きます。

私たちは、 音楽シーンを成長させるために働きかける必要がある。 Chica Gangのゴールは、 音楽に関わる女の子たちが、 音楽で生活できる機会を持てるようにすること。

Chica Gang/チカ・ギャング

2017年にスペイン、 マドリードで結成されたDJデュオ。 メンバーはRocíoとAlbalの2人。
音楽シーンにおいて、 女性とLGBTQ+のコミュニティに安全な場所をつくることを目的に、 クラブにてパーティーをオーガナイズしている。

マドリードの主要なクラブでプレイするほか、 バルセロナやロンドンのコレクティブとのコラボレーションも積極的におこなっている。 2021年にバルセロナで開催されたBoiler Room Festivalのプログラム中の一晩をキュレーションし、 自身もDJとして出演。

ラジオ番組「BAMBAM」では、 企画とパーソナリティを務め、 女性が音楽アーティストとして自由に活動できるよう働きかけている。

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All Images:Chica Gang
Words:Ayumi Sugiura(HEAPS)