「7インチの小さめのレコード、2曲入り」。半透明レコード盤にカラフルなマーブル模様がシグネチャー。アナログレコードの新たな購買層に、レコードの針を落とすようにピンポイントで響いた。アナログレコードを専門にする、インディーズレコードレーベル「Greenway Records(グリーンウェイ・レコーズ)」。

会計士から振り切った転職、ブルックリンにてゼロからの立ち上げ。わずか3年で38のバンドと契約し、世界各地にディストリビュートするまでに成長させたのが、オーナーであるHarry Portnof(31/以下Harry)。今でも、好きなバンドを見つけて契約するところからデザインまでを行う彼の、仕事まわりのスポットをぐるりと回していこう。デザインのアイデアを掘り出すレコードショップから、息抜きスポット、打ち合わせ場所にも使用する“スピークイージー・レコードストア”、最近できたベニューのイチ押し、等。

「これからのバンド」と「2曲入り7インチ」の相性

アナログレコード人気の“再熱”。2012年頃からじわじわと注目を集めてきたが、どうやら一過性のトレンドではないようだ。「アップデートされたアナログレコードの世界」が育っている。

ブルックリンを拠点に、主にガレージロックやサイケデリックロックのインディーズのレコードレーベルGreenway Recordsを運営するHarryも、その開拓者の1人。インディーズの粗さや熱量をビジュアルで表現する手腕には定評がある。

Harry Portnof
What analogue means to you?(あなたにとって、アナログとは?)

“アナログは、あらゆるものの、もっとも“ピュア(純粋)”な形だと思う。”
“Analogue is the purest version of something. ”

現在はフルアルバムを作るが、創始した当時は“7インチのレコードに2曲入り”のみを製作して販売。バンドにとってはバン移動の多いツアー中のライブ物販に小さなレコードは適していて、ライブを見た客にとっては気軽に買える価格のミニマルな1枚 。「これからのバンド」と「人気曲だけを入れた小さいレコード」は、相性が良かった。

「24時間、インターネットにつきっきりだった」と、バンドの音を届けるべき小さくも熱いコミュニティにリーチできた話にも触れる。「SNSを正しく使えば、ガレージロックを愛する人達を見つけ出して、Greenway Recordsのレコードを彼らの目に触れさせることができる」。各盤ごとに「製作は100枚程度のみ」。この少量生産が限定品としての価値を生み、アナログレコードのファンの間で小さくも確かな拡散を起こす。「インターネットを通じて、ファンたちの連帯感もどんどん醸成している」。

コアなファンが300、400、500人と膨らむ頃には、インディペンデントアーティストへのサービスをグローバルに展開するSony傘下の「The Orchard」との提携で、海外への販売網も手に入れた。「自分のウェブサイトに載せて販売するだけだったのに、レコードを世界各地に届けられるようになったんだ。今や世界各地に仲間がいる。皆、インディーのアーティストをサポートすることに熱心。誰が次のThe Black Keysになるかは、わからないからね」

1、「ありきたりなものは出せない」デザインのインスピレーション、「Rough Trade」

 契約するバンドや製作する盤が増えれば、バンドと二人三脚で行うデザインの数も増える。独立系のインディーズレーベルである以上、「ありきたりなレコードは出せない」。コストを気にせず全力投球するという彼のアイデア源は、1976年に英国で創立された伝説的インディペンデント・レコードレーベル「Rough Trade」の実店舗。

ブルックリン・ウィリアムズバーグの川沿いのエリアに2階建ての大型店舗を構えている。レコードやCD、カセット、ターンテーブル(オーディオテクニカのターンテーブルも発見)、オーディオ機器、Tシャツや音楽関連グッズを幅広く取りそろえている。

Rough Tradeを訪れるのは、 レコードデザインのインスピレーションを探している時。「レコードジャケットを眺めていくんだ。“え、こんなデザインやってもいいんだ”っていう発見がアイデアになる」。必ずチェックする棚は「サイケデリック」。この日チェックしていたのは、オーストラリア出身のロックバンド「King Gizzard & the Lizard Wizard」と日本のサイケデリックロックバンド「幾何学模様」のアルバムジャケット。「彼ら(幾何学模様)は、何回も見たことある。すごくいいバンド」。Rough Tradeでは、Greenway Recordsのレコードも扱っている。

Rough Trade NYC

64 N 9th St, Brooklyn, NY 11249

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2、打ち合わせ場所、秘密の2階。アパート真向かいのスピークイージー「BierWax」

音楽のバックグラウンドを持っていなかったHarryは、レーベル立ち上げ当初は知らないことにぶつかることもしばしば。「とにかく体当たりでレーベルの人に電話して聞いて。一つひとつクリアにしていった」と、運営面でのDIY精神も明かす。最近、音楽関係者との打ち合わせにも使用しているというバーがアパートと同じ通りにあるのだと案内してくれた。

「BierWax」、5,000枚以上のレコード盤と、厳選されたニューヨーク州や他州のクラフトビールを取りそろえたバーだ。オーナーは、ヒップホップ関連レコードのコレクターで、シーンのパイプも強い人。ほぼ毎日、ローカルのDJを招いたイベントを店内で開催している。

「時々、Greenway Recordsのレコードもかけてくれる。お客さんは今聴いている音楽が、通りを少し行ったところ(Harryのアパート)にあるレーベル発だとは思いもしないよね。最近、ビール醸造のカルチャーが盛り上がっているじゃん?自宅のガレージで作ったりさ。それと同じで、レコードだってその辺で作られている。真のローカルっていったところかな」。音楽関係者との打ち合わせ場所にBierWaxを指定することも多い。レコードプレス工場の担当者とここでミーティングをすることもある。

2階には秘密のレコードストアがあるらしい。「“スピークイージー(※注)・レコードストア”だね。地元レーベルのレコードがたくさんある。バンドやDJが押しかけて、寝泊まりすることもあるんだ」

(※注)スピークイージー

BierWax

556 Vanderbilt Ave, Brooklyn, NY 11238

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3、頭を使う日もそうでない日も。レコードによく似た甘いやつ「Doughnut Plant」

行きつけのバーも音楽絡みだが、他にも「一時期はハマりすぎて通い詰めだった」場所がある。1994年にニューヨークで創業されたドーナツ屋「Doughnut Plant」だ。創業者が自身の祖父のレシピをもとに、自然素材だけでつくるオリジナルのハンドメイドドーナツを考案。

Harryの行きつけDoughnut Plantは、近所の店舗。取材日に頼んだのは、「ワイルドブルーベリー」に「コーヒーケーキ」「キャロットケーキ」ヴァローナチョコレートがたっぷり入った「ブルックリン・ブラックアウト」、王冠の形の「キングケーキ」、ドーナツ史上初の味「クリームブリュレ」。お気に入りは?「ブラック・アウトも美味しいし、コーヒーケーキも美味しいし、ブルーベリーも美味しい(笑)」

Doughnut Plant

245 Flatbush Ave, Brooklyn, NY 11217

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4、「いいサウンドシステムを持っているかどうか」。最近できたオススメのライブハウス

今では週にだいたい20曲ほどが世界各国からGreenway Recordsのもとに送られてくる。「気に入ったバンドには、ニューヨーク近郊でのライブの予定はないか聞く。ライブを観て、本人と話して、本気度を確認してから契約を決める」。なので、週に3、4度はライブハウスに足を運ぶ生活は変わらない。もちろん、最新バンドもチェックする。

ライブハウスの良し悪しの基準は、「いいサウンドシステムを持っているかどうか。クソみたいな音がする所や、音を妥協しなければいけないようなライブハウスは、バンドにとってもたのしいライブにならないから」というHarryの行きつけのライブハウスを聞いてみた。

The Sultan Room

234 Starr St, Brooklyn, NY 11237

2019年にブルックリンのブシュウィック地区にできた新しいライブハウス。「ここ、大好きなんだ。最近できたなかで、正直いって一番いいライブハウスだと思う。ステージ後ろに照明の装飾があって、これがすごくきれいなんだよ。このライブハウスのアイコンになっていると思う」

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Baby’s Alright

146 Broadway, Brooklyn, NY 11211

ブルックリンのウィリアムズバーグ地区にある、バー兼レストラン兼ライブハウス。地元インディーバンドから、インターナショナルアクト(ロンドン発日本人バンド「ボー・ニンゲン」も出演済み)までが、ステージにあがる。

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The Broadway

1268 Broadway, Brooklyn, NY 11221

2019年、ブルックリンのブシュウィック地区にオープンした小さなライブハウス。ツアー中の若手バンドたちが多く出演する。

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Rough Trade NYC

64 N 9th St, Brooklyn, NY 11249

Harryの行きつけレコードショップ、Rough Tradeには、ベテランミュージシャン(BlondieやOasisのLiam Gallagher)から、若手インディーバンド勢までがプレイするライブスペースもある。「ニューヨークの“ベスト・ライブベニュー”の一つ。サウンドも最高だし、フロアの規模もちょうどいい(キャパは250人)。レコードストア内にあるっていうのもすごくクールだよね」。

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Harry Portnof / Greenway Records

ニューヨーク・ブルックリンで展開する、インディーズ・レコードレーベルGreenway Recordsの創立者。ニューヨーク出身。会計士として働いていたが、2016年、昔からのレコード好き・音楽好きが高じて、単身Greenway Recordsをゼロから立ち上げた。ライブ会場へ出向いてのタレントの発掘から契約、レコード盤デザイン制作、流通・販売までを1人でこなす。好きな音楽ジャンルは、サイケデリック・ロック。

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(Greenway Records)

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(Harry)

Harryのオリジナルプレイリスト

“Subterranean Homesick Blues” by Bob Dylan
プレイリストを聞く限り、根っからのロック好きがうかがえるHarryが選ぶ、これぞニューヨーク!な1曲は、ニューヨークが生んだ、反逆の吟遊詩人ボブ・ディランの“Subterranean Homesick Blues”。歌詞が書かれた画用紙1枚1枚落としていくディランの飄々とした表情が癖になるミュージックビデオがいい。

Photos:Kohei Kawashima
Interview:Chiyo Yamauchi
Text&Edit:HEAPS