顔に最も近いネクタイは、TPOに合わせ印象を簡単にガラリと変えることができます。音を拾う最先端の場にあって、最もリーズナブル&大胆に音の姿を変えることができるパーツ。それがヘッドシェル。顔とTPOに合わせるネクタイのように、ヘッドシェルは、カートリッジや音楽ソース、ひいてはあなたのTPOに合った音を追求できる重要アイテムなのです。

ヘッドシェルとは

レコードプレーヤーのピックアップ部分

カートリッジを直接取り付けるヘッドシェル。カートリッジの振動を受け止めるだけでなく、自らの振動特性をカートリッジ本体に返します。この両者が相まみえた末の音の共演。それを私達は耳にしているのです。
しかもこれは信号の増幅前の段階で起きています。ヘッドシェルは、音の入り口に関わっているパーツ。再生システム全体に大きな影響を与える重要な位置にあるのです。

ヘッドシェルの選び方

レコードプレーヤーやカートリッジはもちろんですが、使うヘッドシェルによってもレコードの音質は変化します。中でも重要な要素は、ヘッドシェルの「重量」と「素材」です。以下ではヘッドシェルの選び方とあわせて、それぞれの詳細をご説明します。

重量

ヘッドシェルの重量は、レコードの音質を大きく左右します。

例えば重いヘッドシェルを取り付けると、当然トーンアーム全体の重量も大きくなります。そのため、レコードの音もしっかりとした印象の締まりのある音になると言われています。

AT-LH18H

ヘッドシェル

AT-LH18H

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対する軽いヘッドシェルは、使うカートリッジの選択肢を増やせるのが特徴です。トーンアームには許容重量(※ヘッドシェルとカートリッジの重さを合わせた重量)があり、低価格帯のレコードプレーヤーではヘッドシェルの重量がネックになる傾向があります。将来的にカートリッジを交換することを考慮して、軽いヘッドシェルを選ぶのも一つの手です。

AT-LH11H

ヘッドシェル

AT-LH11H

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ここで注意しておきたいのが、重要なのはカートリッジを装着したヘッドシェルの質量がそのトーンアームの対応範囲であるという点です。ヘッドシェルを選ぶときには、カートリッジとの合計質量とトーンアーム対応質量とのバランスを意識して決めると良いでしょう。

素材

ことが「振動」であるだけに、ヘッドシェルを選ぶときにはその振動特性に着目することが不可欠です。その際にポイントとなるのが「重量」と「素材」です。

重量があり、硬い材質のヘッドシェルでは、カートリッジやトーンアームの振動を抑制します。いわば「動くものだけが動く」という環境に近づき、原音忠実度が高まります。しまりがよく、スピードのある輪郭のはっきりした音質傾向になります。
こうした製品のほとんどは金属製です。

AT-LH18_OCC

ヘッドシェル

AT-LH18_OCC

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一方、重量を追求せず、柔らかめの材質のヘッドシェルなら、カートリッジの持つ固有振動が開放に向かいます。音楽の余韻やエアが豊かになり、聞き疲れのしない優しい音質になる傾向があります。
これには、木や樹脂が使われた製品があります。

もっとも、完全に一方の方向に寄せることはできません。どちらの方向にもカートリッジ側が持つ音の傾向との相互作用があるため、最終的にはこの二つの傾向が混じり合いながら音の世界が作り出されます。

ここまで読んだあなたなら、こう考えるかもしれません。
「重く、硬いヘッドシェルなら、ジャズやロック向き」
「軽めで柔らかいヘッドシェルなら、クラシックやボーカル向き」

確かに、大まかにはこのように分類することができるでしょう。

しかし、音楽はまさに底が深いところが魅力。
例えば、激しくポップな演奏故に「楽壇の帝王」と呼ばれたクラシック指揮者カラヤンは、曲によってはジャズやロック向きのハイスピードなシステムが合っていたりします。
ジャズにクラシックの素養を持ち込み、内省的な演奏で日本でも人気のジャズピアニスト、ビル・エヴァンスの表現は、刺激感のない穏やかな音が似合います。

まとめ

数千円からラインナップされるヘッドシェルは、気軽にとっかえひっかえできるのが利点。
最後に決めるのはあなたの「好み」。
ただ、その好みも多分に「気分屋」であることはあなたも自覚されているでしょう。
その時どきの自分の気分に応じて音を変えることができる。また、逆に気分を変えるために音を変えることができる。
今の音に飽きたら、ヘッドシェル交換の出番。お気に入りのカートリッジの新しい顔が見えてきます。

Words:Kikuchiyo KG